95.儀式と呪文
ひとまずムーンにつられて牢屋に戻った僕は仮眠を取って朝を迎えた。
黙らせた看守も起こして鎖と鍵も直したムーンは相変わらずすごいなって思う。
「大人しくしてたみたいだな。まあ、暴れた所でドラゴンの俺に敵う訳ないけどな。」
「今に見てろ……」
「そこで吠えてろ。お前はもうすぐあの儀式の生け贄になるんだからな。ははは!!」
看守が去った後、僕はムーンに分かった事を聞いた。
「ムーン、そろそろ分かった事を教えてよ。看守の話だと僕は何かの儀式の生け贄にされるみたいだよ?」
(予想通りだね。概要を説明するとだな、ここの主であるドランは優秀な冒険者を手玉に取って兵隊を作って何かやろうとしてるって事だ。まあ、確実におっかない事をやるつもりなのは見え見えだけどな。)
「兵隊を?冒険者は自由を好むから素直に言う事を聞かないと思うけど……」
(じゃあ言う事を聞くようにしたら……どうなる?)
「まさか、言う通りに聞くようにしたって事?まさか……そんな事できるの?」
(あんたは魔法を舐めすぎだ。そんなの簡単さ。さっき言ってた儀式ってやつが言う通りに動かせる兵隊にするためのものだよ。昨日尋問したドラゴンも過去の記憶が無かったろ?魔法で記憶を消すくらい簡単さ。)
「じゃあその人間たちはどこに行ったの?今まで見た感じだとこの屋敷にはドラゴンしかいないから人間は別の場所にいるとか?」
(いいや、人間は手先が器用だけど一部のドラゴンは知能も器用さも上回るヤツがいる。ここで見たドラゴンはそいつらばっかりだった。結論を言おう。この屋敷にいるドラゴンは全員……)
(元人間さ。)
元人間?どういう事?ドラゴンが人間だったの?でも人間は人間でしょ?
(難しく考えるな。つまりはあの儀式とやらで人間を従順なドラゴンに変えてたって事だよ。記憶も消して完璧に言いなりのドラゴンをな。ドラゴンの兵隊を持ってると知れたらドランは大きな力を持つ事になる。だから酒場に登録していない人間を使って優秀な部隊を作ってたんだ。これが公に知れたら国が動くくらいの大騒ぎになる。ドランの兵隊がどのくらいの規模なのかは知らねえけどドラゴン一体だけでも相当ヤバい戦力だ。ここで壊滅させないとこの町いや……世界がヤバい。)
「でもドランは悪い人じゃないかもしれないよ?みんなのために兵隊を作ってるんじゃ……」
(なら普通に人間を雇えばいい話だろ?ドラゴンにして記憶も消してるんだから悪い方面のヤツでしかない。)
信じたくないくらい大きな事件だった。どうしよう……
「オーナーに電話するのは?オーナーなら何とかして……」
(そんなデカい所が動いたらすぐにバレる!コマンドを頼ればそれも可能だろうけど連絡してこっちに着くまで何日かかると思う?あたいたちに残されたチャンスは今日の儀式の一回だけだ。そこでドラゴンになって暴れりゃ逃げるくらいはできる。というよりなんとかしないとねえ。あたいはあんたが寝てる間に潜入してたから疲れたよ……ちょっと休む。)
ムーンは僕の中に入って静かになってしまった。ムーンも相当疲れてたんだろうな。
どうしようか、向こうの戦力がどの程度か分からないしもし僕だけで対応できなかったら確実に全滅だ。そうだコマンド、通話ができたよね?誰かと繋がらないかな?
【すまないが現状で繋がるのは完全な仲間。【勇者を導く者】などのスキルが無ければ通話は不可能だ。現在通話可能な者は『ムーン』『アクア』だ。】
一かバチか、アクアに電話してみよう。コマンド、アクアに繋いで。
ーー
『アクア』にコールします。
ーー
…………………やっぱり繋がらないか……
ーー
「もしもし勇者様、どうかしたの?」
ーー
「アクア!?出ると思わなかったよ。助かった、今はどこにいるかな?」
ーー
「えっと……今はベント大陸に居ててフラーマ大陸から離れてるわ。助けが必要なの?何か事件に巻き込まれたとか?」
ーー
「うん、実は……」
僕は事情を説明した。
ーー
「うーん、確かにそれは人手が必要ね。分かったわ、そっちに人手が行くようにするからちょっと待ってて。【通信呪文】……」
ーー
通信呪文?
【通信呪文は最近開発された呪文で短長2つの波長を組み合わせて遠くの相手と連絡を取れる呪文だ。全世界共通のものはないが組み合わせで言葉が変わる。習得は難しく通信できたとしても解読に時間がかかるから覚えている者は少ない。お前の世界で言うモールス信号と同じだ。】
モールス信号……アクアはめちゃくちゃハイスペックじゃん。
ーー
【うん!45分くらいで着くってさ!30人くらいそっちに行くけど代表が会いに来るからそのつもりで!じゃあまたね!】
アクアからの通信が切られました。
ーー
うーん……とりあえず待ってみる?
【動けない現状ではそれしかあるまい。今のうちにどう動くか考えておくべきだ。】
コマンドと話し合いながらどんな人が来るのか想像しながら時間が経つのを待った。




