73 ケテルネス到着
俺たちはこの村、そしてアミュラをファフネリオンから守り抜いた。村はボロボロになってしまったが幸いにも怪我人だけで村人達から死亡者は出ていない。
焼け焦げてしまった家々を眺めながら、皆の待つ村の外の平地へファンロンと向かった。着く頃にはみんな安全に待機していたようなので私とファンロンが戻ってきたことにすぐに気がつくと全員が出迎えてくれた。
「ケルト! ファンロン! おーい!! 黒龍は倒せたかーー?」
ユシリズが地面を蹴って起き上がり、俺たちに向けて手を振る。
「みんなーーただいまーー!! 黒龍はもう大丈夫、ファンロンが倒してくれました!!」
「我はとどめを刺しただけだ。ケルトの力が無くては勝つ事は不可能だった。恩にきる」
「いやーーそれほどでもーー♪ えへへ♪ でも、ファンロンがいなきゃすぐに倒すことなんて出来なかったからこちらこそお礼するね」
「ふむ」
「おお! 来たみたいやな!」
横からダンがアミュラを連れてやってきた。
アミュラは私とファンロンを見てホッとしたのか目に涙を浮かべて俺の方へ歩み寄ってくる。
そしてそのまま俺の胸へと抱きつく。
「ケルトォ!! 良かったぁぁぁぁぁ!! グルグルもぉおお!!!!」
そう言ってファンロンの身体にも小柄な体で抱きついた。
「神子よ、我は無事だ。それと……感謝しているぞ」
ファンロンは大きな手でアミュラの小さな頭を優しく撫でた。その姿はまるで子を愛でる親のようだった。
「そうだ! ノイは? ノイの様子は?」
「ノイ君なら大丈夫やで。こっちに布敷いて寝かせてる」
近くにあった岩陰の後ろにノイが仰向けになってスヤスヤと寝息の音を出しながら寝ていた。
俺が近づいていくと寝返りをうつ。そして、とうとう目を開けた。
「う……ん……ん? あれ? ここは?」
寝ぼけ眼の目を擦りながらゆっくりと起き上がる。
そして、周りには俺含め仲間達全員が自分を見ていた事に驚いている。
「あれ!? あの、僕は!?」
「良かったーー!!!!」
そう言って真っ先にノイに抱きついたのはアミュラだった。
「ア、アミュラ……ケルトに、みんな、ファフネリオンは?
か、母ちゃんは!?」
「ノイ、大丈夫。ファフネリオンはみんなで倒したよ。それにノイのお母さんも無事だから安心して?」
「そうなんだ……良かった……アミュラ!」
「ふぇ?」
「僕の名前はノイって言うんだ。ごめん、今まで名前、恥ずかしくて言えなかった。僕、アミュラが家から出て行ってからお前の事が心配でしょうがなかった。みんながお前のこと悪く言うから僕がお前を守ろうと思ってずっと違うよって言い続けたけど誰もお前の事、信じようとしなかった。だから、お前に何かあったらまずいと思ってずっと村から抜け出して逃げ入ったマダンに通ってお前の様子を毎日見てたんだ。村人がとうとうアミュラを国に差し出すと言った時には慌ててお前に伝えたんだ。そして、その次の日に見に行ったら居なくなってたからうまく逃げたんだろうって……でもずっと母ちゃんと一緒に心配してたんだ……でも、何も出来なかった……ごめん、ごめんよ」
ノイは初めて涙を俺たちに見せた。そして、涙を流してながら今度はアミュラを優しく自ら抱きしめた。
目からこぼれ落ちるその涙が頬を伝い、乾いた地面に落ちる。落ちる寸前の涙をアミュラは手で受け止め、その手をノイの顔に手をかけ、涙をふいてやる。
「アミュラ?」
「……ノイ、私……嬉しい!」
アミュラは暖かく、輝いた笑顔をノイに向けるとノイの頬に流れる涙を塞き止めるようにキスをした。
不意にされたその行為にノイは顔中が赤くなっていた。
それを遠くで見ていた我々は……
(ユシリズ)「良いよなぁ……可愛らしい」
(アマ)「うらやま」
(ダン)「青春やなぁ〜〜若いなぁ〜〜」
(ユウビス)「先越された……」
(ガクト)「ふ……青春だな……」
とまぁこんな感じ……
「……ケルト」
「ん? どうしたのファンロン」
「我耳から大勢の足音がこちらに向かってくるのが聞こえてくる。それに巨大なエネルギー……どうやらそろそろ来るようだ」
「やっと来たのね、ケテルネス……」
荒地の彼方から無数の足音がどんどん大きくなっている。
騎乗兵達がゾロゾロと大軍を揃えてやって来た。後ろには歩兵を積んだ馬車と明らかに大きく、豪華で煌びやかな馬車も引き連れている。あの自己主張の仕方はきっと神の荷馬車であろう。
戦争に向かうかの如く兵がこちらへと迫り、馬の蹄が大地を蹴って砂埃が舞っている。
村の近くへと迫ったところで軍勢は一斉に動きを止める。
すると、村の方へと調査に出る者たちと残りの兵はこちらへとやってくると一斉に俺たちを取り囲んだ。
「動くな!! 貴様ら、牢から脱走した者たちだな!?
大人しく我らに従うのだ!!」
1人の兵士がそう叫び、周りの竜兵は長槍を俺たちに向けて構える。
「……ちっ、どうしてもこうなるのかよ……」
「落ち着いてユシリズ、私に任せ……」
そう言いかけた時、兵士の後ろから凄まじい気配が近づいてくるのを感じる。
「そこをどきな」
「ケ、ケテルネス様!! 失礼しました!!」
そう言いながら兵士は道を開ける。そこからゆっくりと歩いてくる赤い髪とドレス……間違いなくケテルネスだった。
「その様子では……黒龍を倒したと見受ける……御苦労。だが、まだ私たちにもやるべき事があってここへ来たのだ」
「それは村人の保護かしら?」
「ハッハハハハハ!!!! 何を言うか、その神子を探しに来たのだ」
ケテルネスはアミュラに向けてその長い指で指す。
「確かに村人も村も無くなるのは私にとって困る。だが、それはあーしの神である謂わば面子と言う物の為だ。それを貴様らが勝手に果たしてくれた、ただそれだけの事。村人など人間と同様死んでも生殖本能で増やせば良いだけの話だ。問題はそうではない。私は神子である貴様の方が大切なのだ」
「……何度も言うけど良い加減にしなさい。私たちはあんた達みたいな神になんかにアミュラは渡さない」
「ケテルネス様に刃向かうとは貴様ら!!」
「待ちなさい!!」
兵士の後ろから声が聞こえる。そこにいたのは身を隠していた村人達だった。その先頭にいたのは俺が助けた青髪のポニーテールの女性だった。
「その人たちは私たちを、この村を守ってくださったんです!! 貴方ら軍兵は何もしてくれなかったではありませんか!! そんな者たちが私たちの恩人を邪険に扱うなど許しません!! 彼らの方が私たちの立派な神様です!!」
「か……母ちゃん」
「……平民ごときが」
「ケテルネス、もう良いだろ。村人を保護し、早く俺たちを連れて行け」
そう強く前に出たのはガクトである。
「……連れてこい」
「はっ!!」
俺たちはまた、竜兵たちに取り押さえられてしまった。
しかし、まだやる事がある。
「ノイ、お母さんの元に行きなさい」
「でも、ケルト達は!?」
「私達は大丈夫! だから、早く行きなさい。お母さんが心配してるから」
「……」
ノイは無言のまま母親の元へと向かう。
母親はノイの姿を見ると目に涙を溜めながらノイを強く抱きしめる。
良かった。俺は約束を守った。後は野となれ山となれだ。
俺たちが連行用の荷馬車へと乗り込もうとした時、村人達全員が声を上げた。
「ありがとう!! 私達を守ってくれて!!」
「どこの人か分からないけど、貴方達は私たちの神様だーー!!」
「また遊びにこいよー!!」
その村人達の顔は笑顔で溢れていた。
それにノイも母親も続いた。
「ケルトさん!! 息子をありがとうございます!!
どうかご無事で!! どうかアミュラを助けてやってくれ!!」
「ケルトーー!! アミュラを助けてくれーー!!」
「……うん!」
俺は笑顔で手を振り、荷馬車へと乗り込む。村人の声援がどんどんと遠くなっていく。俺たちのやった事はこれで良かった。けど、それを神が許してくれるのだろうか。
その不安な思いも広がりながらこの村を後にした。





