74 神の本音
馬が走り、俺たちの乗る荷馬車がガタガタと揺れる。
荷馬車の入り口の隙間から見えるわずかな光の先だけが現在位置を掴む手掛かりになる。
かれこれ1、2時間ほど揺られ、今までの戦いの疲労からか睡魔が襲ってくる。周りを見るとみんな疲れからか眠っていた。
アミュラもガクトの太ももを枕にして寝ている。言い忘れていたが、ファンロンも金の玉の形状でアミュラの懐に身を隠している。あと少しで着くのだが俺も体の疲労には耐えられず眠ってしまう。
ふとまた夢の中で目が覚めた。青白い光が俺の目の前に照り光り、その光は私の意識の中で語り始める。
「ケルト、聞こえますか?」
ん? ああ、またいつもの声か。ああ、聞こえているさ。
今日は一体何の用事なんだろうか?
「今回の一件、自身の仕事とは関係のないところで異種族の民と村を守り、神子を邪神の手中に向かう事を阻止した事、心から感謝しています。そして、貴方はそれを誇りに思いなさい」
何処のどなたか分からない人? だけど俺を純粋に褒めてくれるのは貴方だけだよ。純粋に嬉しい。
「うふふ……それは良かった」
……やっぱり聞こえてますよね?
「ええ♪ バッチリ聞こえてる。貴方も慣れてきたみたいね」
うーん、慣れたと言うかなんと言うか……俺、女の子になったりとか色々経験しちゃったから新しい事の飲み込みが早くなった感じはある。
「それはこの世界においてとても能力がある証拠です。適応力があると言うのは強みになるのですから」
適応しすぎて、元が男だった事を忘れてしまいそうだよ。
それはそうとして、会話ができると知ったんだ。貴方の事は何て呼べば良いのか……
「呼び名に困っているのであるなら、私の事はマーテルとお呼びなさい」
じゃあ、マーテルさん。俺はこれからどうなるんだ?
「ケテルネスは貴方が思っている以上に悪い人ではありません。ただ、頑張り過ぎると言いますか……ストイックな性格なので例え、民衆から嫌われていても民のためならそれを痛まないタイプの性格です。どうか、怖がらないでお互い話し合えば必ず光の道は通じ合いましょう」
つまり、ケテルネスは敵じゃ無い?
「思い出してください、あの時のケテルネスの力を。貴方の仲間が勇敢に立ち向かい囮りとなりました。普通なら神相手に倒されて当たり前です。でも、彼は力を手にして戻ってきた。それはどうしてなのか……きっと彼の口から語られる事でしょう」
ケテルネス……一体何を考えてるんだ。
「あ、そうだそうだ。貴方に新しい能力を解放させたから後で確認しておいてね。もう無意識に使ってるみたいだけど」
あ! そう言えば、能力確認するの忘れてた。一体どんな能力を得たのだろうか。
「では、そろそろ眠りから覚める時です。ケルト、大丈夫です。貴方の辿る道は間違ってる事は有りません。それでは行きなさい」
はい、行ってきますマーテルさん!!
「ふふ……行ってらっしゃい」
そのままこの精神世界に光が広がってゆく。段々意識が鮮明になって行くと男の声が聞こえた……
「……い……おい……おい!! お前ら!! 城についたぞ!! 起きて出るんだ!!」
起き上がると荷馬車は止まっており、外を見るとガラクリオットの城の前にいた。周りを見ると今回はみんな寝ていたようでそれぞれが兵士の怒号で起き上がる。
「……あん? もう着いたのかよ……あと少し寝てたかったぜ」
ユシリズがボリボリと頭を掻きながら大きな欠伸をする。
「今からケテルネス様の前に行くのだからシャキッとせんか!!」
全員が荷馬車から引っ張り出され、外へと出されると兵士達に囲まれながら城内へと入る。
案内された場所は前に戦いが起こった神の玉座の間である。
しかし、まだ神は来ていなかった。緊張感がある中で俺たちは静かに玉座の前で立って待機していた。 少し時間が経ち、後ろの大きなドアが開かれる。
振り向くとそこには堂々とした面持ちでケテルネスが歩いてきた。俺たちは静かに道を開けてケテルネスを玉座へと導く。ケテルネスが来てから俺たちは自然と姿勢が正しくなる。やはり見ているだけで体が緊張で固くなってしまう。この場にいる全員がそう思っているだろう。
ケテルネスは徐ろに椅子に腰をかけると指を一回鳴らす。
するとさらに後ろからあわただしくメイドがトレイに赤色の飲み物が入ったジョッキ程の大きさのグラスを運んでくる。そのメイドはケテルネスの横に行くと椅子の横の小さなテーブルにコースターを敷いて、グラスにストローを刺して置いた。
しかし、ケテルネスはそれを持ち上げるとストローを抜き、腰に手を当ててグラスに口をつけてグイっとそれを飲み始める。
喉を鳴らしながらどんどんグラスにある飲み物はなくなっていく。そして。空になった途端、ケテルネスは口をグラスから離す。
「ぷっはぁぁぁああ!!!! 面倒ごと終わりのオレンジュースは体に染みるねぇ~~はぁぁ……最高……マロン!! おかわり!!」
「だ……だめですよケテルネス様!! ブラッドオレンジュースは血糖値が上がりやすいんですから1日一本までです!!」
「良いじゃねぇかよぉ~~せっかくめんどう事が一つ消えたんだからさぁ~~なぁあ1本だけ!!」
「だ・め・で・す!! それにお客様がお待ちではないですか!!」
酔っぱらいのようにメイドに肩を組んでだる絡みをするケテルネスを振り払ってメイドは早々とこの空間から出て行ってしまつた。
この間、俺たちはあっけにとられたかのような顔になっていた。
「……ちっ、何だよ……せっかく仕事が珍しく減ったのによお……」
「あ……あのぅ……」
俺が恐る恐る声をかけると細い目をこちらに向けて不機嫌なまなざしを向ける。それに少し戸惑ってしまうが話を進める。
「私たちをどうする気ですか?」
「……一つ言わなくてはならないことがある」
「?」
「あーしの部下であり、裏切り者を……倒したみたいだな」
「ファフネリオンの事でしょうか?」
「言わんでもわかるだろう? 本当は部下が犯した責任はあーしが被るはずだったがお前らがやってくれたおかげであーしのめんどくさい仕事が減った。それに感謝を言うのが礼儀だ」
「は……はぁ……」
前まで喧嘩腰だった相手が急に冷静に感謝するのはかなり不思議な感覚だった。俺も訳が分からないためへんな返ししかできなかった。
「だが……まだ一つだけ問題がある。そのガキについてだ」
そういうとアミュラの方を指さす。指されたアミュラは咄嗟にガクトの後ろに隠れる。
「アミュラを渡せってこと?」
「どうだ? 渡す気になったか?」
「どうして、あなたはアミュラの事が欲しいの?」
「それはだな……聞きたいか?」
「……もちろんよ」
「じゃあ教えてやる。単に危険だからだ」
「危険?」
「魔族の神が血眼になって欲しがっているものがある。それは、『不死の酒』。そして、その中のベースとして使われるのが『神子の竜血』と呼ばれるものだ。神子の竜血は幾種の竜の血をたぎらせると言う異質な血液……その血液は異常なまでのエネルギーがあり、不死の力も解放されると言われる。そんな血液を持つのが今そこにいるガキと言うわけだ」
「じゃあ、ファフネリオンもそのために?」
「そうだろうな。不死の酒を作るためにそのガキは狙われる。そいつがいるだけで危ないんだ。だから、心優しいあーしらが保護してやろうって話だ」
「……もし、あんたに渡したらこの子はどうなるの?」
「……牢にぶち込んで、このガキの所在を隠蔽する」
「何ですって!?」
「安心しろ、飯も三食食わせる。それに、暇つぶしも与えてやる。食って寝てるだけで幸せだろ」
「そんなの家畜と変わらないじゃない!!」
「……あたり前だろうが」
急にケテルネスの表情が変わる。
「そいつがいるから村も燃えて、あーしが他の国の神からあーだこーだ言われ、ご覧の通り魔族も動き出してんだ!! こんな血のせいで厄介視されてんだ!! こちとらなぁ!! 民に嫌われても守るために演技して、国を強く、神の威厳守ってんだよ!! こんな一人のために優しくしてられねーんだ!! 生かしてるやるだけでも感謝しろ!!」
顔を真っ赤にして椅子から立ち上がり、怒鳴り散らした彼女の顔に仲間たちは驚くだけだった。ただ、アミュラは静かに目線を落とす。
俺はその言葉に苛立ちなどは感じなかった。ただふと……一歩踏み出してケテルネスに体が勝手に近づいていこうとする。その時、何をしようとしたのか意識がはっきりせず分からなかったが誰かの腕によって遮られて意識を取り戻す。
俺の歩みを遮ったのはガクトだった。
「ケテルネス、言い過ぎだ。あんたの思いは分かる。だが、こんな異国の人間に怒鳴り散らしたところで何もならない。それに、うちのリーダーは何を言われても拒否する」
「ガクト……あんた……」
「ケルトも冷静になれ」
「……ごめん」
ケテルネスはまた徐ろに椅子に座り、足を組みなおす。
「ケルト」
「はい」
「あなたの言い分を教えなさい」
「私は……」
今までのアミュラの扱いを思い出す。故郷の村を燃やされ、同じ竜人から迫害され、最後に言い渡されたのは家畜のような生活。アミュラには自由がなかった。そして、ケテルネスのあの言葉……
その全てを整理した。そして、俺は口を開く。
「私は! アミュラをあなたには渡しません。アミュラには自由にしてほしい。例えそれが異質な血を持っていたものだとしても彼女は一人の生きている生命なんだ! 彼女も他の人たちと同じく笑って、泣いて、考えて、喜んで、幸せを感じることができる生命なんだ!! その感情を色んな経験をしてもっと広げてほしいと思っている。一人に優しくしてられないですって? 私はそれに異議を唱える!! 選ばれし血を持った少女すら優しくできない人に自国の民なんて愛することなんてできないわ!! 彼女が悪者に狙われるなら私が全力で守って見せる。だから……私たちが彼女を保護するわ」
「……」
彼女は俺の言葉を聞いてから少しの沈黙の後に言葉を発した。
「本心か?」
「ええ」
「敵が多くの軍勢を引き連れてきても守れるのか」
「ぶっ飛ばしてやるわ」
「……わかった。その代わり、あーしは責任を二度と追わんぞ? 良いか?」
「もう責任は私にあるわ。気にしないで」
「そう……」
ケテルネスは座りながらプルプルと体が震えている。気に障るようなことは結構言ったのだが、怒って何をしてくるか分からなかったため少しだけ構える。
すると急に立ち上がり両手を挙げて笑顔になった。
「いゃ…………たぁあああああああああ!!!!!! これで責任を負わなくて済むーー!!」
……へ?
「よし! ほんとにいいんだな!? お前たちに任せて!?」
「あ、えと、はい……」
「よしよし!! 久しぶりにでかい仕事が終わったぞ!! どうだ、今夜親睦を深めるために一緒に食事をしないか?」
「……えっと」
「食事まで客室にいるがよい、案内の者を遣わそう」
ケテルネスが手を2回ほど鳴らすと竜人族のメイドが2名部屋に入ってくる。
「この者たちを客室に案内してやれ」
「かしこまりました。皆様私たちについてきて下さい」
淡々と話が進み、この状況に様子を一切変えていないのはガクトだけだった。ガクト以外の仲間と私全員はこう思ったに違いない。
(この神……マジでよく分からん……)





