62 マダン到着
「全く、無理するからこう言う事になるんだぞ。ほら、後ろ向いてて」
「ごめんなさい……」
上も下もボロボロになった服で体を隠しながらユウビスの後ろで背中を向けて座る。そう、ユウビスの時間能力で服を戻そうって話になったのだ。
「行くよーーはい!!」
≪発動:【時戻し】≫
ユウビスがケルトの破れた服に触れると、その服が青く光り出す。すると、服がまるで燃えた映像を逆再生しているかのように燃えた箇所がみるみる元通りになっていく。そして1分も経たずに服は穴の開いていない、新品同様へと元通りになった。
≪【時間支配】のスキルにより以下のスキルを獲得≫
スキル名:【時戻し】
種別:応用スキル
効果:一度見た物体の時の流れを戻すことができる。
「はい、終わったよ」
「わ、すごい。元通りだ! ありがと!」
「まぁ、こういうのが俺の仕事だから」
ユウビスは得意げに手で鼻の下をこすってみせる。
「うう……やっと直った……」
「もう二度とお前に炎は使わん……」
アミュラとユシリズはまだ二人して照れてる。もう、可愛いんだから。
「何か、色々あったけど次の場所行こか?」
後ろで見ていたダンが出発を促す。急な魔物の乱入とケルトのラッキースケベを乗り越え、ようやくこの場から出発をした。
この広い荒れ地を5匹の馬が駆け抜けていく。アミュラは俺の後ろに乗り、遠くを見ていた。その目線の先には小さな村が見える。
「あれがアナンタ村?」
「うん、前まではあそこに住んでた」
「お友達はいたの?」
「うん、お世話になってたお家に男の子と男の子のお母さんがいて、友達だった」
「そうなんだね。その子の名前は?」
「分からない。名前教えてくれなかったから」
アミュラは首を横に振ってとても寂しそうな様子をしている。
「アミュラはあの村に戻りたい?」
そう俺が聞くとアミュラは少し考える間を開けた後、一言だけ呟いた。
「あの子の……名前だけ知りたい。私と仲良くしてくれた、助けてくれたあの子の名前……」
その言葉は吹き抜けていく風と村が写る風景と共にまるで流されていくような弱々しさだった。だけど俺はそんな言葉を捕まえるために馬を走らせ続ける。そして、とうとうアミュラの故郷であり、壊滅してしまった里【マダン】へとたどり着いた。まず目に入ってきたのは家が建っていたであろう場所に荒れた木片の塊や藁が焦げて散乱している様だった。
それが一カ所ではない。見渡す限り、焦げて片方が崩れた家、もはや跡形も無い家ばかりだった。田畑はまるで焼き畑農業の後のように焼き捨てられ、残った炭だけが散らかってボロボロになっている。馬を下りて里を歩けば、その里の悲惨さが心に刺さり、死んだ人々の叫びが聞こえてきそうだ。
先頭にはアミュラが立って、いつも竜と一緒に居る場所へと案内してくれる。思えばこんな小さな子がこんな場所で1人でいたなんて考えるとなんてかわいそうなことか。ケルトを含め、全員が気持ちいい思いだけはしていなかっただろう。
アミュラに着いていくとその先にはボロボロの家々の中にまだ原型をとどめている屋根が藁の木造作りの小さな家が見えてきた。その家の前に着くとアミュラは振り向き、その家を指さす。
「ここが家。入って。ただいま」
アミュラが家の中に入って行ったのを見て、俺たちもi続いて入る。中に入ると焼けただれてボロボロになった壁の部屋には丸い小さな焦げたテーブルとその上には丸くてつややかな金の玉が乗せてあるだけで他は特に家具の類いは無かった。
「グルグルただいま、やっぱりここだった」
アミュラはテーブルの上に置いてあった金の玉を両手で持って、笑顔で頬ずりする。
「アミュラ、これがお友達?」
俺は素っ頓狂な顔でこの玉を指さす。
「うん、グルグルは寝てるときは玉になるみたい。何でかは分からないけど」
「持ってみてもいい?」
「うん! 優しくね」
俺はアミュラから玉を優しく受け取る。俺たちからすれば至って普通の金色のたまにしか見えなかったが持ってみるとほのかに暖かさを感じた。この玉に触れるまでは分からなかったけど、玉自身が生きてることを感じる事ができた。
「何か不思議な感じがする」
「俺も持ってみても良いか?」
「じゃあ俺も良いかな?」
「俺にも」
「みんなで持つんか」
ここに居る全員が興味を持ったのか1人ずつ玉をローテーションで触れ始める。皆がある程度触れ終わった後、アミュラは外へ出ようとするのを見かけた。
「アミュラ? どこに行くの?」
「グルグルがきっとお腹空いてるからいつものご飯を取りに行こうかなって」
「ご飯? そういやこいつは何を食べるんだ?」
ユシリズは玉を人差し指でテーブルの上で転がしている。
「前までは村から余ったご飯食べさせてたけど、それができなくなったときは近くの場所にお芋が埋まってる場所があるからそこを掘り起こして食べさせてた」
「でも、1人で行くのは危険だからみんなでアミュラの護衛をしながら手伝って来て。私はこのお友達の見張りとお家の留守番してるから。もし何かあったらそのときはダン、よろしくね」
「任せろ!」
「分かりました。みんなありがとうです。場所はここからかなり近いので大丈夫だと思うけどよろしくです。ケルトも気をつけてて」
「うん! 私は大丈夫! いってらっしゃい!」
俺以外のみんなは家を出て、芋探しへと出かけた。家の中で1人となり静かな時間がやってきた。俺は改めて玉の前に腰を下ろし、部屋全体を見渡す。
「……本当に1人でこんなところにいたのか……かわいそうだけど、凄い子だな」
俺は独り言のようにそう静かに呟き、金の玉を見る。
「どうしてあんな小さい子が苦労しなきゃいけないんだろうね」
俺は玉に向かって独り言を言ってみた。勿論、返答なんてさらさらされるわけ無い、そう思っていた。
「我が討たねばならぬ者、それはこの地を焼いた暗黒の龍である」
「……ん? えっ!? えええええぇぇぇぇ!!!!???? 玉が喋った!!!!????」
突然、玉が淡く輝き出すと初老の男性のような渋めの声で話し始めたのだ。





