42 エスデス代行が一柱 バズール
「貴様らの目的は分かっている。この、女が目的なんだよなぁ?」
バズールと名乗る男は後ろにいるカナの背後に回り込み、身長差のあるカナの首に肩を回す。しかし、カナはそれに動じず大人しく顔を下げていた。
「私のカナに触らないで! この魔族!!」
縛られた状態で倒れていながらもラミーはバズールに向けてにらみつける。その様子を見たバズールは不敵な笑みを浮かべ、銀色の長髪を後ろに手で流す。
「私の? はっ!! とんだ馬鹿な女だ。こいつは元々俺のだ。なぁ?」
バズールがそう伺うがカナは顔をうつむかせたまま口を噤んでいた。
「待って、それはどう言うこと? まるで自分の所有物みたいな言い方だけど」
俺がそう聞くとバズールは大きく笑い出す。
「フッ……ハハハハハハハ!!」
「な……何がおかしいんだ!!」
ユシリズが怒りでそう叫ぶ。
「はぁあ……面白い。かわいそうだから答え合わせしてやるよ。ほら、こいつらに言ってやれ」
バズールはカナの背中をドンッと押すとカナは暗い表情のままその噤んでいた口を開く。
「わ……私はベリュトゥナ。このバズール兄様の妹です」
「……え?」
その言葉を聞いた瞬間この空間がまるで凍結したかのような感覚が俺たちを襲った。『予想外』ただその言葉だけがこの気持ちに当てはまっている。
「な……そんな……嘘……嘘よ……」
ラミーが声を震わせて聞く。この現実をにわかに受け入れられない様子で。
「……」
しかし、そのラミーの言葉にカナは返事をしなかった。
「フハハハハハハハハ!!!! 良いリアクションだねぇ!! その顔も素敵だよラミー!! 長年娘のように連れ添ってきた少女が実は酒場を襲った輩のグルだとは思いもしないだろうよ!!」
バズールは上機嫌に顔に手を当て笑っている。そして、バズールの言った言葉をラミーは聞き逃すはずが無かった。
「もしかしてそれって……」
バズールはにたりと笑いラミーに歩み寄ってくる。
「そうだ……ベリュトゥナがお前の酒場を燃やしたんだよ。暖炉に置いてある薪をわざとお前に気づかれない間に燃やして、俺の犬共にまるでさらわれたかのようにちょっとした演技をさせたんだ。演技が下手くそで笑うだろ? あ……それどころじゃなかったかーー」
あざ笑い、まるで人を馬鹿にしたような態度で見下されているラミーにいつもの強気な態度が見られなかった。縛られたまま抵抗することもできない状況に彼女はうつむき、涙を流すまいと力強く唇を噛みしめている。
「どうして、どうしてこんなことをしたのよ!!」
目の前の状況に俺は感情が漏れ出しながら問いかけた。
「どうして? 俺の目的はこの女の力だ。貴様らも見ているんだろう? こいつの素晴らしき力を。どんな不可能な調合や合成を成功させるスペシャルスペック……俺はこの能力が欲しかったんだ。こいつの力があれば俺様の能力向上や金儲け、それにエスデス様がさぞ喜びになるからな。こいつはこの世界で唯一『不死の酒』の調合ができる人間だ。そんな人間を望まない者などいるわけがないだろ?」
そう言うと、バズールはラミーの顎をつかみ、顎の先からつむじの先までラミーの顔を舐め回すように目を動かす。
「しかし……この女は幾度となく俺の誘いを断りやがった。何度も犬をお前の店に向かわせたんだが俺の元には来ようとはしなかった。だから……」
「カナを使った訳ね」
俺はカナの方を見る。カナ、いや……ベリュトゥナは無表情で下を向いたまま何も反応を示さない。
「ぴんぽ~ん♪ ご名答! そしたら案の定こいつを連れて帰るために俺の元へ来たわけだ。最近、モリカを騒がせてる奴らを連れてきていることは少々誤算だったんだがな。まぁ良い、目的の物は手に入った。なぁ? ラミー? もちろん俺と来るよな? じゃないと分かってるよな?」
バズールはベリュトゥナの方を向いた。それとともにラミーも顔を向けるとラミーは下角度からある物が見えた。それはベリュトゥナの額に包帯が巻かれていた事だ。
正面からでは前髪で隠れていて気づかなかったが、ラミーは事の意味をすぐに悟る。それを見てラミーはその言葉に応えざるを得ない。ラミーが目に涙を溜め、嗚咽を無理矢理に我慢しながらその重い頭を縦に振ろうとした。
しかし、俺がそうさせなかった。
<<発動:風刃竜巻>>
バズールのいる下から竜巻が即座に上がってくる。バズールはいち早くそれを察知し後ろに避ける。
<<発動:飛来風刃>>
<<発動:神速>>
小さな風の刃がラミーを縛っていた黒い縄のような物を切り刻み、瞬時にラミーを抱きかかえこちらに戻ってくる。
「貴様、邪魔したな?」
「あんたの話、ある程度聞いたからそろそろかなって思ってね。途中で邪魔してやろうかと思ったんだけど貴重な情報が聞けなくなっちゃうと思って黙ってた。けど、もう黙ってられないわね、あんたのそのやり方、はっきり言って最低よ! 自分の妹を道具みたいに使い、挙げ句の果てには脅迫? ここまでクソみたいな奴、初めて見たわね」
俺はバズールににらみつけるも動揺の様子もなく、クックックと余裕の笑みを浮かべている。
「面白くなってきたねぇ……じゃあ、余興としてもう一つ教えてあげよう!」
「何かしら?」
バズールは片手を前に出し、ラミーの方に手を向けた。
「お前の親を殺したのはこの俺だ」
ラミーはそれを聞いた途端口元を両手で隠す。
「……ママと……パパを……まさか……」
ラミーはその場でへたり込んだ。
「俺と一緒に来ていれば、あんなことにはならなかったのにな。家族そろって馬鹿だよ馬鹿、めんどくさいなぁ家族そろって」
バズールは両手をあげて首を横に振る仕草を見せる。
「……いい加減にしろよ」
「あん?」
俺はとうとう堪忍袋の緒が初めて切れた。俺はティターニアを抜く。
「私たちがラミーさん親子の敵にラミーさんの腕となって神の代行人の裁きの鉄槌を下そう!!」
俺たちは戦闘態勢に入る。ユシリズは両腕に炎を。ユウビスはタイミングを伺う。アマは体内に電気を貯蓄し、ガクトは腕を硬化させ、ダンはアナライズの準備をする。
「やる気満々ってわけか。ちょうど良い。久しぶりに動けそうだな。さあ、神の代行人とやらのお手並み拝見だぁ」
これはラミーさんの家族の敵討ちと神の代行人としての初仕事が掛かった戦い。
負けるわけにはいかない。





