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63 必中の矢

「ルタ……守ってやるからな……」


 ルタを守るという言葉がルタの口から発せられた。。

 それこそがイゾルデがルタの身体に【憑依】し、支配権を得たということなんだろう。

 ルタの体は弓の九十九神イゾルデからでたツタでがんじがらめに【憑依】されてしまっていた。


――イゾルデはユーリ様と戦った私のように、ルタに【憑依】をして戦うようですわ。


 ブリュンヒルデが説明してくれた。


「……イゾルデはそれを嫌がっている様だった」


――ええ。それに……私の【憑依】よりだいぶ食い込ませていますわ。


「何かまずいことがあるのか」


――接続が軽いのであれば、ユーリ様が使役してムリヤリ抜いて【憑依】を解くことも出来ました。ツタはルタの体深くまで入り込んでいます。あそこまで食い込んだものを抜くと身体を損傷してしまうでしょうね。


 ルタを案じていたように見えたイゾルデ。

 ルタの細腕を食い破らんとするような太いツタを、イゾルデが望んで接続したとは思えない。


「【隷属紋】は、趣味の悪い魔法ですけれど、使い勝手の良い魔法なのです。

 痛みを与え、言うことを利かせるだけではありません。

 意のままに操ることだってできますわ」


 自分の身を、他の誰かに操られる――オレはそんなのごめんだ。


「どうすれば解呪できる?」

「【隷属紋】をかけた魔法使いよりも実力のある魔法使い、もしくは力のある触媒を用意して解呪の魔法陣を持って解呪するか、契約者を殺すか――でしょうね。

 もちろん、【隷属紋】の影響下にあるものは主人を害することができないようになっておりますわ」


 イゾルデはオレ達が助けるほかはないってことか。


「イゾルデ、聞こえるか!」

「……ユーリ様……」


 イゾルデは【憑依】しルタの身体の支配権を奪っているルタの唇を不器用に動かし答えた。


「イゾルデ何をしておる、敵と話す暇があったら殺せ。

 さっきから伝えておるだろう、ワシの命を最善に考えよ、と。

 そのためにすることがわからないお主であるまい?

 目の前に立つ者すべて殺して見せよ。

 ルタを守りたいならな」


 領主ヨシフ・ガガーリンの声が聞こえた。


「ブリュンヒルデ様、私のところに来て」


 身体を震わせながらアリシアがブリュンヒルデの側に駆け寄った。


「アリシア、その激情……ふふふ、訳は聞きません。

 私をあなたに任せます、舞いなさい。アリシア」


 ブリュンヒルデは剣型となり、アリシアの方へ飛んだ。

 

「お前が、お前がああああ!」


 アリシアは空高く跳躍し、ブリュンヒルデを握りしめ一回転しながら暗器をばらまいた。


「領主ヨシフ・ガガーリン。

 アンタが、お父さんを隷属させたッ!

 ……イゾルデみたいに……父さんは涙を流して嫌がっていたけど……

 逆らえなくて、母さんを殺したッ!」


 アリシアがブリュンヒルデを遠くへ放り投げると、ブリュンヒルデはルタとイゾルデの背後を取ってヒト型と化し、暗器たちを使役した。


わたくしの可愛い暗器たち、領主ヨシフの頭に突き刺さりなさい!」


 ブリュンヒルデが使役した暗器たちは一斉に領主ヨシフへ襲い掛かった。


「……止まれ」


 ルタに憑依したイゾルデはブリュンヒルデの暗器を言葉だけで止めた。


「あらららら、さすが投射物の専門家ですわね。

 私の眷属のあの子たちを止めて見せるとは……」


 ブリュンヒルデは剣型へと変化してアリシアの手へと再び収まった。


「ブリュンヒルデ。

 お前の眷属を……ルタは、イゾルデはなぜ止められる?」

「……私、惚れた殿方の前では強がりたい女ですからユーリ様に言うのは、はばかられます」


 いや、戦闘中にそれは困る。


「おい、教えろ!」

「……嫌です、嫌ですわ……助けて、ハガネ」


 ハガネはヒト型に戻った。


「ブリュンヒルデさま、わたしが聞きます」

「ハガネ……」


 ブリュンヒルデはこそこそとハガネに伝えた。


「うんうん、そうですよね……」


 ハガネはブリュンヒルデから聞き取るとオレに伝えた。


「イゾルデは弓矢や暗器、銃弾など投射物のスペシャリストで、ブリュンヒルデさまは暗殺に関する近接戦闘道具や毒物、暗器や観測機等偵察道具等幅が広い反面、投射物への専門性が劣るんだって」


 ブリュンヒルデは恥ずかしそうにうなずいた。


「だから、投射物の使役だと力負けするらしいよ。

 逆に使役されていないのは金属を使役したからで、イゾルデと相性のいい木製だったら完全に支配権を奪われていただろうって」


 ハガネの説明にブリュンヒルデは耳を赤くしていた。


「役立たずな魔剣など、消えてしまいたいのです……禍々しい不要なもの。

 それが私です」

「頑張ってください、ブリュンヒルデ様」


 珍しくメソメソしているブリュンヒルデをハガネとアリシアが慰めていた。


「おい、二人とも速く武器に戻れ。

 戦闘中だぞ」

「はーい」


 ハガネは元気よく返事をして、ブリュンヒルデは無言で、ヒト型から剣型となりそれぞれオレとアリシアの手に収まった。 


「イゾルデ、何をのろのろやっている、奴らを射殺せ!」


 イゾルデがルタを少し動かすだけで、ツタが腕や足の血管を傷つけ少なくない血が流れてしまう。

 イゾルデは【隷属紋】によりルタへ強制的に【憑依】させられているが、できるだけルタを動かしたくないのだろう。

 くそ、長引かせられないな。


「領主の命は諦めるか、ルタとイゾルデの生存が優先だ」


 オレの言葉にアリシアは頷いた。


「……悪いけど死んでもらうよ」


 そうつぶやくとイゾルデが憑依しているルタは力いっぱい弓を引き絞り矢を放った。


 矢は弓から離れるごとにスピードを増した。


「……矢が『だんだん速くなる』なんてありかよ」


 オレは物理法則を完全に無視した加速に驚いていた。


――さすが、伝説級の武器ですね、私と同格なだけありますわね。素晴らしい技ですわ! 悔しいですが。


 ブリュンヒルデがうっとりしたり、悔しがったりしている間、装備者のアリシアは必死に矢をよけていた。


「ちょっと何とかしてよ、ブリュンヒルデ様!」


――困りましたわ。眷属として矢を使役しようとやってはいるのですが、木製ですし、私の言うことなど聞いてくれません。スピードを緩めるのが精一杯ですわ。


「全然スピード緩んでませんってば!」


 必死にしゃがんで矢を避けたアリシアであるが、矢はクルリと反転し、再度アリシアを追いかけた。


「うっそでしょおおおお!」


 しゃがんだアリシアは矢を避けられそうにもなかった。


「ははは、避けても無駄だ。

 イゾルデの矢は必中の矢、避けても避けても執拗に標的を狙い続ける。

 残念だったな、ネコ娘。

 お前も、意に反して操られた者に殺されるがいい、お前の母のようにな」


 アリシアは領主ヨシフを睨んだ。


「ヨシフうううううう!」


 アリシア目掛けて飛んでいく矢の前にオレは立ちふさがり大声で叫んだ。


「【防御障壁!】」


――任せて!


 オレの愛剣ハガネは、銀色に光り輝く分厚い防御障壁を生成し、猛スピードで推進する矢を絡めとってみせた。


 オレはトリガーとして叫ぶだけで後の防御障壁の生成などはハガネがしてくれる。

 以前氷竜のブレスを防ぐべくハガネが見よう見まねで作った防御障壁はホントにちっちゃなものだった。


 ハガネの成長、ちゃんと見てるからな。


「成長してるな。

 偉いぞ、ハガネ」


 オレはハガネにだけ聞こえるようにつぶやいた。


――ありがとう。


 ハガネは刀身を震わせて喜んでいるようだった。

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