32 魔剣と聖剣
ブリュンヒルデは暗器を自分の周りに漂わせながら話した。
「ユーリ様、暗器があなたの元へ行きますよ。
毒も塗ってありますので、死なないでいただけると助かりますわ」
――暗器など、私にとってはコバエのようなもの、通用すると思っているんですか。
クリームが答える。
「フフ、お姉さま。ユーリ様の筆頭武器の座は私がもらいますからね」
ブリュンヒルデは挑発的に笑う。
「我は九十九神、眷属たちよ。
目の前の人間に集え!」
ブリュンヒルデの号令で暗器が四方八方から飛んでくる。
「クリーム、全部避けるのきついぞ」
オレはダンスを強制的に踊らされているかのように体を動かして避ける。
――避けないと変な病気にかかりますよ。
毒物もまた、ブリュンヒルデの眷属ですからね。
まあ、即死させるのを嫌うので、即死はしませんが。
「すぐ死なないだけで死ぬんだろうが!」
――致死量ではあるでしょうね。
クリームが毒について解説してくれる。
笑顔で解説している。クリームとブリュンヒルデは実は仲がいいんじゃないだろうか。
――でも、いつまでもユーリ様にへんてこダンスを踊らせているわけにはいきませんね
クリームは発光し、魔法陣を展開している。
――私の防御障壁が、ブレス対策だけと思わないことね。
【防御障壁】
オレを目掛けて飛んでくる暗器を防御障壁を展開して跳ね返し、
――【磁力の網】
跳ね返りながらもオレの周りを飛び回る暗器をクリームは磁力を展開して絡めとった。
――【斥力】
クリームは動きを止めた暗器を四方八方に飛ばす。
「へえ、お姉さま、そんな小細工もできるようになったのですね」
ブリュンヒルデへ向かって飛んでいく暗器を目くらましとして活用し、ブリュンヒルデに近づく。
視力以外でもオレ達の動きを捕捉しているブリュンヒルデは、後ろに跳躍しオレと距離を取った。
「はああああああ!」
クリームが作ってくれた先手だ。
精いっぱいの剣速で横薙ぎを放ったが跳躍して交わされた。
「あらら、外した。憑依って強いんだな」
――憑依は安定した強さを持ちますよ。武器と人が完全に一体と化すわけですからね。我々のように二心の場合、連携がうまく行かないと後手に回ってしまいます。ただ、我々みたいに二つの意思を持ったままうまくつながれれば、憑依以上の強さを出せます。……後手に回っているのは、私たちがまだうまくつながれていないのでしょうね。
「まだ、出会ったばっかりだろ、オレ達。
もっと特訓しようぜ」
――そうですね、特訓しましょうね。ハガネには悪いですが、ユーリ様。私にも、もう少し隣にいる時間を作ってくださいますか?
「そうだな、忙しくさせてすまなかった。
これからお前と一緒の時間をもっと取ろうな、クリーム」
――はい。
心なしか、嬉しそうな声。
「ただこれからもっと特訓するとして。
クリーム、オレはこの試合も落とすつもりはないぞ」
――それでこそわが主、ユーリ様ですね。勝利のための一案があります、聞いていただけますか。
「何だ?」
――ブリュンヒルデは耳もいいので、無駄話は出来ません。私をブリュンヒルデに思いっきりぶん投げていただけますか。
「……作戦はわからないが、任せるぞ。詳しく話すと作戦がばれるんだろ」
――では、よろしくお願いします。
「ブリュンヒルデ。今から、お前に聖剣をぶっ刺す」
オレの宣言に対し、ブリュンヒルデは笑顔で答えた。
「さすがのユーリ様でも私を捕まえられますかしら」
「行くぞ。おらああああああああ!」
オレは精いっぱいの力を込めて剣型のクリーム、聖剣バルムンクを投擲した。
ブリュンヒルデはわざとぎりぎりに避ける。
「当たりませんよ?」
「そうかしら?」
クリームはヒト型に戻り、魔法を詠唱した。
【磁力の網】
【引力】!
クリームを中心として磁力の網を張り、ブリュンヒルデを引きずり込んでいく。
「お姉さま、ヒト型でもそんな大魔法を行使できるのですね……さすがですわ」
ブリュンヒルデは、クリームから距離をとろうと抵抗するが、引き寄せられていく。
「磁力展開など我々には不要ではありませんか、なぜそんな魔法を習得したのです?
磁力展開で支配されるモノなど我々の眷属ではありませんか。……まさか」
ブリュンヒルデは驚いていた。
「ふふふ、まさにこういう場面を想定していたのです。
私と同格のあなたと戦う場合、あなたの眷属を思いのままに操れません」
クリームは魔法陣を素早く描いた。
「それでも、私は勝たねばならないのです。
ユーリ様が万が一動けないときこそ、私はだれにも負けません!
それこそ、相手があなた達聖剣、魔剣の類いであっても、私はあなたの眷属を支配し、勝利を手にするのです」
クリームは捕まえたブリュンヒルデに対して、更に魔法をかけた。
【睨まれた蛙】
クリームは足の筋力を奪う脱力系の魔法を唱えた。
「あなたの足を奪いました。ユーリ様の力を借りずとも【九十九神】をねじ伏せられるように、すべての【九十九神】をユーリ様の元へ集結させる力をを私は備えねばならないのです」
「……一時の享楽を求めていた私では、見えなかった景色を見ているのですね、お姉さま」
オレはオレが着込んだチェインメイルがクリームの磁力魔法で引きつけられるままにブリュンヒルデへ近づき、ボディに深く打撃を加えた。
先ほど殴ったのと同じ位置に丁寧に打撃を決めた。
「ぐふぅ……」
ヒト部分である女剣士は白目を向いて泡を吹いた。
「降参だろ?」
――はい。これ以上戦いますと、素体が死んでしまいます。
ブリュンヒルデは女剣士に接続していた憑依のための管を取ると、地面に落ち動かなくなった。
――限界を超えて戦ったのに、お姉さまにしてやられてしまいました。
クリームはブリュンヒルデを拾い、声をかけた。
「強くなりましたね、ブリュンヒルデ。疲れたでしょう。
2,3日そのまま眠りなさい。ヒト型にはなれないのでしょう?」
――ええ、ご存知の通り、憑依はひどく疲労を感じやすいものなのです。しばらく、失礼しますね、ユーリ様。
ブリュンヒルデは眠りについたようだ。




