第三十九話 「堕ちた理由」
「俺には昔、七賢法になる2年前、8歳の娘がいたんだ」
「名前はヒナ、出産時に死んでしまった妻が名付けた名前だ」
* * *
「お父さん、いい加減行かせてよ〜」
「ダメだ、変な虫が来る」
「そんなわけないでしょ〜?」
今思えば、随分と過保護すぎた。
あの時も、ヒナが名門の魔法学校に行きたいと何度も言ってきたな…。
ヒナは魔法の才に恵まれていた、俺とは違った。
ヒナは努力家で、何事にも全力で頑張るいい子だった…。
「お父さん! 私、やっとレベル3の魔法を一つ覚えれたよ!」
「おぉ、凄いなぁ!」
「でしょ〜もっと褒めて〜!」
「よーしよし! いい子だな〜ヒナは〜!」
「へへ〜!」
俺はロクに魔法を使えなかったのに、ヒナは一人で勉強し、どんどん、上達していった。
普通は親の力を借りて育つはずが、ヒナは親の力を借りずに、立派に育った。
「なぁヒナ」
「ん〜? な〜に〜お父さん?」
「どうしてそんなに頑張れるんだ?」
「ん〜? そんなの一つしかないでしょ〜?」
「あっ、」
「私が一人前になって、お父さんに親孝行するの!」
「それが私の夢!」
「え、でも、俺はヒナに何もしてな——」
「もー、そんなこと言わないでぇ!」
「お父さんはいるだけで私は頑張れるの!」
「そ、そうなのか」
「そうそう!」
本当に、いい子だった…。
俺はその当時、魔法が使えないことで人の輪に入らず孤立していた。
魔法が使えないものは弱者、そんな価値観に染まっている性で、ロクに仕事もできずにいた。
ここままではダメだ…!
絶対にヒナを、もっと裕福が暮らしができるように…!
そこで俺は決心した。
高みを目指すことに。
冒険者ランクとは別に、魔法使いのランクによっても依頼の報酬額は増える。
当時の俺は五級魔法使い、最低ランクだった。
だから必死に鍛えた。
自分の天啓とも向き合い、ひたすら鍛えた。
試験では天啓を隠し、身体強化魔法と偽った。
どんどん冒険者ランクを上げていき、どんどん依頼もこなしていった。
魔法使いの級も、上げていった。
全てはヒナにいい思いをしてもらうため…。
親として、ヒナに幸せになってもらうために…!
——そして俺は、ついに。
「おめでとう、ルディ・アルカナ」
「今日から君は、魔法使いの頂点、七賢法の仲間入りだ」
「ありがたき…」
俺は決心から約2年で、七賢法まで成り上がった。
全ては娘のために…。
だが、七賢法はダメだった。
完全実力順、決闘で勝ち、No.3の座まで行ったが、それより上はどうやっても勝てなかった。
そして、負けた奴からはいじめをされることもあった。
「お前、勝ったからって調子に乗るなよ!」
「負けたやつの言葉なんか、聞かねぇよ」
「く、くそ…覚えてろよ…」
あれは七賢法No.3として、この先の人生、ずっと上っていくだけだろうと思っていた。
ある日の夕暮れ時、早めに任務を終わらせて家に帰った。
その日はヒナの10歳の誕生日だったからだ。
ヒナ、びっくりしてくれるかなぁ?
今までこんな大きなケーキなんか、買ってやれなかったしな…。
「ただいま〜!」
「・・・」
「あれ、ヒナ〜?」
普段は必ず返ってくる返事が、今日だけは返ってこなかった。
「——ヒナ…?」
「な、ヒナ…?」
「お、おい…返事しろって、おい! ヒナ!」
う、嘘だろ…。
家に帰ると、ヒナが死んでいた。
死因は出血死だった。
「ヒナ…なんで、どうして…うぅ…」
「ヒナ……」
ヒナが死んでから、俺は人が変わってしまった。
常に無気力、かろうじて任務をこなせたが、精神はぐちゃぐちゃだった。
そんなある日…。
「おい、あいつのあの顔、傑作だったな!」
「あぁ、本当に面白かったぜ!」
「だよな!」
「いやぁ、あいつに負けてイライラしてたが、あいつの娘を殺してからと言うもの、清々しいぜ!」
「だなだな!」
な、なん、だと…?
あいつらが、ヒナを…?
あの時、偶然聞いてしまったあの会話が、全ての引き金だった。
「ぐわぁぁ!?」
「お、おい…もうこんなことやめにしないか?」
「へぇ、人の娘を殺しておいて、なぜあんたは自分だけ助かろうとしてるんだ?」
「ち、違う! 殺したのは俺じゃない!」
「誰が殺したかなんて求めてねぇんだよ…」
「ヒッ…!」
「俺はなぁ、今ようやく心の拠り所が見つかったとこなんだ」
「ま、まさか…」
「復讐の二文字、が当てはまるかな」
「あがっ…」
後二人、勢いで殺しちまったが、後の二人は情報を吐かせてからやるか。
「ま、待て! 待ってくれ! もう少し話を!」
「まだ何か話すことがあるのか?」
「お、俺にも家族がいるんだ! だから!」
「へぇ、俺はもういないけど?」
「あっ…うぐっ…」
ふぅ、後一人か。
「エンテイ! ライテイ!」
くそっ! 全部避けられる!
「核式・輪廻ざ——」
「遅いんだよノロマ」
「うぐ…あがっ…!」
腹が、貫通しただと?
あり得ない、どんな力を持ってやがる!
「あんたが俺の娘を手にかけたそうだな、No.4、《核帝の賢法》よぉ」
「フッ、それがどうした…あの娘が死んだのはお前に全部責任がある」
「俺らの恨みを買ったお前は、俺らに罰を与えられないといけないんだ…」
「そうさ、とびきりの罰を、な…」
「——さっさとくたばれ」
「フッフッフッ、ひとついいことを教えてやろう…」
「お前に恨みを持って、お前を殺したいほど憎んでいるやつは他にもいる、手にかけたのは私だが、私たちの計画には多く物が賛同していたのさ…」
「お前は一生、地の底で這いつくばりながら、凄惨な死を迎えることを、俺は願っている…」
「個人の恨みは、時にして一生消えない傷になるんだ…」
それは俺も同じだ…でも…!
娘を、ヒナが、どうしてヒナが死ななきゃならない…!
地に膝をつけてうずくまり、どうしようもなく絶望した。
大雨の中、額に流れたが、雨粒によってかき消された。
俺は、間違っていたのか…?
俺は、七賢法に、ならないほうがよかったのか…?
もう、やめよう、もう、いいか…。




