51 遠出の準備
俺は今日の出来事を残りの仲間に伝え、明日には行動を開始すると話すと全員が賛同してくれた。そして、今大体夜の10時頃だろうか外は真っ暗になっており、野生の動物たち、そして森の木々が寝静まった時間帯。
もちろん、アミュラはもちろん仕事をしていたカナやサラたちも寝てしまっている。多分、ダンは寝たかな? それ以外はきっと部屋で各々好きなことをしているに違いない。
俺は食堂のカウンターで明日からの旅の計画を考える作業を黙々と進めている。何時に出発して、どういうルートで進み、帰りはいつになるのか俺は一人でシステムとにらめっこしていた。
<<竜人の里マダンに向かう経路を表示します>>
システムが動き出すと目の前にはこの世界の全体地図が現れる。その地図に矢印が表示されるとカーナビゲーションシステムのようにゴール地点に旗がたった。
ゴール地点へ向かう道筋はここから北に向かって進みモリカよりもさらに北へ進むと関所があり、そこからサーティ地方の領土だ。そこから西に進むと大きな町がある。そこがこのサーティ地方最大の竜人都市『ガラクリオット』だ。そこからさらに西に西に進めばそこにマダンとアナンタ村がある。
マダンとアナンタ村の場所は少し離れているがこの地図の旗がアナンタ村に重なっているところを見ると近くに存在するということだ。
とりあえず、目的地までのルートは分かった。あとは、生態系だ。アミュラの話によるとサーティ地方は爬虫類、甲殻類など強そうな魔物が多く存在するという。無論、あの妖精の園で見たドラゴンもゴロゴロと存在していると考えられる。
<<サーティ地方の魔物情報を表示します 解析率80%>>
・赤燐竜サラマンダー
・大型ドレイク
・ノーマルドラゴン
・ジャイアント・センチピード
・サンドワーム
・バジリスク
<<なお、バジリスク、赤燐竜サラマンダーに関しては討伐が完了しています。よってこの地方には存在していません>>
あれ? 魔物って複数体いるんじゃないの?
<<赤燐竜サラマンダーは3大幻竜の1体です。3大幻竜とは竜族の中で最も秀でた竜が入ります。幻竜が死ぬと次に生まれるのは100年後ですバジリスクはとある理由により復活することはありません>>
あ、そうなんだ。俺があの時倒したあの赤い竜ってそんなすごい奴だったんだ。なんかあっけなかったけど。3大幻竜っていうてことはあと2体くらいいるのかな……サラマンダーの色違い?
<<3大幻竜は煉獄を司る『赤燐竜サラマンダー』、海の支配者『青燐竜リヴァイアサン』、千差万別の竜『黄燐竜ファンロン』です>>
うわぁ……強そう……こんな奴らと喧嘩売るのはやめた方がよさそうだ。よし、情報はある程度分かった。ありがとう、システム。
そう心に思っただけでシステムはスリープモードに入った。本当に原理はいまいちわからないけど便利で助かる。さて、俺も一息ついたらスリープモードに入ろうとするかな。コップに入った水を口に運ぶ。その時だった。
「や! ケルトちゃん!!」
「ぶーー!! ゲホッゲホッ……」
俺は急に後ろから抱き付かれ驚き、口に含んでいた水を吹き出してしまった。
「あれ? 驚かせちゃった?」
「びっくりた……誰かと思ったらラミーさん……」
「いやーーごめんね、グラスを拭いたり、明日のちょっとした仕込みをしようと思って来たんだけどケルトちゃんがいたからちょっと後ろから……ね? ごめんね?」
ラミーさんは笑顔でウィンクして俺に謝る。ちょっと可愛いって思ってしまった。違う違うそうじゃないよ……
「もぅ……次やったら怒りますから」
「まぁそう怒らないの、そんなことよりケルトちゃん達、また明日からどこか行っちゃうんだよね? それなら準備とかあるわよね? ちょっとついてきてくれるかしら?」
「はい? 何ですか?」
「良いから、ついてらっしゃい。旅に役立つものあげるから」
そういうとラミーは外に出て行ってしまった。それに続いて俺も外に出ると店の裏手側に招かれる。確か、店の裏はラミーさんのための鍛冶場になってたはずだ。俺はラミーさんに促されるままその鍛冶場へと入る。
中はもちろん真っ暗であり、ラミーさんがランプに火をともすと暖かい火の光が部屋を照らす。そこにはいくつもの武器が並んでいた。剣、斧、拳、槍、盾、弓矢、杖、ナイフなどまるで武器屋のようだった。
「ラミーさんこれは?」
「どう? すごいでしょ? 私が全部作ったのよ」
「ええぇ!? これ全部!?」
一人でこの量と種類を作るにはかなりの時間がかかるはずなのに……
「どうやって作ったんですかこんなに!?」
「まぁ私の能力にかかれば武器自体はすぐ作れるわ」
そういうとラミーはその辺に落ちていた鉄くずのかけらを持つ。
「例えば……ケルトちゃんの持ってるような細い剣がつくりたいなぁ……ふん!!」
<<調合術師【武器生成】の能力が発動しました>>
ラミーは握っていた鉄くずを強く握りしめると、バチバチと音を立てながら武器は形状を変えていく。その鉄くずはだんだんと細いまるで日本刀ほどの刀のような剣に変わってしまったのだ。まだ、パチパチと静電気が生み出されている。その刀は刀の形状にはなったものの鉄くずの色と同じ色で黒ずんでいる。
「どう? 型ができたわ」
「ふえぇ……武器屋いらず……」
「これで刃を研いだり、いろいろ装飾したり、調合素材で強化したりして、完成」
「え? てことはこれ全部強化されてるんですか?」
「ええ、どこの武器屋にも売ってないラミー特製のオーダーメイド装備だ!! まぁ……性能は神器にはかなわないけど」
確かにラミーの作った武器はぱっと見でもちょっと違うことがわかる。この拳だって色が若干赤みがあったり、このナイフの刃は紫がかってるし、まるでゲームに出てくる属性武器みたいだ。
「ケルトちゃんは神器があるけど、あの子たちだけ何もないんじゃ心もとないから」
「ありがとうございます!」
俺はラミーにペコっとお辞儀をする。
「良いわよ、その代わり、ちゃんとお勤めしてくるんだよ」
「了解です!」
「それでこそケルトちゃんね。じゃあ、明日も早いからそろそろ戻りましょうか」
そうして、鍛冶場から出た俺とラミーは宿に戻り、各々の部屋へと戻った。何もすることがなかった、夜更かしせずそのまま布団の中にくるまった。
(あれ……もう武器屋いらないんじゃないかな……)





