島へ
大会翌日。
レツ、サラ、再び黒いローブに身を包んだ半魔族の少女の三人は、船着き場に訪れていた。
学長の交渉を受け入れ、学長含む四人で例の島に行くことにしたのである。今は学長と船を待っている状態だ。
黙って居合わせているだけの三人だったが、半魔族の少女がそういえばと口を開く。
「自己紹介がまだだった。私はシャル」
その自己紹介に驚くレツとサラだったが、二人も自己紹介に移って行く。
「僕はレツだよ」
「私はサラよ。その……」
サラは言いづらそうに続けた。
「昨日は魔族と認定して殺しにかかってごめんなさい」
三人の間にあった沈黙の理由である。シャルとサラは殺し合いをした仲だ。顔を見合わせれば、空気が険悪になってもおかしくはない。
そんな二人に挟まれたレツも、何を口にすればいいか分からず黙りこくっていたが、その空気を破ったのがまさかの殺されていたかもしれないシャルだったのだ。
そのような立場のシャルだが、殺されかけたことについてはあまり怒っていない様子だった。
「こんな姿をしているんだから仕方ない。私でもそう思う。だから、私をこんな姿にした奴らを一緒に倒してほしい」
シャルの願いにサラは力強く頷き、彼女の両手を握って答える。
「……もちろんよ!」
急に手を取られたことに驚くシャルだったが、許されたことへの喜びがあることを感じ取ると、思わず頬を緩めていた。
集まった当初の空気は、そこにはもうなかった。
緩くなった空気から、レツはシャルの表情を思わず指摘してしまう。
「そんな顔もできるんだね」
レツが記憶しているシャルは、とても冷たい表情をしていた。でも今のシャルはどこにでもいる普通の女の子にしか見えなかったのだ。
レツの指摘に顔を赤くしたシャルは、口を大きく開けて……。
「見るなっ!」
「ぎゃー! 人に噛みつかれるのは初めての経験だよ!」
サラはそんなやりとりを温かい目で見守っていた。
その視線に気が付いたからか、シャルは話題を無理矢理戻す。
「そ、それにあの時レツさんが動かなかったとしても、私が殺されることにはならなかったから!」
照れ隠しと言えど、サラとしてはその内容が少し気になった。
「どういうこと?」
丁度それを聞いたタイミングで、待たせたのうと学長の声が聞こえてきた。
「それはわしが説明するぞ」
三人の下に現れた学長は、すぐに説明を始める。
「わしはいつでもお主らを止められた。それに人質が解放されたにも関わらず、他の冒険者からも何も干渉がないのはおかしいとは思わなかったか? わしが障壁を張っていたんじゃよ。まさか空間魔法とはいえ突破されるとは思わなかったがのう」
「私を止められる宣言や障壁を張り続けるって、あなた何者なのよ……」
謎の実力に呆れるサラだが、それよりも……。
「シャルを守るために動こうとしていたってことよね。もしかして」
「そういうことじゃ」
学長の言葉にシャルが続ける。
「私が竜を利用して迷宮を召喚した時に、学長と話し合ったの」
「最初は確かに脅迫じゃったが、話を聞いている中で学生を殺さないようにしていることを知ったし、何よりも彼女が半魔族であることを知った。半魔族が作られている事態を重く捉えたわしは、これからの争いに向けて人を魔族に改造する奴らが存在することを、知らしめる場を作ろうとしたんじゃ」
ヴェルの運動もあったし丁度良かったしなと学長は最後に付け足した。
説明が終わった所で、顔を青くしたサラが恐る恐る言う。
「私が良かれと思って飛び出したのってまさか……」
「邪魔じゃったな」
「うっ……」
その言葉にショックを受けたサラは、救いを求めるようにシャルを見るが、そこにはムッと頬を膨らませた姿が。
「これには少し怒った」
「ガーン!」
完全にサラは撃沈したのであった。
冗談だと言うシャルの言葉も届かなかったという。
そのようなこともあったが、小型の船に乗り込んで移動を開始した。
しばらく揺られ続けたところで、学長が船の動きを止める。
「何もなくないですか?」
レツが思わずそう言うと、学長は心配ないと右手を正面に翳した。
すると、先ほどまでそこになかったはずの島が現れたではないか。
それは予選で使われた島であり、規模も大きい。とてもじゃないが隠し通せるような気がしない。
「「おお……」」
「あの時からずっと見つけられなかったものをようやく……」
レツだけでなくサラも感嘆の声を漏らした。
シャルもまた別の理由から感極まっているようである。
「空気中の魔力を利用した手品のようなものじゃよ。さて、行くかのう」
「簡単に言うけどこの規模でそれやるのおかしくない!? あなた本当何者なの!?」
それから一行が島に降り立ったところで、学長がシャルに聞いた。
「しかしこの島のどこに、お主を魔族化させたものがあるんじゃ? 予選の時に教員や学生達が見つけていそうなものじゃし、予選の映像も見ていたが、心当たりが全く持ってない」
シャルは行動でその答えを示す。
「着いてきて」
そう彼女が言って向かったのは海の中。
水属性魔法を習得していないレツはなかなか進めずにいたが、サラのサポートによってついて行くことができた。
「やれやれ仕方ないわね」
「ありがとうございます……」
海の中から島の形に沿って歩き続けると、崖になっていたところにぽっかりと穴が開いているところがあった。
「この洞窟かのう?」
似たようなところは他にもいくつかあってもおかしくはないだろう。その中で学長が聞いた理由は、その洞窟から溢れ出る魔力からだ。
サラはもちろんレツも感じ取れるほどだ。
「何かしら、これ……」
「この先進んで大丈夫なの……?」
不安を各々口にするが、誰よりも不安を感じていたのはシャルだった。
「ここで合ってる。でも、こんなの知らない……」
その言葉に全員が一度は足を止めたが、学長の発破を受けて洞窟の中に入って行くことにする。
「何、わしがどうにでもする。進まないからには何も得られんぞ」
中に入って進んで行った先には、不自然な階段があった。
その階段は地上まで続いており、上がった先には整地もされ明らかに人の手が加わった空洞が。極め付けには巨大な鉄の扉まで存在した。
一行がその扉を見上げていると、横から声をかけられる。
「あんたもここに辿りついたようじゃな」
どこからともなく聞こえてきた声に、全員が戦闘態勢を取りながら声のした方向を見た。
そこにいたのは、【赤帝】と呼ばれる少女の姿を取った赤竜だった。
その口ぶりから察するに、レツの力について独自に調査をしていたというところか。
その姿を見てレツとサラはすぐに警戒を解き、学長も相手を暫く見つめ続けたところで解いた。洞窟の外からでも感じた魔力は赤竜のものだろう。
「まさか調査してるなんて……」
「また会うとはね。驚いたわ」
「そっくりじゃな。一瞬本物かと思ったわい」
「……」
シャルはただ一人だけ緊張を解けずにいた。無理もない。操った相手である。見つかったらこの場で八つ裂きなんてこともあり得るだろう。
(……大丈夫かな)
彼女が感じている不安を理解し、何事もないようにレツは祈るが、願い虚しく赤竜は気が付いてしまった。
「誰かと思えば不思議な匂いがする人間じゃないか。あの時はよくも術をかけてくれたな」
「……っ!」
赤竜の言葉にシャルは身体を震わせる。
シャルと赤竜の関係は知らずとも、場の空気から何らかの因縁があることには学長も気が付いたようだ。老いづくりせずに沈静化を図る。
「どうやら彼女は何かを抱えているようです。せめてそれが解決するまでお待ちいただけないでしょうか?」




