58 ガクトの決心
「動くな!!」
兵士たちは俺たちを入り口の前で取り囲み、長槍をこちらに向けて威嚇してくる。
しかし、そんな事で俺たちは動じず歩みを進めた。兵士たちにとってリーチのある武器を持ち、ケルト達よりも多勢であるのに堂々とした面持ちで恐れず進む様子を見てケルトの動きに合わせて距離をとっている。
「ユウビス、お願い」
「おっけい」
<<発動:時間遅延>>
俺たち以外の時間の流れが遅くなり、囲みの兵士を傷つける事なくその囲いから抜け出し、そして時は元に戻る。気がつけば俺たち包囲網から抜け出されていた事に兵士たちは動揺を見せていた。何度も同じように囲まれるがさっきと同じように突破していく。そしてアミュラが拘束されている十字架の横までやってくるとケテルネスと目があった。
「貴様らは何もんだい?」
「私はケルト=シグムント、冤罪のお友達を連れて帰りに来たの。そう言う貴女はケテルネス様でしたっけ」
「あーしの名前を知ってたかよそ者。戯言言う者どもを牢に放り投げとけと言ったんだがこれはどう言うことだ?」
ケテルネスはジロリと細い目で兵士たちに睨みつける。兵士たちは怯えて体が震えていた。すると後ろのケルト達が破壊したドアに猛ダッシュで竜人兵が駆け込んでくる。その顔は汗だくで青ざめた表情だった。
「ケテルネス様〜〜!! た、大変ですぅ!!!! 牢獄の見張り二人が気絶して、不審者どもが逃げ出し……って居るぅぅうう!?」
「どうも☆」
「牢屋の鍵がかかってなかったのかしら?」
「あんな簡単な見張りならなら余裕で掻い潜っちゃうけど?」
「そうかい、それはあーしのきょういくぶそくだったねぇ……うかつだった。じゃあ、詫びに……あーしが直接殺せばよいだけね」
そう言うとケテルネスは手から炎の玉を生み出すと俺達のほうに投げてくる。俺たちは散らばるように避ける。投げられた炎の玉は足元に着弾し、球が割れるとドロドロと粘り気のある液体となって飛び散る。着弾した所はカーペットどころか固められた土の床が綺麗に円形状に溶けて、黒い煙が立つ。
「ま、まじかよ!? 床が溶けたっことは溶岩か!? そんなの聞いてないぜ!!」
「ユシリズ!! 炎が大丈夫だからってうかつにその攻撃に触れちゃダメだからね!! みんなも気を付けて」
俺は目線をケテルネスから外さないようにゆっくりと後ろの深緑の妖刀を引き抜き、ケテルネスに向けて構える。
ケテルネスの攻撃によって、せっかくアミュラの近くに行けたはずだったが、大きく距離を離れてしまっていた。今、一番アミュラに近いのは……ガクトだ。
お! そうだ!! これを機に少し前に考えていた技をやってみよう。成功するかわからないけど、ケテルネスの動きを妨害して、アミュラを救出する方法をこれに賭けることにする。
「神様ーーーー!! こっち向いて!!」
「あーーん?」
俺はわざと相手に戦意を向けるかのように剣をケテルネスに向けて突き付ける構えを取る。俺を見たケテルネスはバカにするかのように鼻で笑う。
「ふーん……この神の力を見せてもあーしに抵抗するか。良い度胸だなぁ」
よし、いい感じにこちらに気を取られたな。
俺はすぐにガクトの方に顔だけ向けて、アイコンタクトを取る。ガクトは俺の目で差した囚われたアミュラの事を察して、首を縦に振る。
よし伝わった、あとは俺だけか。
「抵抗? 違うわよ」
「何?」
「私の目的はこれよ!!」
俺は手を剣に翳す。すると、大気中の空気が剣の刃を中心に一気に集まりだし、強風が螺旋を描いて剣に纏う。
「アミュラ! 動かないでね! ガクト! 遅れちゃだめよ!! さあ走って!!!!」
俺の声と同時にガクトは走り出す。俺に気を取られていたケテルネスがそれに気づくがガクトの方がスタートが早かった。
「そうはさせねぇよ!!」
ケテルネスが再び火球を生み出し、アミュラの元に向かおうとするガクトに向けて投擲を試みようとする。
「こっちだってそうはさせないよ!! 食らえぇぇ!!」
<<発動:【破砕の波紋】>>
俺は大きく剣を振る。そして、その剣に纏っていた強風が剣の振った方向に解き放たれ、振動波となってこの空間にばらまかれた。
振動波はこの部屋を駆け回り、ケテルネスの攻撃を阻んだ。ケテルネスの生み出した炎は暴風によって切り裂かれ、消えてしまう。
「な、この力!?」
そして、1つの振動波がアミュラを拘束していた十字架に当たり、十字架が壊れるとアミュラの拘束も解かれた。そこに駆け付けたガクトがアミュラを体で受け止める。
「大丈夫か?」
アミュラはガクトの方を見つめ、静かに1回首を縦に首を振った。アミュラの顔が少し赤くなっている。
そこに、ガクトに振動波が突っ込んでくる。背中に当たり、ダメージが入ったがガクトのスキル【自己再生】によって傷が癒えていく。
「が、ガクト!? 大丈夫!?」
「ああ……どうやらうちのリーダーが張り切りすぎたみたいだ」
そう、まだ振動波がやむことはなく縦横無尽に駆け巡っている。城兵どころか仲間まで被害を被っており部屋内はパニック状態となっていた。ユシリズたちは攻撃に当たらないように体勢を低くしている。
「おーーい!! ケルト!! てめぇやりすぎだ!! 俺たちも被害を被ってるんだぞ!!」
「……えっと、ごめん☆」
俺は舌をペロッと出す。
「かわいこぶってんじゃねぇ!!」
ユシリズが俺の方を見て、怒号を叫んでいる。どうやら、俺の考えた攻撃は広範囲に及ぶ全体攻撃系だったようだ。しかも、威力も相当強力だったとは……次は考えて使わないと……
<<【風支配】による新たな応用スキルを獲得しました>>
応用スキル:【破砕の波紋】
威力:絶大(全体攻撃)
効果:剣に纏わせた大気を解き放ち、振動波を空間内に解き放つ。
そう考えてるつかの間に、振動波をもろともせずにガクトに近づいてくる者がいた。それはケテルネスだった。
「たくよぉ……こんな小細工であーしをとめられたとでも思っているのかい? 神を舐めてもらっちゃ困るなぁ……?」
よく見ると振動波が体全体に当たっている。なのに傷一つつかず、ひるむ様子がない。この嵐のような振動波の中でゆっくりと一歩ずつ歩みを進めている。
「なるほどな……貴様ら……確かに普通の人間じゃないことは分かった……その能力……間違いなくあーしと同等の能力を持ったものに違いない。だが、こんな力では神の前では無意味だ」
「くっ……」
近づいてくる様子を知ったガクトはアミュラを抱きかかえ、庇う姿勢を取ってケテルネスをにらみつける。
一方、遠くで様子を見ていたユウビスとダンも何かおかしなことに気づいていた。
「なんであいつだけ、攻撃が効かないんだ?」
「見えたで……」
ふと、ユウビスの言葉に答えるようにダンが呟いた。ダンはずっとケテルネスの動きを観察し、ケテルネスについての情報を今まで解析していたのだった。
「え? 見えたって何が?」
「前のリベアムールの時と一緒で能力解析に時間がかかって一部しか能力が見られへんかったけど、攻撃が効かないカラクリだけは分かったんだ。みんなに今すぐ送るで……これは大変なことや……わしらはこの神に喧嘩を売ったことが間違いやったかもしれん」
そうして、ダンが得た情報が全員に送信され、その情報を全員が見る。
「はー? なにこれ? うそ?」
アマは苦笑いをし、
「はぁ!? 嘘だろ!?」
ユシリズは目を疑い、
「……ちっ、まじか」
ガクトは焦り、
「これが……ケテルネスの能力?」
ケルトは言葉を失った。
「ダン! これ本当か!?」
「せや、一部だけの情報だが、わしらとは性能が格段に違うのがもうわかるだろ?」
<<メッセージを受信しました>>
ケテルネスのステータス
name:ケテルネス=ベンデルゼン
スペシャルスペック
:【破壊神】
SSスキル
:【爆炎支配】
炎すらも焼き払ってしまう業火を生み出し、操る。
その爆炎に触れたものは一瞬にして灰にされてしまうとも言われる。
:【基本属性攻撃無効】
全ての基本属性攻撃を無効化する。
:【物理攻撃無効】
すべての物理攻撃を無効化する。
:【???】
:【???】
:【世界終焉】
目の前のこの情報から全員が察するに今、ケルトの攻撃が効いていないのだ。威力以前の問題にケテルネスには攻撃に対する耐性を持っていたのである。そして、一番下にある能力……俺たちは考えたくもなかった。しかし、改めてこいつが本当に神であるという現実を突きつけられている感覚に陥った。心の中で全員が『不味い』と思った瞬間だった。
「ガクト!! 早くその場から離れて!!」
俺は直ぐにガクトに声をかけたが動く様子がなかった。どんどん、ケテルネスがガクトとアミュラとの距離を縮めていく一方でガクトは石像のように動かなかった。
「ガクト!! 早く!!」
そう俺が言った後ガクトは立ち上がり顔を俺の方に向けた。
その表情はなにかを心に決心したかのような、笑ってるような、でも困っているような表情だった。
「ガクト……?」
俺はガクトがなにをしたいのかわからなかった。
「どうしたんだぁい? 今更怖気付いたのかい?」
ケテルネスの煽り台詞に対してガクトは笑って見せた。
「ははは……いやぁ凄い。どうやらこのままあんたと戦ったらヤバいって事だけ分かる。だからどうすれば良いか考えてたんだ。そしたら……残念ながらこれしか打開策が出なくてね、正直、俺はこんな役なんてやりたくなかったんだけどようやく決心がついた」
「ほう……? つまり、とうとうあーしにそいつを渡す覚悟ができたってことかい?」
「いや、違うね」
ガクトは静かに目線を落とす。静かにガクトを見つめるアミュラと目が合う。
「ガ……ガクトさん?」
「ごめん、今から少しの間俺はお前の付き人にはなれない。今度はケルト達に守ってもらえ。いいな?」
ガクトの言葉の意味をアミュラは理解できないままでいた。ガクトはそのまままた俺の方を向き、そして後ろを向いて仲間全員を見る。
「みんな!! 俺がお前たちの壁になる!!!! ここから早く立ち去れ!!!!」
ガクトの言葉に全員が驚く。俺たちを逃して、お前が今度は囮になるなんて、そんな事俺が許すはずなかった。
「何馬鹿なこと言ってるんだよ!! お前が残るなら俺も残るぜ!!」
「馬鹿はお前だ!!」
伏せていたユシリズが立ち上がり、前に出ようとするがガクトに一喝され歩みを止める。
「ここでみんなやられたら意味がない!! 少しでもアミュラを助けたいって思ってるんだったら黙って俺の言うことを聞け!!!!」
いつも冷静なガクトがここまで声を上げることはないため、誰もガクトに対して反論することはなかった。言いたくても言えなかったのだ。こんな本気のガクトは初めてだったから。
「……わかった、私たちは進むわ……ガクト、気をつけてね」
「ああ」
「あーしがみすみす見逃すとでも?」
ガクトはケテルネスの言葉を無視してアミュラを右手で持つ。
「ガクト……だめだよ……一緒に行こうよ……」
アミュラはガクトの手の中で涙を貯めながら言う。あふれ出したその涙がガクトの手に掛かる。
「俺は大丈夫だ。だからお前は進むんだ!!」
<<発動:【身体変異】>>
ガクトの右手が黒く変色し、筋肉が大きく膨張する。その片腕はまるで筋肉の塊のような腕を使って、出口に向かってアミュラをぶん投げる。
「全員、走れ!!」
「ガクトーーーー!!!!」
アミュラはガクトの名を叫びながら宙を舞う。アミュラの流す涙がまるで雨のようにこぼれながら。
<<発動:【神速】>>
俺は風を切る速度で空間内を移動し、僅かの時間で入り口に到達していたアミュラを空中でキャッチする。
「逃さねぇよ!!」
ケテルネスは俺に向けて巨大な火球を投げつけてくる。しかし、軌道上の途中でガクトの右腕がそれを阻み火球を握りかき消す。右手はドロドロに溶けるもののまた元通りに再生していく。
「お前の相手は俺だ」
全員が全力で走り出し、ケルトに続いて出入り口まで近づく。今なら、兵士たちもパニックになっているためこの城から出ることは可能だ。
俺はガクトの方を見て
「ガクト……必ず、戻ってきてね」
そう呟いて、他の増援が来る前に仲間たちと急いでこの城から抜け出した。
ガクトは仲間たちが城を出たことを確認し、優しく笑みを浮かべた後、ケテルネスの方を向く。
「さて、今度は俺が神と相まみえようじゃないか」
お読み頂きありがとうございました!!
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