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病で死んだら時間が巻き戻ったので、王女殿下ばかりを優先する婚約者を詰問することにした  作者: 日向 風花


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真相解明

 数日後、公爵家の東屋でトリスタンとともにお茶を楽しんでいたクロエのもとへ来客があった。


「わたくしのトリス!遊びに来てあげたわよ!」


満面の笑みを浮かべたレオノールが執事の案内を振り切ってトリスタンの手を取り、ぐいぐいと屋敷のほうへ引っ張っていく。トリスタンは不本意そうな表情でそれに付き従った。


「レオノール殿下!先触れもなくこのように強引な来訪は困ります!」


などと困惑を装いながらクロエもついていき、三人で屋内に入る。最後にレオノールを案内してきた執事が扉を閉めると、屋敷中に仕掛けた魔道具が発動した。


防音に認識阻害、幻視や侵入防止のトラップ等々がしっかり作動しているのを確認したクロエは、レオノールに呼び掛けた。


「お疲れ様です、もう演技やめていただいて大丈夫ですよ。カルロ殿も出てきていいぞ」


その瞬間、恋する乙女そのものだったレオノールがスンッと真顔になってトリスタンから離れ、彼に触れた部分をハンカチで拭い始めた。


これはこれで腹が立つ反応にトリスタンが口元を引きつらせ、どこからともなく現れたカルロがまぁまぁと取り成す。


事情を知っている執事は落ち着いた様子で、「ご案内いたします」と一礼して四人の先導を始めた。


「お招きいただき来てあげたわよ」


「……王妃の目は大丈夫なのでしょうね?」


レオノールが連れてきた護衛や御者は別室で待たせているし、そもそもローラン家の手のものだ。トリスタンが心配しているのは密偵の目である。


不躾な物言いにレオノールは不愉快そうだが、まじめに返答した。


「あんたを口説きに行くと言ってあるし、今のところ監視は緩いわ。けど屋敷の中が全くのぞけないようじゃ疑われるだろうし、何度も使える手ではないわね」


「では今日中に用件を済ませてしまいましょう」


そんなやり取りをしているうちに、四人は公爵一家の談話室へやってきた。


魔術の権威ローラン公爵家に相応しい華やかな部屋で、私的な空間でもあるため幼いクロエの絵や手形が飾られている。


部屋の中心には、地下から運び込んでおいた並行世界の水鏡が鎮座していた。


水鏡の見やすいソファを来客に勧めたクロエは、一礼して出ていく執事を見送ってからトリスタンとともに魔道具の横へ控えた。


「お二人とも、私たちが時戻しを使ったことには気づいておいででしょうから、余計な駆け引きはなしにしましょう」


そう言って水鏡の性能を軽く説明した後、まずはトリスタンが映像を流し始めた。


時折トリスタンやクロエが推測を交えて補足しながら、水鏡には次々と悲劇が浮かび上がる。


はじめから戦々恐々としていた双子はどんどん顔を引きつらせ、青ざめ、クロエが最後の映像を流し終えるころには手を取り合って震え上がっていた。


「絶対ロクなもんじゃないとわかってはいたけど、ここまでひどいなんて……ど、どどどどうしようカルロ、私たち殺されるんじゃ!!?」


「お、おおおおちつけレオノール、とりあえず土下座や、誠心誠意謝ろ!!?」


パニックになっている双子の肩にぽんと手を置き、クロエは微笑んだ。


「大丈夫ですよ、我が家でレオノール様を殺したらそれこそ内乱になります。それにこれらは今のレオノール様の罪ではありませんから」


「おたくの婚約者、とてもそんな風に思ってはる顔やないけど!?」


憤怒の形相を浮かべているトリスタンを振り返ったクロエは、婚約者をたしなめようとして、くいっと袖を引っ張られとどまった。


「っていうかクロエあんた、このままいけば冬には死んじゃうってこと!?」


クロエは焦った顔のレオノールに手を握られていた。


「そう、なりますかね?」


「何を落ち着いてんのよ!?だいたい、鉱血病の治療は血統魔法を持つ王族の義務……なのに、それを放棄したからこんなに話がこじれた、のよね?え、なんで時戻し前の私は治療しなかったわけ?」


「それはこちらがお聞きしたいくらいなのですが」


なんだか腑に落ちない様子のレオノールに、トリスタンが冷たい目を向けた。


「それよりクロエ様から離れていただけますか。俺たちにしたように、クロエ様も発症させる気では?」


「健康な人間を発症させるのは、核となる罹患者の魔鉱石がないと無理よ。粒子がくっつかずに瓦解してしまうわ。でも……」


言われた通りクロエから距離を取り、レオノールはうつむいた。


「発症済みの患者を悪化させることなら、できる。本人の中に、自前の核があるから。……最後の映像では、私がクロエにとどめを刺したんだわ……」


それを聞いた瞬間、トリスタンがレオノールに殴りかかろうとして、すんでのところでカルロが割って入った。


「頼む、トリスタン殿、堪えてくれ!」


怒り猛る獣のような息を吐いて暴れるトリスタンへ、クロエも静かに呼びかけた。


「トリスタン、落ち着いて。レオノール様があんなことをしたのには、理由があるかもしれない」


「クロエ様まで何を言い出すのですか」


「これをもう一回見て、聞いてくれ」


そう言ってクロエは再び並行世界の水鏡に魔力を流した。


先ほどレオノールたちに見せるため再生して気づいたことだ。


最後に暗転しててっきり自分は死んだのかと思いきや、かろうじて息があったらしく続きがあったのだ。


『あはははは!もう遅いわ、この女は婚約者を奪われて、苦しみながらみじめに死ぬのよ!本当にいい気味!!!』


映像の中でレオノールが醜悪に笑っている。


トリスタンの絶望した顔を最後に鏡は真っ暗になって、そこから先はクロエの記憶にもない声だけのやり取りだ。


『ふっ、あははは、その顔よ、本当にいい気味だわ、トリスタン・リシャール!カルロを……私の幸せを願ってくれた、たった一人を殺したお前だけは、許すものか!!!』


『何を、言って……?それより早く、クロエ様の治療、を……』


『ふ、ふふっ、まだわからないの?お前のクロエ様は死んだのよ。ほら、クロエを殺してまで絶望を見せてやったんだから、もっと無様に泣きわめいたらどうなのよ!』


そう叫ぶレオノールのほうこそ、一人ぼっちで泣いているような声だった。


あとは言葉にならないトリスタンの絶叫を残して、水鏡の再生は本当に終わりを迎えた。


「……あのときのレオノール様の目的は、私を殺すことでも、ましてやトリスタンを口説き落とすことでもなく……兄上の仇討ち、だったのですね」


言葉を失う三者の間に、クロエの声が響く。


きっとトリスタン本人を殺すくらいでは足りなかった。彼のもっとも大切なものを奪わなくては気が済まないほど、兄を失ったレオノールの狂気と嘆きは深かったのだ。


「カルロ殿と初めて会った時、トリスタンは王妃様に突き出せばいいと言っていたな。多分、前回も同じようなことがあって、あなたはカルロ殿を突き出すなり処分するなりしたのだろう」


カルロのことは気に食わないが、殺すほど憎いわけでもないトリスタンは、呆然とした。


「王女の護衛として、王妃の密偵を警戒するローラン派閥の者として、真っ当な行為だ。あなたは悪くないよ、トリスタン。ただ……兄上を喪って復讐に走ったレオノール様に全ての非があるとも、私は思えない」


誰かが決定的に悪いというわけではなく、不幸な行き違いが最悪の事態を招いたのかもしれない。


その可能性にこそ、クロエは活路を見出していた。


「レオノール様。あなたは今のところ私の治療をしてくださるつもりで、間違いありませんね?」


「え?ええ。お母様の手前、嫌がるふりぐらいはするかもしれないけど……王族の義務を放棄するほど落ちぶれてはいないわ」


「私を治療したらカルロ殿を殺す、とお母上に脅されても?」


そう聞かれると、レオノールは沈黙した。クロエはそれを責めることはせず、質問を重ねる。


「今のうちに治療や予防はできないのですか?」


「それができるならとっくにしているわ」


「となると発症は避けられないか」


クロエは本来自分がたどるはずだった成り行きをもう一度思い返した。


「私が冬に鉱血病を発症し、レオノール様はカルロ殿の命を盾に取られて治療を拒否。それが本来の流れだったのだろうな」


「この時の坊ちゃんはレオノールを拒絶しとったし、別の男をあてがわれそうになって焦っとったのもあるやろな。そうこうするうちリケッツアに連れてかれて、こっそり治療するのもダメになったってとこか」


カルロが難しい顔をする。


「俺が生きておればレオノールを連れ出してクロエお嬢さんのところに届けるくらいはできたはずや。リケッツアに行く前後くらいで俺は死んどると思う」


ローラン家と手を組まなかった場合、カルロは孤軍奮闘していたことになる。妹の貞操の危機に焦り、しくじって母親に殺された可能性が高い、というのが彼の見立てだった。


「では次。最も避けねばならない一族虐殺だ。どうしたら回避できたと思う?」


「そりゃぁお嬢さん、油断が一番の命取りやったと思うで」


何をわかりきったことを、と言わんばかりのカルロにトリスタンが顔をしかめた。


「あの時の俺たちが油断していた?すぐに王妃と王女を捕縛して幽閉していたのに?」


「せやから、ババアとレオノールを捕まえて安心したんがいかんのやって。ええか、坊ちゃん?情報戦ちゅうのはな、自分らが有利と思った時にこそ、最大限に警戒せなあかん」


訳知り顔のカルロにトリスタンは胡乱な顔をしたが、カルロは気にせず続けた。


「ババアはどこに幽閉したん?貴人牢?食事も日用品も十分用意して、使用人までいた?あかんあかん、そんなんまったく外部との連絡を絶ったことにならへん。五感を封じて独房に放り込むぐらいせな」


「仮にも自分の母親だろ。よくそこまで言えるな」


「自分のオカンだからこそ恐ろしさがわかっとるだけや。あんたら身内に甘すぎる。自分らの一族に情報垂れ流しすぎや。ババアには時戻しのこともクロエお嬢さんが冬に鉱血病を発症することも筒抜けやったと思うで。だからレオノールに治療させる話が出る前にさっくり殺したんやろ」


ダメ出しの連続である。いたたまれない気持ちでクロエは尋ねた。


「二度目の私は、やはりリケッツアの暗殺者に殺されたのだろうか?」


「十中八九せやろな。あ、俺じゃないで?暗殺の技術ないもん。レオノールの命を盾に脅されたとしても、返り討ちに合うのがオチや。実際お嬢さん、俺がレオノール助けるために投げたナイフに気づいたやろ?」


クロエははじめ何のことかわからなかったが、すぐにリケッツア街での襲撃事件を思い出した。


レオノールのそばに落ちていた、刃物のような金属片。


「あれはカルロ殿が?」


「そそ。バカ魔術師どもに交じって本命のナイフが飛んできたから、叩き落したんや。ま、毒も塗られとらんかったし、レオノールを殺すつもりではなかったみたいやけど。怪我でもしたらあんたらは責任問われて、早々に解任されてたやろな」


「それはご面倒をおかけした」


「お嬢さんは護衛の訓練を受けた玄人やないから、仕方あらへん。……って、レオノールが言うとったで」


兄の暴露にレオノールが少し赤くなった。


「ちょっとカルロ!べ、別に、私は事実を言っただけよ!」


ぷいっとそっぽを向くレオノールに笑いをかみ殺したクロエは、ふと気になって尋ねてみた。


「レオノール様の幽閉中、あなたたち双子は何をしていたのかわかるか?」


「今と同じくレオノールを助けようとしたやろうけど、敵はババアと国王とローラン家、国王がくたばった後は追加でレガリア軍やからな。どこかで殺されとるんやないか?」


「私も、お母様がご自分の計画を共有してくださったとは思えない。たぶん、何もわからないまま死んだんじゃないかしら」


「確かに、この時のレオノール様は悪事らしい悪事を犯していませんね……」


三人がそのように話すのを傍で聞いていたトリスタンは、ふと思い出した。


魔王の力と同化し、異形となり果ててレオノールを嬲っていた時のことだ。


『カルロ、どこ!?痛い、助けて!!』


『嫌、嫌だよぉ、どうしてこんなことになったの!!?』


『レオノール、助けて、カルロ、お兄様、助けて……!』


その時トリスタンはカルロというのはどうせ情夫の名前か何かだろうと思っていた。今更、兄のリュシアン殿下に助けを求めるのも厚かましい。だいたい自分自身に助けを求めるなんてこの女、ついに狂ったのか。


そう思っていたけれども。「レオノール」も「カルロ」も「お兄様」も全部双子の片割れを指していたのだとしたら。


トリスタンは、わけもわからず兄へ救いを求める年下の少女を嬲り殺したことにならないか。


(え……これ、俺が悪いのか?でも、えぇ……?)


脳裏で血まみれになって泣き叫ぶレオノールと、殺されるミラの姿が重なり、トリスタンは思わず頭を抱えた。あの時に限って言えば非は自分にあるような気がしてきたが、素直に謝るのも癪に障る。


(大体、謝るならあちらが先じゃないのか)


トリスタンが八つ当たり気味にレオノールを睨みつけると、視線に気づいたレオノールが怪訝そうな顔をした。


「何よ?」


「いえ、別に。……そこの兄もどきでさえ一応謝ったのに、当の本人は謝罪もしないでいい気なものだと思っただけです」


「あら、わたくしは王族で、お前たちは臣下よ?」


傲岸不遜なレオノールの物言いに、トリスタンはますます不機嫌になった。


「わたくしが謝ったらお前たちは表面上だけでも許さなくてはならないでしょう。本当に謝罪していいのかしら?」


しかし続く言葉はトリスタンの予想と少し違った。


「わたくしがしたことをお前に許してもらおうとは思わないわ、トリスタン・リシャール。……クロエ、あんたも私のこと、無理に許さなくていいからね」


「俺とクロエ様でずいぶん言葉の棘に差がありませんか。別にいいですけど」


憮然とするトリスタンに、カルロがにやりと笑った。


「レオノールはあれでクロエお嬢さんの事は結構好きやからな」


「ちょっとカルロ、余計なこと言わないで頂戴!クロエ、あんたもなに笑ってんのよ!」


クロエとカルロがこらえきれないというように軽やかな笑い声をあげ、レオノールが真っ赤になってぷりぷりと怒っている。


もしもカルロがリュシアンとしての人生を損なうことなく、自分たち四人がしがらみのない幼馴染でいられたのなら、こんな光景が日常だったのだろうか。


トリスタンはふとそんなことを思った。


レオノールへの疑いや恨みを完全に払拭できたわけではないし、嫌いなのも変わらないけれど、縊り殺してやりたいほどの憎悪は、もう残っていなかった。




 それから四人はこれからの方針を具体的に話し合い、ああでもないこうでもないと意見を出し合って、計画の骨子が出来上がったところでクロエが話を締めくくった。


「父上たちの許可や協力が得られたら、この作戦で行きましょう」


クロエがそう宣言した約一か月後。


彼女は悲劇の元凶たるエウラリア王妃と対峙することになる。

カルロ「レオノール、クロエお嬢さんたちと和解できてよかったなぁ」

レオノール「別に和解ってほどじゃないでしょ。特にトリスタンとは。ねぇクロエ、私が言うのもなんだけど、本当にあんな陰険腹黒男でいいの?」

クロエ「そういうところもトリスタンの魅力ですよ(にっこり)」

レオノール「えぇ……」

クロエ「逆にお聞きしますが、レオノール様の理想の男性ってどんな方です?」

レオノール「私はもう、男は結構なんだけど……うーん、しいて言えば、優しくて私を大切にしてくれて、ユーモアもある強い殿方かしら」

トリスタン(微妙にクロエ様とカルロと足して割ったような好みなのは気のせいか……?)

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