47 祝! 新宿屋バニランテ開店
セブンス島 エスデス城内 玉座の間にてーー
「エスデス様!! ご報告です!! 今すぐお耳にしていただきたい情報がございます!!」
目つきの鋭く、黒肌に鎧をまとった魔族の兵士が大きな両開きの扉を勢いよく開き、薄暗い玉座の間へと入ってきた。
「騒がしい……何事よ……」
玉座の間に入ってすぐの城の柱に体を掛けている大きな羽を背中にはやした、灰色のショートヘアで黒肌の1人の女性が問うと兵士慌てて、ひれ伏した。
「ああ!! グレモリア様でした!! 騒がしくしたご無礼をお許しください!! エスデス様はおられますか!?」
「そこにいらっしゃるわよ」
女が顎で指図する方向には骸骨などの不気味な装飾が紫がかった光に照らされている大きな椅子に座っている女がいた。しかし、その女は闇に包まれているかのように姿が見えず、容姿がわからず人間の形をしたシルエットしか見えない。
「エスデス様!! 失礼します!! 先ほど偵察に向かわせた者から情報がございました!! バズール様が殺されました!!」
「とうとうか……神の仕業であろう?」
「いいえ……話によると最近この世界にやってきた冒険者たちによって殺されたとのことです。なんでも、リベアムールの代わりに仕事を受け持つくらいの実力者だということで……」
「ほう……名は?」
「確か、その頭はケルトと言うそうです」
その言葉を聞くとエスデスだと思われるシルエットは左に組んでいた足を右に組みなおす。
「……で? 他に用は?」
「いやぁ……ええっと……以上です……」
男はそのシルエットの先にあるものに恐怖し、伏せた顔を上にあげることができなかった。額からは汗が滝のようにあふれ出て、頬を伝って汗が床に落ちる。
「……なんだ……詰まらんな……もう良い、下がれ」
「は、はっ!」
男はほっとした気持ちとなり、一瞬顔がにやついてしまった。顔を伏せたまま立ちあがり、速やかにここから立ち去ろうとした時だった。体が突然無数の糸のようなもので巻かれるとそのまま宙につるされてしまった。細いピアノ線のような糸が鎧の隙間に入り、肌に食い込ませている。
「エ……エスデス様……な……何を……?」
「今油断したであろう、そんな下等魔族は必要ない……そして私はお前が気に入らん……そうだ、ちょっとばかり血が見たくなった……」
そういうと左手を前に出し、ゆっくりと開いた手を閉じていく。それに伴って男に巻かれた糸も食い込みが強くなっていく。
「ぬぅ……うがああぁぁぁぁ!!!!愛しているぞぉ!! 我が息子!! そして妻よ!!!」
そんな男の断末魔はエスデスが手を握った瞬間途切れ、食い込んだ糸が男の皮膚を、肉を、骨を切断した。ぼとぼとと床にどす黒い血が滴る。エスデスはその糸を手繰り寄せ、糸についた血を舐める。
「ふむ……静かになった。ところでグレモリア、他の者どもの様子はどうだい?」
「ええ、着々と動いています。しかし、もう少しでエスデス様念願の『不死の酒』も手に入れる予定がバズールのせいでくるってしまったのは少々不服ですが……」
「まぁよい、どこかの誰かさんが邪魔な害虫をはびこらせているようだし……貴様はその調査を進めろ」
「はっ! 仰せのままに」
そういうとグレモリアは蝙蝠のような大きな羽を羽ばたかせ宙に舞うと勢いよくこの部屋から飛び出していった。
「……ケルト………」
静寂なこの部屋にエスデスの一言だけがこだまするとゆっくりと扉が閉じられた。
そして、一週間後……
ワンス地方 宿屋バニランテにてーー
宿屋の増築を頼んでから1週間がたった。宿屋の増築にはリベアムール様が紹介してくれたこの国屈指の有能な大工屋が携わってくれた。俺たちもできる範囲内で簡単に大工たちの手伝いをしていたのだ。本当にこの大工士たちはせっせと見事な働きぶりを見せてくれて、おかげで一週間足らずでこの宿屋の増築が完了したのだった。
そうして今、俺たちはその新しくなった宿屋バニランテとご対面を果たすところだ。
「わぁーー!! すごいすごい!! お家がおっきくなった!!」
新しい宿屋は入り口の外見は変わらないが明らかに前よりも大きくなっていた。そんな新しい家を見てサラは目を輝かせて喜んでいる。
早速中に入っていくと正面にはスペースが広くなり、きれいになった受付がある。そこから右には休憩できる広いスペースがあり、さらに奥にはお風呂場があった。
「お風呂も広いです! これならお客様ものびのび入れちゃいますね~~」
「ちっちっち……カナちゃん……もう1ついいことがあるんだよ?」
「何ですか? サラちゃん?」
「そぉれは~~、ズバリ!! ケルトちゃんともっと楽しくお風呂入れちゃうんだよーー!!」
サラは胸を張って、自信満々に鼻を高くして言う。
「おぉ~~!! 確かに!!」
それに続いてカナも目を輝かせる。
「それなら、分かるよねカナちゃん? うふふふ……」
「サラちゃん、お主も悪よのう……くふふふ……」
2人は顔を合わせて腹黒い顔をしながら、にやにやと笑う。この時、お風呂で乙女二人がこんな悪だくみを考えているなんて俺は知るはずもなかった。
一方で左側は食事場となっており、普通の食堂に何とバーカウンターが作られていた。これはラミーさんたちに向けての大工たちのサービスだそうだ。カウンターの棚にはお酒や料理の素材などを並べることができる棚があり、本当に酒場そのものと言ってい良いほどの出来なのは俺も驚きだ。まるで、ラミーさんの酒場がよみがえったかのようにも思える。
「すごい……前の酒場そっくりだね。いや、それ以上だわ……」
ラミーさんは心から感動しているようで、カウンターの席に座り、食堂全体を眺めていた。
「これでまたラミーさんの美味しい飲み物が飲めるね!」
「ええ、そうね」
俺は笑顔でラミーに話しかけるとラミーも笑顔で返してくれた。
「おいケルト!! 客室のほかに俺たちの部屋が増えてるらしいから見に行こうぜ!!」
「え!! ほんとに!? 行く行く!!」
俺はユシリズの誘いに乗り、早々と右の休憩室の奥側へと向かっていった。ラミーは俺の後姿を静かに眺めていた。
「あなたも気に入った?」
奥の厨房から出てきたエルマがラミーの隣に座る。
「ええ……本当に気に入りました」
「それはよかった♪ そうだ、見せたいものがあるの、一緒に来てくれない?」
「え?」
エルマはラミーの手を引くと外に出て、店の裏側の方へと連れていく。歩いていくと店の裏には煙突がついた小さいレンガ造りの小屋があった。
「エルマ、これは?」
エルマはポケットに入れていた小さいかぎをラミーに渡す。
「見てみて♪」
ラミーは疑問に思いながら、レンガ造りの扉の錠を外して中に入る。
「これは!!」
その部屋の中心にあったのはきれいに磨かれた鍛冶師が使う金床が置かれていた。壁を見ると、ハンマーなどの道具が置かれ、奥には熱を貯める火炉が備え付けられていた。
ラミーはこの金床を見てすぐに悟った。
「これは、パパの仕事道具の金床……」
「ケルトちゃんたちが火事になった後のあなたの家に行ってこれを補完したの。他の道具たちはだめになっちゃってたみたいだけどこの金床だけ奇跡的に無事だったみたいでね。家の増築の時についでに鍛冶場も作ろうってケルトちゃんが言ってくれてね」
ラミーはこの時、内の中で何かがこみあげてくるものを感じていた。これはうれしさではない。それを超えた何かわからないもので彼女の胸はいっぱいになっていた。
ラミーはゆっくりと金床に歩み寄り、表面をなでるように触れた。
「私とカナを守り、居場所をくれて、家族まで……彼女たちはいったい何者なのかしらね……」
「私にも分かりません。ですが、私たちはケルトちゃんたちを神が下さった神の依り代だと私は思っていますよ」
エルマの言葉をつぶやき、そっと手元のペンダントを握る。ラミーもきれいに輝いた金床を優しくなでる。
「パパ……ママ……私、やるべきことができました。頑張ります」
「さて!! そろそろお夕飯作らなきゃ!! さてラミーも行きましょう?」
ラミーはそっと金床にキスをして、鍛冶場を後にしたのだった。
第4章 開幕です!!
お読み頂きありがとうございました!!
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次回の投稿予定日は12月18日水曜日です。





