表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

75/105

75 結婚式を破壊せよ!

 獣人族や農奴の数は1万を超える数に膨れ上がっていた。

 それにも関わらず、オレ達は王都前に整然と並び列を崩さない。


 クリームとアレクセイが考えてくれた脚本・演出に1万を超える役者が答えてくれていた。

 人間より体力に優れる獣人を本能的に恐れているからこそ、獣人の背中に隷属紋を施して支配しようとする。

 獣人を多く含むオレ達が乱暴な集団ではないとアピールするためにも一糸乱れぬ整列が必要なのだ。


 王都侵入の相棒はクリーム。

 クリームが呪文を詠唱し、風魔法で階段を作り上げる。


「おいで、クリーム。

 王都への侵入作戦、成功させような」

「はい、ユーリ様」


 長い黒髪のクリームは笑顔を浮かべ、オレが差し出した手を取った。

 いつものとおりサイドにお団子。

 モノトーンでまとめたジャケットとスカートがクリームの戦闘服。

 白いタイツとガーターベルトが色っぽいクリームであるが、胸元の青いリボンが可愛らしさを添えていた。。

 

 あの夜以来、固さの取れたクリームはオレの手を握り、嬉しそうにエスコートされる。

 

「ユーリ様にエスコートされるなんて……ふふ。

 私幸せです」

「今日もお団子シニョンキレイに作れているぞ」

「ありがとうございます。

 キレイでいるとユーリ様が褒めてくれますからね」


 微笑みを浮かべるクリームと階段を昇り、一番上へ到着した。

 空中を歩くオレ達を見て、王都城壁を警備する兵たちが騒いでいるようだ。

 

「オレは王国最強の戦士、ユーリ・ストロガノフ。

 この国、もらい受けに来た」


 オレの声はクリームの風魔法によって増幅されており、王都内全てへ届けられるようになっている。

 城壁内から、悲鳴が聞こえた。


「オレと農奴と獣人達はこの国に革命を起こしに来た」


 喧騒がより大きくなる。


「でも、安心してください。

 ここに暮らす皆さま。

 我々は、非戦闘民に手を上げることなど決してしません」


 オレはアレクセイから叩き込まれた貴族階級の礼をし、精いっぱいの笑顔を浮かべた。


「農奴も、獣人もそしてオレだって。

 ……この世界のほんの一隅で生きていける場所さえあればそれで良かったんだ。

 片隅で生きる生活すら領主であるガガーリン家が壊した。

 だから、反逆した。

 領主を殺した。

 王都まで攻め上がった」


 ここは好きに語れと言われている。

 オレは器用な方ではない、セリフなど覚えられない。

 それにオレはスキルのせいでヒトに好かれることなど無い。

 それでも、戦う理由ぐらい語ろう。

 戦いで死んでいくものへのはなむけなのだから。


「賢きロシヤ国民たちよ、我らの拳を見届けてくれないか。

 戦う意思のないものを傷つけることは決してしない。

 約束する!」


 オレは、土下座をした。

 城内には少なからず動揺が走った。


「撃ち方、はじめ!」


 城内の警備兵たちが一斉に矢を放ち、投石を始めた。

 そう、このタイミング。

 これ以上、オレに話させてしまうと民意がこちらに傾く。

 

 ここでオレの口を塞いでしまうのが一番だ。

 

「イゾルデ! 出番だぞ」


 オレの近くに飛んできていたイゾルデが両手を広げて命令を発する。


「我は九十九神、眷属たる弓よ、投石よ、あまたの投射物よ。

 貴様らが反逆したのは我らが九十九神を統べる当代、ユーリ・ストロガノフ。

 天にツバ吐いた自分を恥じ、元の主人に突き刺され!」


 矢はピタリと動きを止め、クルリと向きを真反対へと変え、射手の元へ飛んで帰った。


「「ぎゃあああああああああああ」」


 城壁の上の弓手の心臓に次々と矢が突き刺さり、投石が投石機を破壊した。

 数台あった大砲は、球が砲身へと戻ってきて大爆発を起こしていた。


 あまりの出来事に城内は静まり返っている。


「ハハ、上出来だ。

 イゾルデ」

「ユーリ様。

 お褒め頂き光栄だよ。

 後は、クリームに任せるよ」


 イゾルデは手をひらひらと振り、ルタの元へ戻っていった。


「唖然から、呆然自失へ変える役目を脚本・演出のクリームヒルトが自ら演じます。

 ユーリ様、握ってくれますか」


 オレの手を握ったクリームの頭に手を置くと、嬉しそうに笑ってクリームは剣型へと姿を変えた。

 手に馴染んできた聖剣をしっかりと握り込む。


「手を出さなければ、殺しはしない。

 ただ、我々を甘く見るな。

 剣には、剣で返す」


 オレは跳躍し、聖剣を十字に振った。


【十字暴風刃】


 衝撃波が城門と城壁を打ち砕き、生じた突風が城壁内を破壊していく。

 城壁の中は静まり返っている。

 あっけに取られているのだろう。


「進軍開始!」


 オレは全軍に指示する。

 待ってましたとばかりに獣人達は咆哮をあげ、壊された城門から悠々と進撃していく。


 クリームはヒト型に戻り、オレの手を両手で握った。


「私、聖剣として一世一代の仕事が出来たでしょうか」

「クリームたちは元は神なんだから、道具みたいな考えをしないんじゃないのか?」


 クリームは真剣にオレを見つめた。


「私はただ好きな人のために役に立ちたいだけですよ」


 微笑むクリームの黒目と唇に視線が奪われてしまった。


「どうしました?」

「……見惚みとれてたんだ」


 クリームが目を見開いて驚いた後、顔を赤く染めた。


「……嬉しいです。

 ユーリ様……」


 感極まったクリームがオレに駆け寄って来た。

 オレはクリームの体重をしっかりと支える。


「ユーリ様、気を確かに」


 真上からブリュンヒルデが逆さまに出現し、クリームは驚いて離れた。

 

「あのさ、ここ空中だぞ?

 非常識な登場するなよ」

「お姉さまにうつつを抜かしている場合ではありませんわ、ユーリ様」


 ブリュンヒルデは黒傘をさしたまま、オレにこう言った。

 

「ぼやぼやしていると、結婚式で勇者ソフィアが誓いのキスをしてしまいますよ。

 今、神父が話し始めましたところですわ」


 ブリュンヒルデは話を続けた。


「クリームお姉さまは大艦巨砲主義な聖剣でありますから、足周りがおろそかでいらっしゃいます。

 ソフィアを誰にも渡したくないのなら、疾走力ナンバーワンの私か、それか」

「ハガネ!」


――はーい!


 ハガネは剣の姿で一直線にオレの手元へ飛んできた。

 オレがハガネを握り込むとオレの背中から3対の黒翼が生えた。


「全力で飛ばせ、ハガネ!」


――わかった、私に任せて!


 オレはハガネを握りしめ教会へ向け一直線に飛び立った。


 ☆★


 わかっていました。

 ユーリ様がハガネを選ぶということは。

 

 ……でも、私が一番速いのです。一番速く教会に速くつけるんです。

 私はガックリと肩を落とします。


 ユーリ様に握られるハガネから伝わってくる振動……

 一体感と高揚感を私も感じたかったのです。

 

 ユーリ様。

 できれば、また武器としてあなたの手のひらの上に……


 けれども、落ち込んだ顔など似合わない私は、青の鍔広帽子を目深にかぶり、黒傘を広げて優雅に歩くのです。


「ブ、ブリュンヒルデ様。

 げ、元気を出してください」


 魔剣である私のバディを務めるネコ族、アリシアが私を慰めてくれます。

 バディともなるとわずかなたたずまいの違いから、私の心に気づけるのでしょうか。

 私は表情に乏しいと自覚しておりますから。

 

 夜はビッチ、昼は清純派。

 生まれながらにして男心をもぎ取るハンター。

 それがネコ族女子でございますが、その中でも一番の名花、アリシア・コラル。

  

「ほ、宝物庫に封印の剣をとりに行くんでしょう?

 あたし、ブリュンヒルデさまと頑張ってユーリ様に褒められたいな」


 アリシアはうるるとした目で私を見つめてきます。

 

 ふう、仕方ありません。

 ユーリ様に握ってもらえない私は、他のやり方で認められるしかないのです。


「では、アリシア。

 この軍一番の仕事をしに行きましょうか」

「はい、ブリュンヒルデさま」


 私は剣型となり、アリシアが握るやいなや駆け出しました。

 石造りの王都を靴音も鳴らさずに走り、私たちは宝物庫へ急ぎます。


――わかっていますね、アリシア。ユーリ様は戦意を失ったものを殺すことを良しとしません。


「ええ、ですから」


 アリシアは出会った衛兵に私を振るいます。

 心の臓を一突き。


「……え……」


 口と胸元から血を流して衛兵は崩れ落ちました。

 

――素晴らしいわ、アリシア。即死ですから、ユーリ様からも褒めていただけます。


「ふふ、決して戦意を失わせたりしませんからね」


 満面の笑みを浮かべるアリシアを見て、ああ、私のバディがアリシアで良かったと私は思うのでした。


 ☆★


「それでは、誓いのキスを……」


 神父の声かけに新郎、新婦が歩み寄った。


 はは、ギリギリ間に合った。

 空中でハガネを垂直に構え、黒翼をはためかせて突撃した。

 

【天井崩し!】


 ドッゴオオオオン。


 オレは教会にでっかい風穴を開けた。


「「キャアアアアアアア」」


 砕かれたガラスや石がパラパラと落下する。

 妙にカラフルなのは、ステンドグラスも砕いたからだな。


 紳士、淑女は頭を抱え地面に座り込んで慌てふためいている。


 バサアッ


 オレは黒翼を広げたまま教会に開いた大穴から舞い降りた。


「ユーリ・ストロガノフ。

 お前何しているかわかっているのか」


 新郎ゲンナリー・ガガーリンがオレに問いかけた。

 ゲンナリー、オレは知ってるぞ、お前が獣人を迫害する方向にかじを切ったんだ。

 それでも一応改心の可能性だけは聞いておく。


「獣人を迫害した結果がこれだ、ゲンナリー。

 王都まで侵略を許した。

 なにか申し開きがあるなら今、聞くぞ」


 オレは、ゲンナリーへの距離を詰めた。


「ユーリ、お前は蛇蝎のごとく嫌われても、まだソフィアを諦めきれないのか。

 ははは、可愛そうなことだ。

 おい、ソフィア。

 ユーリに投げかけてやれ。

 お前がキライだとな」


 花嫁姿のソフィアは苦しそうに答えた。


「わ、私は……」


 ソフィアは瞳に涙をためたまま、二の句を告げるのをじっと耐えていた。


「おい、ほら言ってやれ。

 ソフィア。

 ユーリが生きているだけで、殺したくなりますってなあ」


 ゲンナリーは笑っていた。


「ゲンナリー。

 アンタが着ている燕尾服はすべて花嫁のためにあるんだ。

 ソフィアの顔をアンタ見たかい?

 花嫁を苦しませて平気な旦那なんて、神が許しても、私が許しはしないよッ!」


 ハサミの九十九神、シザーがオレの後ろから姿を現し、啖呵を切った。


「だ、だれだお前!」


「ハハハ、我はハサミの九十九神。

 服や着るものを司っているよ。

 普段は荒事は他の九十九神に任せてるんだけどね。

 今日は結婚式だから、出張って来たんだよ」


 シザーは飛び跳ねた。


「カンナ、キヅチ、スポットライトお願い!」


 カンナとキヅチがよたよたとシザーにスポットライトを当てる。


「「管轄外の仕事だよ……人使いが荒いよ」」


 二人とも不平を持っているみたいだ。


「後で、埋め合わせはさせてもらうからね。カンナ、キヅチ。

 我は九十九神。

 燕尾服よ、首回り飾り付けたるネクタイよ。

 我に従い、ゲンナリーを縛り上げよ!」


 シザーの掛け声でゲンナリーは燕尾服に締め付けられネクタイにより取り抑えられた。


「ち、ちくしょう」


 ゲンナリーは圧迫に耐えかね、気絶した。


 シザーはソフィアに近づいていく。


「な、何をする気なの?」


 ソフィアはシザーを警戒し後ずさった。

 シザーは目を見開いた。


「勇者かなんだか知らないけどね。

 アンタのために、私が来たんだ。

 花嫁を苦しませちゃいけないからね」

「どういうこと?」


 ソフィアがシザーをにらんだまま尋ねた。


「我は九十九神、ソフィアの腕と、足を優しく包んでおくれ『レインボーテープ』」


 シザーがそう告げると、レインボーテープがソフィアの身体を縛った。


「な、なにを……」


 ソフィアは身体をよじらせる。

 シザーはソフィアに笑顔を向けると、ドレスに似合う白いチョーカーを取り出した。


「花嫁ソフィア、あなたにプレゼントだよ。

 受け取ってくれるかい?」


 シザーはソフィアに向けてチョーカーを放り投げる。


「な、何をするつもり?」


 シザーは微笑んで答えた。


「私は服の九十九神。

 花嫁を飾り付けるのが、私の仕事」


 ソフィアの首をひとりでにチョーカーが飾り付けた。


「少しだけ眠るといいよ。

 ソフィア、アンタを苦しめるものはすべてユーリ様がかたづけてくれるはずだよ」


 シザーが指を鳴らすと、チョーカーが締まりソフィアは気を失った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ