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76 宝物庫へ

 オレは花嫁姿のソフィアを抱いて封印の剣のある宝物庫を目指す。

 ゲンナリ―達については、シザーに任せてオレは先を急いだ。

 

――もうじきだね。ユーリのスキルを封印できれば、ソフィアとようやく話ができるね。


 オレの手に握られているハガネが声をかけてきた。


「ああ。

 ようやく、ソフィアと会って話が出来るんだな。

 今まではソフィアと会うとすぐに剣先を顔に向けられていたからな」


 オレの呪い(パッシブスキル)によって、オレは人間に殺したい程嫌われてしまうが、このスキルは人によって効果が違う。

 

 アレクセイみたいに距離を取れば抑えられる人もいれば、ネコ族と人間のハーフ、プリシラのように刃物を持って向かってくるものもいる。


 ルタによれば、『愛憎反転』と呼ばれる効果を持つらしい。

 愛情が深いほど、反転し殺意と憎悪へと変わるのだ。


 ソフィアは、オレの首を執拗に欲しがった。

 ……ソフィアに殺されかけ、王都から逃げ出したオレだが『愛憎反転』のことを知っていたら、一人にはしなかったのに。たとえオレがお前に嫌われていても、一緒にはいられなくても……目の届く範囲でソフィアを見守っていたのに……


 いや、もしもの話などやめよう。

 ネコ族の村に向かい、ルタと九十九神と会えたからこそ呪いの正体と封印の剣の存在に気づけたのだ。


「アレクセイの話では封印の剣のある宝物庫は西の端の塔ということだけど。

 ハガネ、先行するブリュンヒルデから連絡は?」


――【共鳴】して呼びかけてるんだけどね。返事がないんだ。初めてだよ、ブリュンヒルデ様からの返事が遅れることなんて。


「まさか、な」


 ブリュンヒルデ達のことを思案しながら、真っすぐ塔を目指す。


 オレが宝物庫を目指して飛んでいると、前方にある左右対称の背の高い塔が目に入った。

 いかにも魔法使いが好きそうな塔だ。


「ハガネ、ちょっと止まろう。

 アレクセイに連絡取れるか」


――ちょっと待ってね。剣で共鳴するとユーリの耳が痛くなるからヒト型に戻るね。


 くるりんと回転してハガネはヒト型に戻る。


「あ、ここ空中だった。

 うわー」


 のんきな声をあげ、ハガネが地面に落ちていく。


「うわわ、ちょっと待てハガネ!」


 オレはハガネを助けに行った。


「ハガネ!」


 オレは、落下するハガネに手を差し伸べ、ハガネの身体を引き寄せる。


「ユーリ!」


 ハガネはオレに抱き着いてきたが、オレのもう片方にはソフィアがいる。

 二人両手は疲れるぞ。

 っていうか、ハガネを握ってないとオレも羽がないから飛べないんだけど?


 ハガネはオレに笑顔を向けて、ハガネがオレの胸に頭をうずめてぐりぐりする。


「こんな時にじゃれるなって。

 早く剣になれよ」

「はーい」


 剣型となったハガネを装備し黒翼をはためかせて近くの屋根に着地。

 ハガネはオレを見ながらニコニコ笑っている。


「ユーリ、気づいてる?

 羽がね、6枚になってたんだよ」

「オレの羽が?」


 たしかにいつもより空を飛ぶのが速かった。


「またユーリと仲良くなったからね、強くなったんだよ」


 そうか、オレも嬉しいぞ。

 でも、ハガネの喜び方は尋常じゃないな。

 なにか嬉しいことがあったのか?


「ユーリ見ててね」

「何を?」

「いいから」


 ハガネは手で自分の足元の方に円を描いた。


「行くよ!【風の籠(ウインドワゴン)】」


 あたりから風が集まってきて、空中に風の足場が作られた。


「すごいな、ハガネ!

 魔法じゃないか。」


 オレも自分のことのように嬉しくなった。


「乗ってみるね」

「もし落ちてもすぐに助けにいくからな」

「ありがとう。

 へへへ、乗ってみるよ」


 オレの手を持ちながら、ハガネはソロリソロリと風の足場に体重をかけた。

 やがて、オレの手も放しハガネの全体重を風の足場に預けた。


 ……落ちない。

 

「落ちてないぞ、ハガネ!」

「やった。やったあ!」


 ハガネはジャンプして嬉しがる。

 ジャンプの衝撃にも魔法の足場は耐えているぞ。

 うんうん、クリーム直伝のいい魔法だな。

 

「よくやったな、ハガネ」

「まだ魔法陣でしか使えないんだけどね。

 詠唱では成功したことないんだ。

 でも、嬉しいよ。

 これで、みんなのピンチが守れるからね。

 私は、ユーリの愛刀だからね」


 ハガネはそう言って胸を張った。

 ハガネはオレの剣として、パーティーみんなを守れる剣を目指している様だ。

 オレがいままでやってきたことを誉めてもらえているかのようで、嬉しかった。


「ふふふ、私もっと強くなるね」

「頼んだぞ、ハガネ!」

「うん」


 二人は見つめあう。


「……じゃあ、【共鳴】するね」

「た、頼んだぞ、ハガネ!」


 ダメだダメだ。

 いつまでも見つめあっている時間はない。


 風の足場の上で、ハガネは身体を震わせた。

 一瞬の間があってもう一度身体を震わせた後、オレに話しかけた。


「アレクセイはクリーム様の隣にいるよ。

 何を聞くの?」

「このあたりの魔法陣などの、魔法を使った罠は感知できるか?」


 ハガネがクリームを通じて連絡を取った。


「ユーリ、伝えるよ」


 アレクセイの言葉をハガネが伝える。


「『何もありません。

  ユーリ様のお見込みの通りでしょうね。

  私では、歯が立ちませんでした』

 ……だってさ」

「やはり、そうか」


 オレが思案していると、ハガネが問いかけてきた。


「どうしたの?」

「この先には、偵察に優れた魔法使いアレクセイが罠が何も発見できないといった。

 罠がないなんてあり得るか?

 宝物庫へ一直線の道だぞ」


 ハガネは首をかしげる。


「うーん、わからない」

「宝物庫への道に罠がないわけないんだ。

 そして、並みの魔法使いの罠をアレクセイが見つけられないはずがない」


 戦闘より偵察や諜報に向くスキルや魔法をアレクセイは多く所持している。

 その罠をアレクセイが見つけられないとしたら……


「見つけられないほど、強い魔法使いがいる?

 ああ、そうか。

 私もわかった。

 ロランがアレクセイにも見つからないような罠を仕掛けてるんだね」


 オレは頷く。


「おそらく。

 アレクセイが見つけられないから根性でかわすしかないぞ」

「わかった」


 ハガネがオレの手のひらの上に来た。

 オレはハガネを握り込むと、ソフィアを抱えたままあたりに気を配りながら先へ進む。


 左右対称の塔が光って、雷撃を放ってきた。

 それっぽいとは思っていたけど。


「ハガネ、飛ぶぞ」


――うん!


 双方向から放たれる雷撃を上方に飛んでかわす。

 雷撃がぶつかった建物はすぐさま焼け焦げ崩れ落ちた。

 

――来ると思ってたからかわせたけど……


「ソフィア抱えながらだったからヒヤヒヤしたけどな」


 オレは少しほっとしていたが、目の前に飛んでくる氷剣に気づき硬貨を投擲した。


「だが、ソフィアを傷つけてしまわないかとヒヤヒヤしたのはお前も同じだろう、ロラン!」


 魔法で作り上げられ投擲された氷剣の後ろには予想通りロランが立っていた。

 宝物庫への入り口の前庭でオレたちを待ち構えていたのだろう。


「九十九神よ、眷属たる硬貨よ。

 我に従い、氷剣を破壊しロランに突撃せよ!」


 硬貨は氷剣を貫き、ロランに一直線に飛んで行った。


「武器や道具を意のままに操るスキルか……大したもんだな」


 ロランは心臓目掛けて飛んで行った硬貨を魔法陣の書かれた右の手のひらで受け止めると、オレへむけてひらひらと平気なことをアピールすべく手を振った。

 何らかの魔法で消すか溶かすかしたのだろう。

 オレも宝物庫の入り口へ着地した。


「ユーリ、オレだって強くなったんだぜ」

「ロラン、オレはお前に散々言ってきたよな。

 友達は選べって……せっかくお前の友達の遺品をお前にプレゼントしたのによお」


 ロランは笑って答えた。


「グリゴリーのことか……あのバカが、ネコ族を襲うからユーリがオレの罠にはまり損ねた。

 役に立たない奴だったよ」

「ネコ族を襲ったのはお前の指図ではないとでもいうつもりか。

 お前がガガーリン家にオレ達が氷竜の洞窟で魔鉱石を獲得したという情報と魔導球を渡したんだろう」

「ああ、渡した魔導球をどう使うか。

 【千里眼】を使って見てたよ。

 あの魔法は禁術から生み出されたもので別にアレクセイの専売特許じゃない。

 オレだって使える。

 魔導球はオレの最高傑作でこれでユーリを殺せると喜んだ。

 しかし、魔道具ってことでお前に支配されヨシフが死んじまうなんてなあ」


 ロランは顎で大きな魔法陣のある方向を指し示す。


「ネコ族を襲わせるつもりなんてなかった。

 だが、この状況でオレが何を言ったって信じてくれるとも思っていない。

 弁解するつもりもない。

 ただ、オレがネコ族を襲ったってソフィアに思われたくない。アイツは獣人のことを救いたいと思っているからな」


 ロランは真剣な顔をした。


「だから、ユーリにお願いがあるんだ。

 そこで這いつくばっているお前の部下の命と引き換えに、死んでくれないか」


 ロランが魔法陣の前に移動すると、這いつくばったアリシアとブリュンヒルデがいた。


「アリシア! ブリュンヒルデ!」

「すみません、ユーリ様……」


 オレは目の前にうつぶせで臥せっている二人を見て叫ぶと、ブリュンヒルデはくやしそうにつぶやいた。


「ははは、【磁力の網(マグネットウェブ)】だっけか。

 ユーリ、お前たちをじっと観察していたが、クリームヒルトはオレの知らなかった魔法も随分と知っている様だった。

 お前の部下の中で最もオレが相手をしたくないブリュンヒルデを拘束できてよかったよ。魔法使いのオレはブリュンヒルデのスピードに反応できないからな。

 クリームヒルト様様だな」


 剣で斬りかかりたいところだが、ソフィアを担いでいるため両手は使えず、片手でロランに硬貨を投げつけようとした。


「ストップ、ブリュンヒルデとアリシアには魔導球を飲ませてあるぜ」


 オレは振りかぶったハガネを構えなおした。


「お前がコインを投擲するよりオレが魔導球を破裂させる方が速いぜ。

 まあ、どうしても速さの競争がしたいって言うなら付き合うけどよ」

「く……」

「ユーリ、離れろよ。

 オレはお前のことをけしてなめたりしない。

 あと、いつまでソフィアを抱えているつもりだ?

 そこに下ろせ、布が用意してある。

 ゆっくり、だぞ」


 ロランに顎で支持され、ソフィアを柔らかな布の上に寝かせた。

 

「ご苦労様。

 さて、ユーリ。

 ブリュンヒルデとアリシアが大事なら、そうだなあ。

 正々堂々、勝負でもしようか。

 オレも強くなったからさ」

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