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病で死んだら時間が巻き戻ったので、王女殿下ばかりを優先する婚約者を詰問することにした  作者: 日向 風花


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襲撃

今話からまたしばらくクロエ視点に戻ります。

最初はクロエ単独主役のつもりで書いていたけれど、トリスタンとW主人公のほうがうまく話が回りそうなので女主人公タグを外しました。

 魔法王国の象徴である青みを帯びた建材が多用された城下町を、三人の男女が歩いていた。


商家のお嬢さん風に変装したレオノール、裕福な平民に見える服に着替えたクロエとトリスタンだ。


クロエの少し前を歩くレオノールは、トリスタンに引っ付こうとしては嫌そうに引きはがされていた。


この王女様はトリスタンに恋人のような振る舞いをした挙句クロエの治療を拒否した怨敵なのだが、汚物のように扱われている姿を見ると恨みよりも憐みのほうがわいてくる。


「トリスタン、レディを邪険に扱うものではないぞ?」


つい見かねたクロエは二人の間に割って入り、それぞれの腕へ手を絡めて微笑んだ。


「両手に花」


「うるさいわね、お前はお呼びじゃないのよ!」


レオノールはすぐさま飛びのき、トリスタンの方に回ってしまう。


「ご主人様、そのように端っこに居られてはお守りできませんよ?」


「さっきの配置だってわたくしが端だったじゃない!」


「これは失礼いたしました。ではあなた様を真ん中にしましょう」


今度は自分とトリスタンでレオノールを挟むようにして並ぶクロエ。


今の彼女は男装しているので、両側に美男を侍らせたお嬢様の図が完成である。


「あんたねぇ!自分がお邪魔虫だって自覚しなさいよ!」


「おや、お気に召しませんでしたか?こういうの、お好きかと思いましたが」


キャンキャンわめきたてるレオノールと余裕そうなクロエを、道行く人々がちらちらと振り返った。


「姫君がお美しいから皆振り返っていきますね」


「どう考えてもあんたのトンチキ言動のせいでしょうが!あぁもう、派手に散財してイライラを発散したかったのに、余計にストレスが溜まるわ……」


レオノールは文句を垂れ流しながら、大通りを進んでいく。


さすがにクロエたちを連れて本当にいかがわしい場所へ立ち入る気はないようだが、周囲の風景は大衆的なものへと変わっていった。


「おや、リケッツア街ですか」


繁華街の入り口で足を止めたクロエを、レオノールが小馬鹿にして振り返る。


「そうよ?お嬢様には刺激が強いかしら?」


「まさか。お供いたします」


そこはリケッツア商人らが店舗を並べる界隈だった。


本国の国土が狭いリケッツアは諸外国に商業拠点となる街を築き、金と情報の流れを大陸中に張り巡らせている。


魔法王国の認可を得て営業している商人が大半ではあるが、客寄せのリケッツア訛りが飛び交う路地は熱気に溢れていて、いかにも治安が悪そうだ。


「ねぇねぇトリスぅ、あのペンダント素敵。買ってちょうだい?」


雑多な空気に気圧されることなく足を踏み入れたレオノールが、一つの露店の前で足を止めて甘えた声を出した。


様々なカラーバリエーションを取りそろえたペンダントの中から王女が指さしたのは、トリスタンの瞳を思わせる紫水晶だ。


「これはお目が高い!ベルツ採掘場の良質な石を使った一級品や!彼氏さん、かわいい恋人のおねだりに応えてやらな、男が廃るで!」


「彼氏じゃないです」


品物を勧めた露店の店主は、彼氏呼ばわりされたトリスタンの目が死んでいるのを見て何かを察したらしく、「アッ、ハイ……」と口ごもった。


口が立つことで有名なリケッツア商人が一言で黙らされたのが気の毒だったので、クロエは深い青色の石のペンダントを手に取った。


庶民にも手が届く露店品にしては質が良く、男女どちらでも身に着けられるデザインも洒落ている。


「店主、こちらをもらおう」


「まいど、おおきに!」


素早く切り替えて愛想よく笑う店主。代金を渡したクロエは、自分の瞳の色をしたペンダントをトリスタンの首にかけてやった。


「思った通り、よく似合っているよ。トリスタン」


「あ、ありがとうございます、クロエ様」


「ちょっとあんたたち、わたくしを差し置いて何をいちゃついてんのよ!」


にこにことしているクロエと恥じらうトリスタンの周りで、きぃきぃとレオノールが騒ぐ。


「えっ、なに、おたくらどういう関係……?」


店主が思わず困惑しきった声を出した時だった。


魔力の張りつめる気配に、クロエとトリスタンの表情が変わった。


クロエは振り向きながら魔力鞭を振り、トリスタンが魔法でレオノールの足元の石畳を柔らかく変形させる。


「ぎゃぁっ!?」


バランスを崩して転倒したレオノールの頭上を石礫が飛び、近くの壁に当たってはじけた。


「ちょっと、なにすんのよ……!?」


無様に頭から転んだレオノールは、クロエが礫を次々と弾き落とすのを見てさすがに文句を飲み込んだ。


「すまない、店主。姿勢を低くしてしばらく動かないでくれ」


「ひぃ、なんや、面倒ごとは御免やで!?」


トリスタンの勧めに従って、露天商は商品をかき集めて蹲った。


突然の攻撃に気づいた人々が騒然として逃げ惑う中、トリスタンは広範囲に風の魔法を展開し、一般人に被害が出ないよう礫を弾き飛ばす。


防御を彼に任せたクロエは鋭く感覚を研ぎ澄ませ、魔力の出所を探った。


魚屋と金物屋の屋根から魔法で狙い撃ちしていた襲撃者を魔法で撃ち落とし、木箱の陰からこちらを狙っていた者は魔力鞭を伸ばして利き腕を刺し貫く。


「うぎゃぁっ!」


「動くな!」


屋根から落ちた二人の手足をトリスタンが魔法で氷漬けにし、最後の一人はクロエが魔力鞭で拘束した。


狼藉者たちを瞬く間に制圧したクロエたちは、近衛の身分証を掲げて市民へ協力を呼び掛ける。


すぐに気の利く若者が警邏を呼びに走り、喫緊の危険が去ったことで周囲に安堵感が流れ始めた。


「お怪我はございませんか、姫?」


魔力の動きを探ってざっと安全確認を済ませたクロエは、へたり込むレオノールの前に膝をついた。


「お前の婚約者に転ばされたのが一番の痛手だけど?」


レオノールは差し出された手を無視して立ち上がり、自分でスカートの埃を払った。


「魔法で脳天ぶち抜かれるよりはましでしょう」


トリスタンが王女へ嫌味を返す一方、クロエは膝をついたまま眉をひそめた。ほんの数歩離れた場所に、見慣れない刃物のような金属片が二つ落ちている。


気になって拾い上げようとした矢先、


「それよりなんでお前たちがここにいるのよ!?」


王女の絶叫につられて目を離した一瞬の隙に、金属片は無くなっていた。怪訝には思ったが、すぐに頓着している場合ではなくなった。


狼藉者は、レオノールの元近衛魔術師たちだったのだ。


「どうもこうもねぇよ、王女殿下。あんたの近衛をクビになったせいで家からも勘当されるし最悪だ!」


「レオノール様!どうして僕を見捨てたんですか!?僕を愛しておられるのでしょう!?」


「なんで、なんで高貴なる俺がこんな目に、殺す殺す殺す、みんな殺す……」


数日前に解雇された王女付き近衛の中でも、特に素行の悪かった三人である。


いずれも少し前までエリートだったことが嘘のようにくたびれて薄汚れ、身勝手な言い分を喚き散らしている。


様子をうかがっていた民が「王女殿下?」「こんなところに?」とざわつくのを、トリスタンが立ち退かせた。


「し、知らないわよ!私がクビにしたんじゃないし、再雇用を認めなかったのはお母様だもの!」


いつも強気で我儘なレオノールも、命を狙われた恐怖のせいか声が上ずっている。


「つまり逆恨みで私たちを襲ったわけか。見下げたやつらだ」


腕を組んだクロエから心底軽蔑した目で見降ろされ、一人が奇声を上げた。


「アアアアアアアアアッ!!!貴様のせいだ、ローランの女狐ェ!!!公爵家の陰謀だ、俺の栄華をよくもぉオオオォォォ!!!」


「人聞きの悪いことを。貴様らのごとき不忠の輩を排除するのは、臣下としてむしろ当然の役目だろう?」


「殺してやる、殺してやる!」


「無理だよ。お前たちは王族に手を出したのだ。処刑されるのはお前たちのほうさ」


冷徹なクロエの言葉に、元近衛たちは泣き崩れる。


そうしているうちに市民の呼んできた警邏隊が到着して、狼藉者は捕らえられた。




 警邏の馬車で事情聴取がてら城に戻ってくると、クロエたちの退勤時間はとっくに過ぎていた。


まだ荒れているレオノールを交代の女性近衛に任せ、クロエは隣のトリスタンを見上げた。


「お疲れ、トリスタン。怪我は大丈夫か?」


「お疲れさまでした。俺は怪我なんて……あ」


クロエが二の腕をトントンと指さす動きで、トリスタンは自分が出血していることに気づいたらしい。


石礫の一つが当たったのだろう、さほど深い傷ではないがシャツの袖がざっくり裂けて血がにじんでいた。


「すまない。私がついていながら守れなかった」


「クロエ様のせいではありませんよ。……ちょうどいいので医務室に行ってきます」


「ちょうどいい?」


クロエははじめ意味が分からなかったが、すぐにはっとした。


マグノリアの末裔うちでも、魔力が豊富なトリスタンの流した鮮血。


血の秘密を知る者にとって、彼の血がついたシャツは合法的に入手できる極上の実験材料だ。


医務室で着替えた後、本来ならば使い物にならなくなったシャツは焼却処分されるが、秘密が漏れていたら回収される可能性が高い。


血に含まれた魔力の痕跡を辿ってシャツの行方を確認すれば、裏切り者が秘密を洩らしたかどうか一つの目安になるというわけだ。


クロエは素早く防音の魔法を巡らせて、トリスタンを見上げた。


「まさか、裏切り者を炙り出すためにわざと負傷したんじゃないだろうな?」


「クロエ様。俺の身体能力でそんな器用なことができると思いますか?」


「……それは、なんかごめん」


「いえ」


一瞬訪れた気まずい沈黙を払拭するように、トリスタンが咳払い一つ、話を変えた。


「ところで転移の魔法は、今どの程度形になっていますか?」


「八割くらい。悪用を防ぐための暗号化を進めている」


「暗号化が不完全なうちは、俺たちの血があれば並の魔術師でも労せず発動できるでしょうね」


「詳しい進捗状況は父上にだけ報告するようにしているけど、私たちが転移の魔法を研究している事は親族なら誰でも知っているからな……くれぐれも気をつけろよ、トリスタン」


「クロエ様のほうこそ、お気をつけて。どうせ、まっすぐ家には帰らないのでしょう?」


トリスタンの指摘に、クロエはぎくりと肩を震わせた。成り行き上、現在も寮暮らしを続けているトリスタンと違い、クロエは公爵邸からの通いだ。


しかしここ最近のクロエは、就業後も遅くまで城の書庫に籠っていた。


レオノール王女に頼らず鉱血病を治療する方法を探すため、何よりトリスタンの延命の方法を探るために。


「鉱血病の治療法は本職の諜報員に任せて、俺の寿命についても後回しで大丈夫ですから。下手に嗅ぎ回りすぎれば、いくらあの愚鈍な王女でも時戻しに気づくかもしれません」


「……善処はする。それよりトリスタン、早く医務室に行っておいで」


トリスタンがクロエの命を最後まであきらめなかったように、クロエだって彼の寿命を後回しにするつもりはさらさらなかった。


強引に話を打ち切ったクロエは、トリスタンの忠告を無視して今日も書庫へと向かうのだった。

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