プロローグ
俺の名前は[渡辺 葵]。
ただの限界社畜サラリーマンだ。
俺は毎日、死ぬほど仕事をしている。
まぁ、実際は上司から仕事をほぼ全て押し付けられているせいだけど…。
そんな俺は、今日も夜遅くまで仕事をして、今は家に帰る途中だ。
気分転換にと、いつもの帰路とは少しはずれて、こっちの道を通ってみようかな。
「この道に、街頭はあまりないんだな…」
脇の居酒屋には、数人の酔っ払いが飲んだくれている、少し薄気味悪い道だ。
頭上の電線には、数匹カラスがいるようだ。
何度も何度も鳴いている。
さっきも言ったが俺は社畜だ。
ただただ言われた仕事をやるだけ、そこに意味なんてない。
俺は…疲れている。
ただただ疲れている。
毎日同じことの繰り返し…。
渋谷の中の一つの交差点、信号が変わるのをそっと待つ。
カバンを片手に疲労困憊の中、時がくるのをただ待つ。
「ここの信号いっつも変わるの遅いんだよなぁ」
はぁ…最近ついてないし、もういっそ、ラクになりたいなぁ…。
でもラクになっても来世も社畜のままなのかも…。
信号が赤から青に変わる。
その瞬間俺は横断歩道を渡るべく重い腰と足を前は前へと動かし歩き出した。
歩くという行為でさえ、今の俺にはとても重いんだ。
未来のことを考えても、仕事のことしか頭に残らない。
それ以外、考えもつかない。
俺の脳は、もうとっくに限界を迎えている。
早く家に帰って少しでも、体力と気力とあとその他色々を回復させたい。
朝早くからの通勤で夜遅くに退勤。
移動時間も相まって、寝る時間なんてまるでないのに、そのくせ会社内では休む時なんてせいぜい昼食時の休憩のみというブラックな日々。
その休憩時間ですら10分とかいう短い時間だ。
「明日は、今日終わらなかった仕事を一番に仕上げて…」
そんなことを考えていた時、視界の横から強い光が現れた。
光の正体を確かめようと立ち止まり、光の方へ振り向く。
強い光、大きな図体、耳に強く残る高い音。
そしてクラクションの音…。
すぐに分かった。
俺の目の前にいるのは、信号無視をしたトラックだと。
強い衝撃音と共に、トラックは止まった。
運転手はすぐさまトラックから降りて、葵の容体を確認した。
そこには信号の赤色とは別の赤色、もう手遅れなほど大量に流血した体。
もげそうなほど肉がさかれた腕。
俺は、この一瞬で人生の終わりを迎えようとしている。
し、死ぬのか…? まだ終わってない仕事があるのに……。
「あ、、く、、」
来世はもっと、ラクな人生がいいな、、この憂鬱な日々なんて感じさせないくらいの、とびきりの…ラクな……。
俺の訃報、せめて妹には届いて欲しい、な…。
社会人になってからというもの、ろくに学校時代での友人とも関われていなかった。
その性で俺の周りにいた人はどんどんといなくなっていった。
仲のいい人と呼べる人なんていなかった。
親とも連絡は取れていない。
でも妹だけは違った。
俺のことをずっと気にかけてくれた。
こんな俺がいなくなっても、多分妹は大泣きしたりはしないだろう…。
でも、少しは泣いてくれるといいな。
「・・・」




