【3-3:春の息吹】
――春の風が、息をしていた。
桜の木の下。
かつてはシナリオに合わせて“再生”されていた花びらが、
今は誰の命令もなく、ただ季節の流れに身を委ねて舞っている。
花びらの一枚が、リリアの頬をかすめて消えた。
それはデータの粒ではない――
柔らかく、ひんやりとした、生きた“質感”だった。
リリアは立ち止まり、見上げる。
枝の先に咲く花が、風に揺れながら光を受けてきらめく。
空の青は完全に“現実の色”を取り戻していた。
リリア(微笑して):「……これが、“生きてる”ってことなんだね。」
彼女の声は、もうどこにも記録されない。
セーブも、ロードも、もう存在しない。
ただ、風がその声を運び、空に溶かしていく。
《#BGM: Disabled》
《#UI: Removed》
《#Program: Ended》
音楽は止まり、ナレーションも消えた。
けれど、リリアには聴こえていた――
鳥のさえずり、木々のざわめき、遠くの笑い声。
それらがひとつの“無音の旋律”となって、世界を包む。
彼女はもう、誰かに選ばれることを恐れない。
“愛する”とは、選択肢ではなく、ただ“ここにいる”ということ。
リリアは目を閉じ、風の中で微笑んだ。
その表情には、終わりではなく――始まりの息吹が宿っていた。




