正体
魔獣の召喚を続けていた魔術師だが、召喚する魔獣が尽きたのかその手が止まっていた。
「もう終わりのようね。命までは奪わないわ。でも覚悟はいいわよね?」
その様子にサラは止めに移っていく。
魔獣を相手にしていた剣を閉まったと思えば、謎の液体が滴る短剣が現れた。
斬りつけられればどうなるかは目に見えている。魔術師はサラを忌々しそうに睨みつけた。
「まだ、終わっていない!」
魔術師は向かってくるサラに対し、紫色の炎を放っていく。
サラは空間移動で回避、移動先は魔術師の真後ろ――ではなかった。
身体を捩じり振り向いた魔術師は、驚きの声を上げる。
「な!?」
相手が簡単に後ろを取れるような存在ならば、当然真後ろを警戒する。その虚を突いたのだ。
それではどこに現れたのかと言えば、あえて走っている方向とは反対方向に移動していた。高い速さを持っているのならば距離が再び開こうとも、作った一瞬の隙が雌雄を決する。
「もらった!!」
サラは急加速し、握った短剣で魔術師を貫こうとする。今の体勢からそれを回避する術は、魔術師にはないだろう。あるとすれば受け止めるくらいだが、魔術師にそのような能力は持っているとは思えない。
但し、それは単純な魔術師の話である。
金属同士がぶつかり合うような音がしたと思えば、魔術師は包帯が巻かれた左腕で短剣を弾いていた。
「あなた……! その腕!?」
「したかった話にそれが関わってくるの。だから、邪魔しないでっ……!!」
魔術師が叫ぶと全身から闇属性の魔力が放出される。それもかつてない濃度で。
サラは後ろに跳んで、放出される魔力を自身の腕で防御しながら、敵の正体を口にした。
「あの時からそうじゃないかと思っていたけど……、やっぱり魔族だったのね!」
自身が放出する魔力により、羽織っていた黒いローブや巻いていた包帯が宙を舞う。そのことによって、魔術師の全身が露わになった。
白い長髪白い肌に赤い瞳、服は黒のタンクトップに黒のズボン。腰には布で作られた可愛らしいポーチが。
それらは彼女の特徴のほんの一部でしかない。
彼女の容姿を語るに置いて何より重要のは、明らかに人ならざる怪物のような紫色の左腕と、左頬を覆う岩のような同色の肌である。
その容姿からは誰もが彼女のことを魔族と言うだろう。しかし、彼女は魔族であることをこれまで以上に強い口調で否定する。
「違う! 私は!」
そんな彼女の叫びも、その容姿の前では無意味だ。
「問答無用!」
サラは聞く耳を持たずにそう吐き捨てて、握る武器を切り替えながら魔術師の首を狩るべく駆け出した。
「魔族である以上、生け捕りなんて考えていないわ!!」
それぞれの手に握られたのは鎌のような刃物。完全に殺す気でかかっていた。
「どうして誰も……!」
話を聞いてくれない憤りから、魔術師の闇は深まっていく。そしてその闇を何本もの触手のようにし、サラを迎え撃とうとするが、サラは触手を一本一本正確に切り裂いていくだけだ。
サラが首を切り落とせる位置まで接近するのはすぐだった。
「なんでうまくいかないの……」
魔術師が完全に諦めかけたそんな時、サラが突如として両手を自身の手前で交差させ、防御の姿勢を取った。
状況について行けず魔術師は目をぱちくりさせるが、すぐにその意味を理解した。
「どうして……?」
だからこそ湧き出る疑問の言葉。
人質に取ったはずの存在が、自身を救ってくれたはずの存在に殴り掛かっていたのだ。
それだけでも理解できないが、更に理解不能な状況が繰り広げられる。
レツの攻撃を防御をしたサラが、受け止めきれずに何メートルも後ろに押しやられていた。
決勝戦を観戦していたため、レツの強さをある程度は把握している。レツにそんな力はないはずなのだ。
(一体何が!?)
混乱する魔術師を余所に、レツとサラは二人だけで会話を始めていた。
「これはどういうことかしらねレツちゃん?」
「私としてはあなたに少し黙っていてもらえればいいんだけどね」
「その口調……。レツちゃんのはずなのにレツちゃんじゃないようね。どういうことかしらね?」
「あなたには関係ないわ」
それからレツとサラが戦いを始めてしまった。
(待って!? 私除け者!?)
まさかの無視されるという状況に呆然とする魔術師。
思わず地面に転がされているもう一人に視線をやるが、同情の視線を頂いてしまった。
(この状況が理解できないのは俺も一緒だ。まあ、あれだ。強く生きろよ)
(同情された!? さっきまで完全に悪者に徹するつもりだった私の威厳は何処に!?)
しばらくおろおろしていたという。
「例え何かあったとしても、私たちの力ならあの子くらい簡単に止められるでしょう? だから、話だけでも聞いてみない?」
「……それもそうね。でもあの子の話がレツちゃんに関わってくるであろうと言うのはどういうことかしら?」
「それはまだ分からない。ただ、あの子が持つ何かと共鳴しているのは確か。私はそれを確かめたい」
「……仕方ないわね。今回はあなたに譲るわ」
「ありがとね。サラさん」
サラとレツは何度かぶつかりあったところで、お互いに攻撃の手を止めたと思えば、サラが魔術師に歩み寄った。
「話はまとまったわ。それじゃあ最初の要求とかの説明に戻ってね」
「…………」
魔術師はサラの急な心変わりに一体何があったのだろうかと疑問に思うが、その機会を逃すわけにはいかない。
首を横にぶんぶんと振り、脳内を交渉に切り替えていく。
「色々あったけど、話を戻していいか?」
『ああ、構わないんだが……、泣きそうだけど大丈夫か?』
ただ、無視されたりと威厳が奪われ続けたことに涙目だったという。
それを指摘する学長にうるさいと返してから呼吸を整え、魔術師は本題に入って行った。
「まず島の用途の説明だが、その島を調査したい」
『島の調査だと?』
「ああ。そのことも説明するが、あることを知ってもらいたい。まずはそうだな……私のこの左腕が何かは分かるな?」
魔術師の言葉に学長も観客たちも頷く。
当たり前だ。サラとの戦いを見ずとも魔族のものであると断言するには充分だ。
「そう、魔族のものだ。でも私は魔族ではない」
その言葉を学長がありえないと一喝した。
『人外化の術でも魔族への人外化は不可能だ。人外化はその種族の特徴を理解して初めて使えるものだが、魔族はそもそも身体の特徴を理解することができないはず。闇の魔力の集合体でしかないからな。仮にできたとしても、闇の魔力の塊である以上人の身体が分解されることになる』
魔術師はその答えを想定していた様子で返していく。
「そう思うだろう? でも事実だ」
言いながら魔術師はポーチから4色の魔石を取り出した。4色の魔石を取り出したことが意味すること、それは光属性の魔力の生成である。
光属性は本来なら魔族にとっては身体まで溶かす毒でしかないが、魔術師は躊躇なくそれらを合成。そのことによって強い光が放たれ、魔術師の身体の一部が溶かされていった。
一見するとただの自爆芸にしか見えないだろう。
けれども、光から解き放たれた魔術師の姿からは、そうも言えなくなってくる。
魔族の特徴を持っていた部分のみが消え失せていた。
この現象に誰もが驚きを隠せず、学長に至っては思わず叫んでいた。
『半魔族だと!?』
「ああ」
魔術師はそれを肯定し、学長に問いかける。
「何故私が島を求めたか、ここまで話したのならもう分かっているんじゃないか?」
『あの島がお前の半魔族化に関わっているということだな』
「そういうことだ」
魔術師が頷くと、学長は暫く考え込んだ。
身体が半分の魔族の人間が生まれているのは他に例がない大きな問題である。何故それらが生み出されたのか。下手したら魔王も関わっているのではないだろうか。疑念は幾つも出てくる。
したがって、学長は最終的にこのような結論を出した。
『恐らくここで見ていた諸君も、半魔族の人間が存在するという事態の大きさが分かっているだろう。島を預けられた身からも、この調査に取り組みたい。島を渡すことはできないかもしれないが、一先ずは共に調査をさせてくれないか?』




