41 絡繰りテント
とりあえず、ゴブリンたちの奇襲を見事返り討ちにした俺たちはダンを先頭に森の中でバンディットのアジトを探していた。しかし、探索の間に俺はラミーさんの質問責めに合っていた。
「ねぇ! 私が目を離した隙に一体何をしたの!? あの敵の数に対してあんな一瞬でかたをつけるなんて可笑しいわよ!」
「んん〜〜……簡単に言うと私たちもラミーさんみたいに特殊な能力があって、それを総動員? させた? みたいな?」
「詳しく聞かせなさい」
「あはは……長くなるのでまた後で」
そんな話をしながら歩いていると、ダンが声を挙げた。
「おおぉ!? こっちの方から反応を感じるで!! こっちやで」
ダンの歩む先についていくとそこには森の中で円状に開けた場所があった。その場所の真ん中に見るからに怪しい黄色い大型の三角テントが建てられている。そのテントが1つだけでそれ以外に森周辺を調べてみたが目星い物は特に見つからなかった。
「うわ……見るからに怪しいテントだよなこれは……どうする? もう燃やす?」
ユシリズが手のひらに火の玉を生み出し、お手玉の如くそんなことを言うとガクトが慌てて止める。
「バカもん、処理が早すぎる。まだ中も確認してないんだ。それに、もし人質がそこにいたらお前、どう責任取るんだ?」
「そ……それもそうだな、悪りぃ」
ユシリズはガクトに怒られ、作った火の玉を消した。
「あのさケルト、テントの中、俺が確認してくるよ」
「ユウビス、行ってくれるの? 自分から行くなんて珍しいね」
「俺そんなに仕事してないから少しは冒険したい。何かあったら時間を止めて逃げるから」
「結構仕事してると思うけど……でも、助かる。気をつけてね」
ユウビスは自分から率先してテントの方へとゆっくり向かっていく。それに続いて逆サイドにユシリズが回る。
「ユウビス、ツーマンセルに動くんだ。特殊部隊の基本だぞ」
「俺らは特殊部隊じゃないけど……了解。3、2、1で開けるぞ?」
3、2、1、ゼロ!!
バッと勢いよくテントの入り口を開くとそこには木箱が重なってそこに置いてあるばかりで人の姿などは見られなかった。
「誰もいない……」
「おいおい、まさか感づかれて逃げられたのか?」
「それは、あり得るかも知れない」
「おーーい!! 大丈夫ーー?」
俺が近づいていくと2人が苦い顔をしているのを見つつ、中の様子を伺った。
「逃げられた?」
「俺たちが確認した時点でこうなってたんだ。おそらくその可能性は……」
俺は木の箱の中身を確認するが中は全部空っぽで何も手がかりとなる情報はつかめなかった。
「んだよ!! また、振り出しかこりゃ!! くそっ!!」
苛立ったユシリズは強く木箱を蹴り上げる。宙に舞った木箱が破裂してテントの奥を突き破って飛んでいった。テント内が空っぽになったとき、俺は違和感に気がついた。
「ん……ここって」
俺が見たところは木箱が重なって置いてあった場所の土である。木箱があった場所の土が他の土だけ色が違うのだ。すぐさまダンを呼びつける。
「ダン、ここらへんなんだけど何か分かる?」
「今見てみるで」
ダンは俺が指差した場所をじっくりと見ると何かを悟ったかのような顔をする。
きっとダンも分かったのだろう、ここにテントがある意味が。
「ケルトちゃん、どうやら当たりみたいやで」
「だよね。みんな、ちょっと離れてて」
みんなを後ろの方に戻させ、俺は違和感のある場所に向けて手をかざして気を集中させる。
<<発動: 獰猛な大気>>
大きな風の衝撃波がその土を削り、テント内からは埃と土が大きく舞い散る。その勢いで外にいた仲間たちも顔を手で隠していた。数分経って落ち着いた時、ラミーが中に入ってきた。
「ケルトちゃん! 何かあったの!?」
「ラミーさん、安心してください。奴らは逃げてませんでしたよ」
「こ……これって」
俺が風で吹き飛ばした土の下に埋まっていたのはまるで地下への道と繋がる通路を隠していたかのような下り階段があった。
「恐らく、犯人はここの中に逃げ込んでいるはずです。あのゴブリンの群れは恐らく元々ゴブリンが住んでいた洞穴を占領したから外に出ていたのかも。そしてこのテントは隠れ家の目印として設置してたのかもしれないです」
「じゃあ、あのゴブリンたちは無理やり巣から出されたって事かしら?」
「そうかもです……」
でも、少し違和感を感じていた。あの数のゴブリンを普通の人間が巣から追い出すことなんてできるるのだろうか? 巣に火を投げ入れることを考えると可能かもしれないがゴブリンに襲われてひとたまりもないはずなのに……
「進展ありならさっさと進んじまおうぜー! 巣の奥に隠れられちまったらめんどくさいったらありゃしないからよ!」
ユシリズが早くその階段の先が気になり、催促し始める。ここで考えても埒が明かないと感じた俺はこの先に進むことを決めた。
「いい?危ないから離れないでね」
仲間にそうとだけ伝えると俺たちはゴブリンの巣、いやバンディットの巣へと足を踏み入れた。
階段を降りていくとそこはあかりひとつない闇だった。ユシリズに火を付けてもらい、持ってきていたランタンに火を灯すと道が照らされる。壁は狭いが道は続いており、終わりが見えない。見慣れないその様子は仲間がいなければ立ち竦んでいたかもしれない。待ち伏せしている敵に対応できるように警戒しながら進んでいく。ある程度歩いたところで狭い通路からかなり開けたところに出た。そこはまるでホール状になっており部屋は暗いが声が反響する様子から部屋が広いとわかった。
「部屋の中心に誰かおる……」
ダンが何かに気が付いたのか口を開く。反応があったのはどうやら部屋の中心らしく、そこにランタンの光を向けながら足を進める。ランタンを照らすと金色の特長的な髪型にフリフリのウェイトレスのような服装を着た少女がへたり込んでいる様子が見えた。ラミが咄嗟に口を開く。
「カナ? カナだね!? カナ!!」
ラミーそう言うと無警戒にカナだと思われるものへと走って行く。
「ラミーさん! ちょっと待って!」
俺の止める言葉が聞こえているはずもなく、ラミーはカナのか細い肩を抱きしめる。
「無事で良かった……もう大丈夫だから一緒に帰……!?」
ラミーがカナの顔を覗き込むとそれはカナの可愛らしい顔ではなく無機質な表情をした人形の顔だった。それに気づいたと同時に人形の口から黒々としたオーラが漂う太いワイヤーのようなものがラミーに巻きつき、体を縛った。
「な……なんなのよ……動け……ない……」
「ラミーさん!!」
俺が近寄ろうとすると、この部屋のさらに奥から誰かが歩いてくる気配を感じた。
俺はその気配に対して問いかける。
「誰かいるの!?」
「ククククク……馬鹿な女だ……まさかこんな稚拙な罠に引っかかってくれるとはなぁ」
闇の中から眼を赤く光らせた銀の長髪で肌が紫色をした。人間型の人間じゃない者が登場する。
「あんた、何者?」
そう聞くと男は不敵な笑みを浮かべてこう返してきた。
「俺はバズール、エスデス様に使える7柱の1人……よく来たなぁ? リベアムールの使者ども、お目当てはこいつだろ?」
バズールと言う男が後ろで合図すると男の後ろから見覚えのある顔が歩いてくる。
「くっ……カナ……」
ラミーがポツリと呟く。そう、本物のカナ=シェイカーがそこにはいた。





