57 破壊神
……ん……あれ? 私……確か捕まって……体が動かない……
アミュラが目を開けると奥行きのある広い部屋の中心にいる。目だけを動かして自分の体を見ると、四肢が鎖によって縛られ、金属製の十字架に架けられていた。部屋の両側には甲冑を着て、長い槍を持った兵士たちが道に沿って列を乱さずに直立している。
目の前にはレッドカーペットが敷かれていて、その先には大きく派手に飾られた椅子が置かれている。
「ここは?」
「私語を慎め罪人!」
「ひゃううっ!!」
近くにいた1人の兵士に矛先を向けられながら怒鳴られ、体が縮んでしまう。
「我が国ガラクリオットの神、ケテルネス様のお帰りである!」
後ろからバンッと勢いよく開けられた扉から張りのある声がけによって緊張感のある空気が漂い始める。
横にいた兵士を含め、ここにいる全ての兵士の額に汗がにじみ出ている。
しばらくすると、一定の速度でこちらに近づいてくる足音が聞こえてきた。アミュラも後ろからただならぬ気迫を感じ、声を出したくても体が強張り、声帯が動かない。徐々に気迫を持った何者かの足跡が近づいてくる。そして、それがとうとうアミュラの横を通り過ぎる。アミュラは怖くて目を閉じたまま開く事ができなかった。足音が鳴り止み、ドサっと腰を落とす音が聞こえると同時に前にいる何かが指を鳴らす。
すると、また何かがアミュラの横を通る。今度は早々と目の前の者へと何かを運んでいる音が聞こえる。チャプチャプと揺れる液体の音とカラカラとその中でぶつかり合う物体の音。
「ケテルネス様、こちらをお持ち致しました!」
聞こえてきたのは兵士の声ではなくどうやら別の役職の者、どうやらメイドだろう。メイドが運んできたトレイの上に置かれた物を取り上げると喉を荒く鳴らしながら何かを飲み干した。
アミュラは恐る恐る目を開ける。
「ぷはぁーー!! やっぱり仕事終わりのオレンジュースはあーしの身体に染み渡るぅーー!!」
そこにいたのは、炎のように紅く長い髪に胸元が大きく開かれた、金などの派手な装飾のついた服を纏っている褐色肌の女が椅子に脚を組んで座っていた。左目には何かに引っ掻かれた古傷が目立っている。
グラスに入った黄色いオレンジュースを片手に持って、ご満悦な表情で喉へと流し込むとメイドの持ったトレイに雑に置くと細い目でアミュラの方を見る。
「でぇーー? あーーしのいない間にもう犯人みつけてきたのぉーー?」
ケテルネスはゆっくりと立ち上がると視線の先にいるアミュラの方に近づき、顔を近付かせその見られているだけで燃えそうな赤眼でじっくりと顔を眺められる。
「ふーーん、中々可愛い子じゃない! あーーしの妹になるかい?」
「ゴホンッ! えーー、ケテルネス様……おふざけは良して下さいませ……」
近くにいた兵士が声をかけるとケテルネスはため息をついて席へと戻る。
「でーー、あんたの名前は?」
「あ……アミュラ」
「ふーーん……会ってなんだけどあんた死刑だけどそれでいい?」
「わ……私は何もしていません!」
「ふーーん、じゃあ証拠は? 証拠をあーーしに見せなさい? そしたら考えてあげてもいいわよ?」
「証拠……真犯人! 犯人は他にいます!! その犯人は黒い竜です!!」
「……」
「……」
お互いの間に少しの沈黙が生まれ、この場が静まり返る。そして、次に口を開いたのはケテルネスの方だった。
「……もう1度聞くわよ……証拠は……あるのかしら?」
ケテルネスのアミュラに向けた目つきが明かに変わり、さっきまでのおちゃらけた印象から静かな口調によって一気に冷酷なオーラが漂い、アミュラの恐怖が更にこみ上げてくる。まるで、本能がこの女を危険視しているかのように。ケテルネスはまたゆっくりと立ち上がると、アミュラの元に歩み寄り、アミュラの柔らかい顎を雑につかむと顔を自分の方に強引に向ける。
「貴様が、壊滅したマダンで竜に飯を与えていた情報があーしらのところに来ているんだ。その場に貴様と貴様の使役する竜だけしかおらぬということしか分らんのだ。それに貴様の言うその黒い竜とやらもお前の使役する竜の一部なのだろう? そろそろ白状したらどうだい?」
「私は……やってない」
バチンッ!!!!
アミュラの否認する言葉にとうとう苛立ちを感じたケテルネスは顎をつかんでいた手を離すと勢いよくアミュラの頬をぶった。
アミュラの頬が赤く腫れあがり、目には涙を浮かべている。
「この犯罪者が!! こちとら優しく聞いてやってんのがわからねぇのか!? てめぇのせいであーしの仕事が増えてんだよ!! この馬鹿兵士の教育、使えないこの国の平民どもの管理、それに7人目がめんどくせーことすっからろくに休日も取れりゃしねぇんだよ!! さっさと白状しろやこのクソガキが!!」
「わたじ……は……やっで……ない……わだじの……友だぢは……悪くない……」
恐怖で涙を流しべそをかいてもアミュラは罪を否認する。その様子にケテルネスは歯ぎしりをしながらアミュラをにらみつけるとまた大きく腕を振りかぶる。
「ならあーしが力ずくでも話させてやんよ!!」
アミュラは次の一撃が来ることに備えグッと目を閉じる。
助けて……みんな……
その時だった、後ろの入り口が大きな衝撃音と共に扉が壊れる。突然の出来事にここの空間にいたすべての者が扉へと注目する。
「な……何者だ!?」
扉近くにいた兵士が問いかける。
「ただの……神の代行人よ」
アミュラは声だけで悟る。ケルトが……みんなが助けに来てくれたのだと。





