新たな刺客
そうして……数日後ですな。
「尚文!」
逃走した錬がイヌルト姿で村に来てますぞ。
「あれ? えーっとケルススくんどうしたの?」
「どうしたじゃない! アイツは一体何だ!」
「あいつ?」
キャンキャンと錬が喚いてますぞ。
「ルフとか鳴く奴だ」
「どっちかというと俺じゃなく、ラフミちゃん達じゃない?」
お義父さんが眉を寄せて注意しますぞ。
「そうだが止めろ!」
「八つ当たりだよそれ……言いやすいからって俺に言わないでよ」
「言わずに居られるか!」
という所で俺に気づいて錬が飛び掛かって来たので弾きますぞ。
「お前も関わってるな!」
「別に好きで作ってないですぞ。脅されたのですな」
着地した錬がブンブンと抗議に剣を振りかぶって来るので避けてやりますぞ。
「脅されてもあんなの作るな!」
「というか何があったの? ルフくんが何かやらかしたわけ? ラフミちゃんみたいに」
「やったようなもんだ! アイツは突然姿を現し、ルナに愛嬌よく鳴いて近づいてキールと一緒に、闇の料理勝負で客の相手をしやがるんだ! しかもつまみ食いしまくる」
「えーっと、つまみ食いはともかく、ケルススが料理をしている最中にキールくんとルナちゃんと一緒に接客してるだけ?」
特に何か問題があるのですかな?
「だけとはなんだ! 俺の平穏な闇の料理勝負に混ざった挙句、ルナの関心を引きやがるんだぞ」
「嫌がってたよね。ルナちゃんの事。それが今どうして?」
「あいつ、キールと手を繋いで出かけて行くんだぞ。キールはキールで『見た目似てるカッコいい子! ヴォルフ兄ちゃんとも似てるけどなんか、真似して男になるぜ!』って言ってるんだぞ」
「あー……ルフくんの方がケルススよりも脈がありそうかも? ってルナちゃん思ってるのかもね。もう少しキールくんと仲良くしているように見せないとダメかも?」
「く……」
キールは中々誰とでも仲良く出来ますからな。
どっちかというとコミュが苦手な錬を引っ張るタイプではあるのですぞ。
そこにルフとやらが混ざった三角関係という奴ですな。
「あんな奴にまた俺は居場所を取られるのか! と、前に出たら『ラフラフあいつが刺客はどうかね?』 と、姿を現したんだ」
なんとなくですが、ルフとキールが仲良くしていて、そこを楽しそうに見ているルナちゃんという光景を錬の仲間たちをラフミにとられた時と同じような顔で見ていたと想像できますぞ。
「ヴォフ……被害拡大してる」
「ヴォルフ! アイツはなんだ! お前の子供か!?」
「ヴォッフ! 違う! 将来子供欲しいけど俺の子じゃない」
ヴォルフが狼姿に変身してお義父さんの前で寝転がりますぞ。
撫でて欲しいとお腹をゴロンとしてますぞ。
おのれですぞ。癖になってますな!
「なんかヴォルフもあの子が気になってしょうがないみたいでねー」
「そうか奇遇だな。だが、お前が引き取れ」
「やだ! そっちが一緒に旅して三角してればいい! こっちもライバル多くて忙しい!」
「ここで断わるのか?」
チャキっと錬が剣を向けてキャンキャン鳴いてますぞ。
「ヴォルフはシオン達と仲いいもんね。波の被害を抑える競争を楽しんでいるみたいだし」
ただ、勇者だからヴォルフがかなり有利だけどね。
と、お義父さんが絶対何か勘違いしてそうな事を仰ってますぞ。
「ラフラフ、気に入ってくれて何より」
「黙れ!」
ラフミが現れたと同時に錬が攻撃してボフっと避けられてますぞ。
「ふふ、最初の一匹が出来ているのでな。量産はそこまで難しくないとルナにも伝えるのも考えねばなぁ?」
ラフ種を増やす事に関しては別のループのお義父さんも聞いてきましたぞ。
「ぐ……何が目的だ!」
「色々とあるが、アゾット。貴様に私がして欲しい事などわからないはず無いだろう? そろそろ闇の料理で遊ぶ合間にメルロマルクの公務もして貰おうじゃないか」
「くううう……」
「わー……酷いなぁ……俺も時々シルトヴェルトの方でヴォルフと一緒に仕事してるけど」
「ああ、盾の勇者もやっている事だぞ? 私にだけさせるのは程ほどにして欲しい所だぞ? ああ?」
「くそおおお!」
錬が牙をむき出しにして唸ってますな。
「これがラフミちゃん也の錬の説得かー将来的にルナちゃんが満面の笑みに成りそうだけど……ルフくんがキールくんのお婿になるのか? キールくんモテモテなのかな?」
どうでしょうかな?
キールがどうなったか激しくどうでも良いので覚えて無いですぞ。
ですが奴の材料はヴォルフとキールと錬の毛ですぞ?
どちらかと言えば子供に近い様な?
まあ、色々と混ぜ合わせたので問題は無いですがな。
「とはいえルフくんって戦い好きだから錬……ケルススとも仲良く出来そうだけどね」
「ああ、なんか戦おうぜと妙に戦闘を望んで来るぞアイツ」
「ヴォフ……本当、いったい何を作った?」
「フフ……存分に嫌がるがいい。私のオリジナルの様に」
それはお姉さんの事を言ってるのでしょうかな? ですが後年はそこそこ関係は良好でしたぞ?
「さーて、どうすればいいかわかるだろう? アゾット?」
「く……尚文、何をすれば良いんだ」
「そこまで難しい事は無いよ……愛想笑いを浮かべて手を振ったりすればいいだけだし、難しい事は周囲の人がやってくれる。人前で普通にして無難な事を言ってるだけさ」
メルロマルクの場合、女王やメルティちゃんが補佐してくれるよ。
と、お義父さんが錬に教えてましたぞ。
まあ助けることが出来なかったお義父さんは大体、婚約者に面倒な公務は丸投げで愚痴られていましたな。
このループではシルトヴェルトでの公務はほぼヴォルフが前に出て片づけているのですぞ。
「ふふ、やる事はそんなに変わらんぞ? 基本的にはな」
「……まあ、俺もチラッと見たのだとちょっと中二台詞の練習というかクロちゃん言語を意識すれば良いだけかな」
「本気で嫌なんだが……」
錬がイヌルト姿で鳥肌を立てているような様子で両腕を抱えて首を振ってましたな。
「とはいえ嫌がって居たらルフくんが錬の料理を集りにくる感じだね。俺の所にも来てるけどね。あの見た目の子ってみんなキールくん似なのかな?」
お義父さんの所にやってきますからな。
活動量が非常に多いですぞ。
「くそ……樹に絡まないか」
「樹とは接点ある性格じゃないんじゃない? そんな見てないけどどっちかというと獣枠だからなー……」
マスコットに近いんじゃない?
在りし日のヴォルフみたいな子とお義父さんは言いそうなのを堪えておりましたな。
「ルフゥ」
なんて話をしていると、件のルフと名付けられた奴が姿を見せましたぞ。
「まったく、この精霊が出てくるのは予想外だったなの」
ライバルが連れて来たのでしょうかな?
「ルッフー!」
で、ヴォルフを指さして勝負を申し出るようなポーズを取りましたな。
その手には……記憶の彼方に見覚えのある武器がありましたぞ。
「え? えっと、あの武器。なんかヴォルフやラフミちゃんの武器に似てるような?」
「ヴォ、ヴォフ? まさか小手?」
おお! そうですぞ!
なんとループ内で虎男以外が持っているのを見たことがない小手の七星武器がルフとやらの手に収まっていたのですぞ。
「そう言う事だ。まあ可能性があったので連れて行くついでに軽く挨拶の後に触らせたら気に入ったようでな」
「ルフフ! ルッフ!」
オラ! 勝負しようぜ!
とばかりにルフがヴォルフに手招きしてますぞ。
「ヴォフ……」
ライバルが小声で「選ばれた事があるくらいには資質はある魂の残滓をよくも選んだなの」と愚痴って顔を反らしてますぞ。
俺以外には聞こえていないようでしたがな。
「小手の勇者にまでなって来ちゃったの君?」
「ルッフ!」
じゃあ、勝負をしようぜぇええええ!
と、ルフがヴォルフに向かって拳を振り上げて飛び掛かったのですぞ。




