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74 贋作の役割

 捕縛した5万強の兵士たちに大量の炊き出しを何とか用意した。

 包丁の九十九神ククルは大量調理に追われて、とても頑張っていたのでふらふらで目を回していた。

 

「……あれれ……」


 オレは倒れそうになったククルを支えた。


「よく頑張ってくれたな」

「……私、戦えないから……お料理頑張る」


 ククルは弱弱しく拳を突き出した。

 オレはその手を握ったが、ククルがオレの手を開いて飴玉をのっけてくれた。


「ユーリ様はもっと頑張ってる。

 ……ご褒美……だよ」


 オレは飴玉を口に放り込んでククルに礼を言った。

 ククルは立ち上がると、胸元で控えめに手を振ってオレと別れた。


「……頑張ってね……応援してる……」


 ククルの料理で栄養をしっかり与えたら、獣人達に兵士たちの管理を任せる。

 反乱を気にかける必要があるが、レインボーテープで長時間縛られていた兵士たちは数日は戦う気力など無いだろう。


 ただ、兵士たちを長時間監視するなど想定していない。

 オレ達は絶対に後一日で王都を落とす。

 オレと九十九神にはその力が十分にある。

 力を王国中に見せつけてやればいい。


 ☆★


 その日の夜。

 オレはハガネに呼ばれて夜伽の間に来ていた。


 部屋に入ると、ハガネはシザーが作った白いドレスを着ていた。

 ハガネが表情を見てすぐオレの心の中が読めるように、オレもハガネが何を考えているかだいたいわかる。


 明日、オレは封印の剣を手に入れる。

 オレが人間に――ソフィアに殺したいほど嫌われている原因であるスキルを封印の剣で封印したら――

 「九十九神と別れて、人間と、ソフィアと生きて行っていいんだよ」

 ハガネはそうオレに言うつもりなんだろう。


 今日でオレとさよならしても後悔しないように、お気に入りのドレスを着てオレと会いたかったんだろう。


 ハガネの唇にいつもよりしっかりと紅が引かれている。

 丁寧に化粧をして美しくあろうとしたハガネはキレイだし、いつもより大人びて見えた。


 でもね、オレはいつもの化粧の方が好きなんだ。

 ――そう言ったらきっとハガネは怒るだろうから、言わないけどね。


 ハガネは立ったままじっとオレを見つめている。

 白いドレスの腰あたりまで伸ばした長い銀髪は丁寧にかされていた。

 ハガネはいつも丁寧に髪をといてツヤをだしているのだ。


 真顔でじっとしていると、白い透明な肌と赤い瞳を持つハガネはどこか人間離れした美しさをたたえているが、ひとたび顔の表情を動かすと眠たげな大きな目も相まって随分と可愛らしい。


 オレは笑っているハガネが見たいのでほっぺたをつまんだ。


「んー、何するの」


 ハガネは笑って口を尖らせた。


「何か言いたいことがあるけど、躊躇してる顔」

「え?」


 オレがハガネの内心を言い当ててびっくりしているみたいだ。


「オレは、今ハガネが言いたいと思ってることなんか聞かないからな」

「……え? どういうこと?

 私が何言おうとしてるかわかるの?」


 ハガネは驚いている。


「ハガネだってオレの言いたいことわかるだろ」

「ユーリはすぐ顔に出るんだよ」


 ハガネはなんだか得意げだ。


「ハガネ、お前も思ってることが顔に出てるぞ」


 ハガネは顔を触って確認する。


「そ、そうかな」

「そうだよ」

「……言いたいことって言うのはね。

 私の一世一代の仕事をね、褒めて欲しいって言うことなんだ」


 ハガネはオレに笑顔を向けた。


「クリーム様やブリュンヒルデ様は違うけど……カンナやキヅチは役目を持って生まれて来たんだ」


 ハガネは思い出すように語った。


「私もね、役目を持って生まれて来たんだよ。

 それはね、ユーリが寂しくないように一緒に居ること」


 ハガネは胸を張った。


「ユーリはね、最近泣かなくなったんだ。

 もちろん、私だけじゃなくて他の九十九神もネコ族もユーリと一緒にいてくれるからだと思うんだけど。

 私、ユーリの役に立ったんだったら嬉しいな」


 オレは下を向いてハガネの頭に手を置いた。


「ユーリ、それは私が役に立ったってことでいいのかな?」


 オレは声を出さず、頷いた。


「良かった。

 私は道具だからね、ユーリの役に立ったら嬉しいんだ。

 それだけで、生まれてきて良かったって思うよ」


 ハガネは、にっこりと笑顔を向けた。


「だからね。

 私は幸せだったから、ユーリはこれからは好きに生きていいんだよ。

 せっかく、好きな人と会えるんだから」

「ハガネ。

 オレが何でお前を王妃にしたのか、わかってないのか」

「え?……戦いのシンボルだよね。

 アレクセイが笑って手を振っていればいいって教えてくれたよ?」


 やっぱり伝わってなかったのか。


「じゃあ、これあげるよ」


 オレはハガネの薬指に木製の指輪をはめた。

 オレも同じ位置にハガネのより少しだけ大きな指輪をはめる。


「指輪?」

「これはね、イゾルデの一部なんだ。

 オレは、カンナとキヅチを作る際にたくさん木工をしたから木の細工が得意なんだ。

 イゾルデに相談したら、永遠に腐らない木をくれるっていうから。

 貰った木で指輪を作ったんだ」


 ハガネは喜んでいる。


「ありがとう、嬉しいよ。

 ふふ、ユーリからもらったの2個目だね」


 ハガネは嬉しそうだが、どうやら比喩表現はあまり伝わらないみたい。


「ハガネ。

 この指輪ははずっと腐らない。

 だから、オレは死ぬまでこれは外さない」

「うん、私もずっと着けてるね」


 そうか、着けててくれるのか。

 オレは、ハガネを抱え上げた。


「わわ」


 ハガネは落ちそうになりオレにしがみついた。


「ずっと着けててくれるか?」

「うん、ユーリと離れてもずっと着けてるよ」


 ハガネは愛しそうに指輪を握った。

 ……なんで伝わらないかな。


「ハガネ、よくわかってないみたいだから、はっきり言うぞ。

 その指輪を付けてる間は、オレから離れるな」

「う、うん。

 私ユーリの言う通りにするよ」


 言葉にしないと伝わらないものってあるんだな。

 いや、ハガネが鈍いのもあるよなあ……


 オレはハガネに口づけをした。


「……ユーリ」

「ハガネ、ずっと一緒に居てくれ。

 明日からも、何があっても、だ」


 ハガネは固まっていた。


「……ユーリ、私はニセモノだよ」

「そんなこと言うなよ」


 オレはソフィアの代わりとしてお前を作った。

 自分では認めたくなかったけど、それはその通り。

 そして、そのことがハガネを傷つけていたことをオレだって知らないわけじゃなかった。


「私、冷たいよ?」

「ずっと一緒に居ればいい。

 オレの体温でハガネが温まるまで一緒にいればいいんだ」


 ハガネの瞳に涙がたまっていく。


「私は……代わりだったから、役目は終わりだと思ってたんだ。

 でもね、それでも良かった。

 ユーリは前より笑えるようになったからね」


 オレも涙を流してしまった。


「あーあ、オレが泣いたからハガネは役目を果たしてないな。

 仕事が終わってないから、ずっと一緒に居てくれないと困るな」


 ハガネは涙をドレスで拭いた。


「そっか、私、まだまだお役目終わってなかったんだね」

「そうだな、この指輪がなくなるまでは一緒に居てくれないと困るな」

「いつまでもなくならない指輪……これ、結婚指輪って思っていいのかな?」


 どう考えてもそうだと思うんだけど。


「……奥さんって呼ばれて喜んでたよな、ハガネ。」


 ハガネはオレに飛び込んできて、オレは思わずベッドに倒れた。

 倒れたオレの唇をハガネが奪った。


「奥様かあ、王妃さまになるより嬉しいよ。

 ……じゃあ、ユーリ。

 私も奥様になったことだし、わがままを一つ言ってもいいかな。

 奥様ってのはね、旦那にワガママを言うものなんだよ?」

「いいけど、何だ?」


 ベッドの上でオレに馬乗りになったまま、ハガネは笑顔で答えた。


「明日、ソフィアの結婚式をぶっ壊しに行こう。

 そして、花嫁をさらうんだ」


 ハガネは、オレが気遣って言い出しにくいだろうと思って、あえて言っているんだろう。

 オレはそれがわかっているけど、あえてハガネのわがままを聞いてやる。


「そうだな、ぶっ壊して攫いに行こう」


 ハガネはオレに笑いかけた。


「明日、晴れてるといいね」


 オレがぶち壊す結婚式であっても、晴れてたほうがいいのだろうか。

 でも、そうだな。ハガネがそういうんだから、晴れてた方がいいに決まってる。

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