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30 憤怒のリカルド

「さあ、皆さん準備できましたか?」

「「はーい」」


 クリームが問いかけると、ハガネ、カンナ、キヅチが返事をした。

 ダンジョン突入準備とはキモノを着て飾り付けることなのかな?


 ハガネは白地に花を散らしたキモノ。

 カンナは黄色地に毬と蝶の柄。

 キヅチは桃色のキモノに柄は同じく毬と蝶。

 

「ハガネ達は初めてのダンジョン探索ですからね、可愛い恰好をさせてあげないと」


 ハガネ達の晴れ舞台に感動して涙を拭っている。

 クリームはというと青地に扇の柄。


 なんでダンジョン行くのにおめかしする必要があるのかな?


「ハガネ様、良く似合ってますね!」

「ありがとう。アリシアも可愛いね」


 ハガネに声をかけるアリシアは赤地にサクラを散らしたキモノを着ている。

 リカルドも黒の羽織を着ていた。


「リカルド、ネコ族はダンジョンにキモノで行くのが一般的なのか?」

「ハガネ様から私たちの分も用意して来いって言われたんです」


 手回しがいいな。この分だと……


「ユーリのはこれだよ」


 ハガネが渡してきた。


「黒い袴はいいとしてだな。紫の羽織って派手過ぎないか?」

「えー、恰好いいよ。

 アリシアがね、東方の流行りを教えてくれたんだよ」


 濃い紫の羽織に黒袴。色の取り合わせは悪くないような気がするけど。


「まあ、いいや。着よう」


 オレは用意されたものに着替える。

 

「これは……」


 クリームが目を見開いた。


「ユーリ、カッコいいよ」

「そうか?」

「ええ。似合ってますよ!」


 アリシアとハガネは二人でキャーキャーオレを見ながら話して楽しそうだけど。


「ユーリ様キモノ」

「似合ってる」


 カンナとキヅチが褒めてくれたので良しとするか。


「ユーリは色々他の服も似合うと思うよ。

 洋服も今度新しいの作ってあげるからね」


 ハガネがこちらを見て笑顔をくれた。


「頼むよ。あ、でも古い鎧も洗っておいてね」

「うん。いつもの皮鎧は私にとっても相棒だからね」


 ☆★


 オレとハガネを先頭に洞窟を進んでいく。

 岩肌がゴツゴツしている。

 明かりはないので、アリシアとリカルドがランタンを用意していた。

 しばらく進むと道幅が広くなり、広大な場所に出た。


 ここまで、モンスターには出会っていない。


「モンスター、いませんね」

「そうだな」


 アリシアの問いにオレが答える。


「入口付近はまだ氷竜お好みの環境になっていませんし、瘴気が薄いですからね」


 クリームが言った。


「人間の冒険者もここまでは苦も無く来れるでしょうから、モンスターがいても狩りつくしているでしょうね」


 クリームが足を止める。


「どうかしました?」


 リカルドが反応した。


「ここらで、訓練しましょうか。

 ハガネ、カンナとキヅチを連れてきて」

「はい」


 クリームの前に皆並んだ。

 

「ユーリ様。お願いする必要もありませんが、護衛をよろしくお願いします。リカルド様も」

「ああ」

「わかりました」


 オレとリカルドで周囲を見張る。


「身体の前で手を合わせて」

「はい」

 

 3人はクリームの指示に従う。


「ハガネは魔剣と【共鳴】させなさい」

「はい」

「カンナとキヅチはハガネをよく見ておくんですよ」

「はい!」


 カンナとキヅチがハガネを注目している。

 ハガネは目を見開き、両手を合わせている。


「小さなものですが、私が【振動】を預けます。

 自分の体内で大きくして、ダンジョンのどこかにいる魔剣にぶつけなさい。

 できますね」

「はい」


 クリームが目をつぶり精神集中に入る。

 クリームの体が少しずつ震えだした。

 

 身体を震わせたままゆっくりとハガネに近づくと、ハガネの胸に右手を当て。


「受け取りなさい」


 とつぶやくと、オレの耳にわずかに聞こえるくらいの高音と振動がハガネに伝わったのがわかった。


「く……」


 落ち着いたクリームとは対照的にハガネは目を見開いて体を震わせている。

 唇を噛み、衝撃に耐えているようだ。


「自分の体内の空間で振動を包むイメージです。

 自分の体の中で自由に遊ばせて膨らませて大きくしてから出してあげる。

 けして振動で自分がつぶれてもなりませんし、振動を殺してもいけません」

「……はい」


 ハガネが小さく答え、それを見てクリームが微笑む。


「言葉が発せるなら上出来ですね。

 筋がいいですよ、ハガネ」


 ハガネが身体を振動させ、目を見開きいて辛そうにしているが、次第と表情から苦しさは取れていく。


「……ふぅ……」

「良さそうね」

「はい」


 クリームが風魔法を詠唱し、ハガネの足元に風で足場を作ってやる。


 その上に乗ったハガネは空中に浮かんだ。


「頑張ったわね。振動を、私がハガネにしたみたいに収束させる必要はない。

 叫びなさい、ハガネ。思うまま解放しなさい!」

「はああああああああああああああああああああ!」


 ハガネが目を見開き、両手を広げ叫ぶと金属音と共にあたりに振動が走り、パラパラと小石が落ちた。


「いやあああ」


 カンナとキヅチにはより影響が強いようでその場にへたりこんだ。


 立っているのもやっとといったハガネをクリームが抱きしめる。


「ハガネ、よくできました」

「クリーム様……私共鳴できました。

 振動の跳ね返りも感知できました」


 クリームはハガネの背中をさすっていた。


「魔剣は、すぐ下の階層にいるみたいですね」

「共鳴させることができたみたいね、精度も正確よ」

「お褒め頂きありがとうございます、クリーム様」


 オレはクリームに声をかけた。


「終わったのか?」

「ええ。ハガネも私と同じように他の【九十九神】と共鳴できるようになりました」

「頑張ったな」

「ユーリ、私【共鳴】出来たよ」


 ハガネがオレのところに歩いて来る。


「あ……」


 ハガネが足をもつれさせたので、抱きとめた。


「ありがとう、ユーリ」

「お疲れ様」


 息が上がったハガネの頭を撫でてやる。

 と、カンナとキヅチが近寄ってくる。


「そうだな、カンナとキヅチも頑張ったな」


 オレはカンナとキヅチに目線を合わせて、頭を撫でてやった。


「頑張ったんだよ」

「ふふふ」


 リカルドとアリシアがオレに近づいてきた。


「ユーリ様、聞こえますか?」

「少しな。でもオレの耳は獣人族よりは劣るよ。

 この足音モンスターか? 冒険者か?」


 アリシアが答える。


「下の階から、冒険者が10名ほど上がって来ています。

 足音が激しいので、何者かから逃げて来たのではないかと」

「クリーム、ハガネ。その冒険者たちが魔剣を持っている可能性は?」

「ハガネ」


 クリームはハガネに答えさせるつもりだ。


「魔剣は、こちらへは近づいて来てないよ」


 あまり状況が見えないが……


「まあ、いい。冒険者をやり過ごして、下の階層へ向かおう」


 ☆★


 オレ達は物陰に隠れ、冒険者たちをやり過ごすことにした。

 少し立つと、冒険者たちが走ってきた。


 離れているのでオレの耳では聞き取れないが、耳のいいアリシアに聞きとってもらい内容を伝えてもらった。


「ちっきしょー、フロストフラッグ数が多すぎるだろ」

「魔鉱石はもっと奥だろ? 魔法があっちこっちから飛んでくるしよ。

 時間があれば何とかなるかもしれないが、寒くて長時間活動できないからな」


 男達は体を震わせていた。下は寒いみたいだな。


「魔導士がすぐ死ぬのが悪いんだよ。何が真銀級シルバーだ。

 カエルどもの魔法も相殺できないで死んじまいやがって」

「仕方ないだろ、ああ、数が多くちゃよお」

「お前ら、ちょっと黙ってくれ」


 頭をそり上げた小男が、冒険者たちに話しかけた。


「お。ヒヒヒ、お宝の気配か」


 小男はニヤッを欲望を滾らせた笑顔を浮かべた。


「ある意味な。オレは【匂いをかぎ分けるスキル】を高レベルで持っていてな。

 ゲヘヘヘ。女の匂いしかわからないんだけどよ。

 領主の奴隷狩りによく連れて行ってもらうのよ。

 間違いねえ、獣人の女がいるぜ」

「女か」


 ゲヘヘヘヘと笑いだし、どう考えても悪いことを考えているようだ。


「しかも獣人なら問題ないな、

 女冒険者とかだと後でもめるけどよ。

 獣人娘ならなにやってもいいもんなあ。

 この前の女もさあ、良かったよなあ。リサとかいうネコ娘がよ。

 ぎゃははははは…最高だったぜ」


 リカルドが立ち上がると、冒険者のもとへ走っていった。


「ちょ、ちょっと」


 オレが止める間もなかった。


「リサ、と言ったか」


 リカルドが小男に話しかける。


「何だ、獣人」


 冒険者たちは戦闘態勢を取った。


「リサをどうした」

「はッ! 知り合いか」


 小男は引き笑いをし、口角をあげた。


「領主の奴隷狩りで見つけて、領主の矢が腹に刺さったんだよな。

 領主は狩りが好きなだけだからよお。

 あとは、好きにしろっていわれたからよお。『助けて』って言ってたっけな」


 リカルドが男を睨む。


「なんだよ、その目は。

 あの女が死んだのはオレ達のせいじゃないぜ。

 どの道、腹に矢が刺さってたんだ。遅かれ、早かれ……」

「そんな女を良く弄べるな、外道が!」


 リカルドがツメで小男の首筋を裂く。


「ぎゃああああああ!」


 小男の首筋からは血が噴き出ており、絶命するのも時間の問題だろう。


「た、助けてくれ……」

「リサはお前らにそう言ったはずだ。

 お前らは助けを無視した。違うかッ!」


 首から血を流している小男を怒りのままに蹴っ飛ばし、壁に激突させると何の声も出さなくなった。


「この獣人、強いぞ。全員でかかれ!」


 冒険者たちが、リカルドを取り囲む。


「アリシア、リサって知っているか」

「うん。リカルドおじちゃんの娘。薬草採りに行ってね。

 村に……か、帰ってきたときには……」


 オレはアリシアを抱き寄せる。


「もういい。辛いことを思い出させたな」


 しかし、どうするかな。

 リカルドも多勢に無勢だろうし……オレが助けに行くと、殺したいほど嫌われるスキル【ゴキブリ】のせいで逃げ出しそうな奴もオレを殺しに襲ってくるんだよなあ。


「我は【九十九神】。

 子らよ、我のもとに集え!」


 ハガネが【九十九神】としての力を発揮し、冒険者達が持つ武器を取り上げた。


「な、なんだその魔法は!」


 冒険者たちが驚いている。

 ハガネが冒険者の元へ歩いていく。


「武器が無いと戦えないでしょ。もう引いて。

 みんな死にたいわけじゃないんでしょ」


 冒険者たちが互いに顔を見合わせている間、一人魔法使いが居たのか魔法を詠唱し、ハガネ目掛けて発射した。


 【火球(ファイアーボール)】 魔法使いが宙に書いた魔法陣から、大きな炎がハガネの背中目掛けて飛んでいった。


 「小娘が。何様のつもりだよ、ククク」


 魔法使いは嫌らしい笑みを浮かべていた。

 ハガネに迫りくる炎が、オレの脳裏に焼けただれた背中を思い出させた。

 ……今度こそ、守って見せる。


 「クリームヒルトぉ!」


 オレはクリームヒルトを呼び寄せ剣にかえ、全力で投擲した。

 投擲された聖剣は一瞬で火球を風圧でかき消すとそのまま前進し魔法使いや冒険者を引きちぎりながら、洞窟に巨大な横穴を穿った。


「ひぎゃあああ」


 生き残った数名が叫びをあげた。

 

 オレはハガネの元へ駆け寄った。


「大丈夫か!」


 オレはハガネを抱きしめた。


「ユーリ、助けてくれてありがとう」

「ケガはない?」


 オレはハガネの前と後ろを見てしっかりと触り、傷が無いことを確かめた。


「良かった、傷はないな」


 ハガネは顔を赤らめていた。


「……ユーリ、今度から触るときは声をかけてね」

「あ、ごめん」


 足音を響かせ、一人の女冒険者が走り込んできた。


「リカルド下がれ!」

「は、はい!」


 オレは異様な雰囲気を感じてリカルドをオレの方に引かせた。

 ハガネを剣型にしてオレの手で握り混み、構えた。


「はははははははは!」


 長身の女冒険者は跳躍して、生き残った冒険者たちの真ん中へ。

 剣の握り方、立ち振る舞いが剣士としての腕は確かであると伝えてくれる。

 剣士は魔剣から滴る血を舌で舐めとると恍惚の表情を浮かべた。


「ふふふ、あなたたち知っていますか? 恐怖にまみれた人間の血ほどに美味しいものはないということを」


 冒険者たちが身構える。


「何だ、お前は!」

「……思い出した、アンタ黄金級の冒険者だよな、助けてくれ。

 あいつらに襲われているんだ! み、みんな殺されたんだ!」


 女剣士の冷たい瞳が冒険者を見定めた。


「仲間が殺されたのでしたら、その命を背負い自ら敵を討つのが筋ではございませんか?

 七代先まで仲間の死を背負うのが、敵というものでございましょう。

 仲間のかたきを討つという自らの責務を投げ出し、女にすがり助けを求める…… 

 美しくはありませんねえ、残念ですわ」


 女剣士は、冒険者たちに近づいていく。


「な、なんだ、何をするんだ!」


 女剣士が舞う様に剣を振り、的確に一人一太刀斬りつけていく。

 剣を振るたび風を切る音が響き、丁寧に首筋、手首を狙い流血させていた。


「ああああああああ!」


 一太刀で確実に致命傷を与えつつ即死は避けている。

 芸術的ではあるが、悪趣味だな。


「そちらの獣人の方の激情も私は好きですけど」


 女剣士はオレの方へ近づいてくる。


「性格はねじ曲がっていらっしゃいますが、殿方の趣味は私と同じくツボを抑えていらっしゃいますね。 お姉さま」


 くすくすと笑った。


「何者だ」


 クリームが、髪についた土を払いながら遠くから歩いてきた。


「あの女剣士に憑依している魔剣こそブリュンヒルデ・ダーインスレイブ。

 血と男が大好きな【人殺しの魔剣】です」

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