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脱出のために

 脱出、つまり迷宮を攻略すると決めた以上、すぐにでも行動に移って行く。野営を目的に出てきていたため、幸いある程度食料などの備えはあるが限りはある。出現する魔獣を食べることもできるが、持ち込むことのできた食料と合わせても七日しか保たない。できるだけ早く脱出できるに越したことはない。


 攻略のために必要なこと、それは一人一人の能力強化だ。サラと先生はそれぞれの能力に合わせて、七人ずつの班を四つ作った。大人数での活動は指導の質を落とすことに繋がるため少人数が望ましいこと、体力回復のためにも毎回ちゃんとした野営の環境を作り上げたいこと、魔獣が襲ってきた時に備えての見張りを確保すること、それらを行うための体力回復の時間が欲しいこと、こうした理由から人員を振り分けたのだ。四つの班は修行、野営準備、見張り、睡眠を交代で行い、時に全員で迷宮の奥に少しずつ進むことになる。


 また、学生は全部で三十名のため、二人余ることになる。サラ達が余らせたのはレツとマイであった。

 何か言いたげにしているレツを、視線一つで黙らせてサラは二人に説明する。


「君達二人は周りより強いからね。別のメニューを用意した」


 もちろんこれは建前だ。二人の力はすでに充分であるため、当初の目的である仲違いの解決が目的だ。こうした状況でも解決を目指すのは、迷宮主に挑む際に協力は必須となってくる。本人たちの強化以上に優先するべき課題であった。


 それから、彼らはそれぞれの役割をこなしていく。修行組はサラの指導の下迷宮の魔獣狩りを行なう。野営準備組は睡眠班のために睡眠の場所を真っ先に確保し、生活に必要なものを用意していく。見張り組や睡眠組については言うまでもないだろう。

 一方でレツ達二人は、全然進展がなかった。


「あの魔術師に向かって行った時のあの力が全力だったんだね」


「まあそうなるけど、あの力は魔力の消費が激しいからさ」


「嘘つかないで。ピンピンしてるじゃない」


「そりゃすぐに解けたからであって……」


「フン。迷宮主との戦いの時も一人で戦えばいいんだよ」


「流石にそれは……」


 いきなり口論である。二人を担当することになった熱血先生は頭を抱えていた。


(特にマイの方は完全に受け入れる気がないな。どうしたものか……。俺が直接仲直りしろと言っても恐らく逆効果だろうからなぁ)


 とりあえず頭じゃなくて身体を動かしてもらうことにする。そうすることで少しは話やすくなるはずだ。


「今は言い争っている場合じゃないことくらい、お前達の強さなら分かっているはずだ。言い争ってないで俺達の役割を果たすぞ」


 彼らに与えられた役割、それは迷宮主の居場所を特定することだ。脱出のために全員で攻略するという目標を果たすために、少しずつ移動していくことを決めているが、迷宮主の居場所が分からなければ話にならない。強さを持つ二人だからこそできることであり、共に魔獣を相手にする機会も多くなるため、仲の改善にも期待できる。


 こうして、彼らは迷宮脱出に向けて活動して行き、閉じ込められてから七日目。迷宮主に挑む時がやってきた。本当は四日目くらいには挑むことはできたのだが、できるだけ二十八人を強化したいことと、何よりレツとマイの仲を改善したかったため、食料の限界まで耐えることとなった。

 二十八人は無事に強化できたのだが、レツとマイについてはこの時までどうしようもなかったのだ。指導者二人は念話で会議する。


『すまない。二人については結局どうしようもなかった。それぞれの力が強いから、共に活動することなく魔獣を狩ってしまうし、協力が必要と説いて一緒に戦わせるにせよ、互いにここはこうしろとかこうできるだろと争ってばかりだ』


『特に戦力になりそうな二人がこの状態となのはつらいわね。レツちゃんには個人としても改善をお願いしたけど、相手が話を聞かないの一点張り……。正直言って不安だわ』


『だが、食料的な問題でも今日挑むしかない。腹をくくるしかないな。それに希望はある』


『希望?』


『ああ。あの二人、互いの強さはなんだかんだ認め合ってはいると思うんだ。だからこそ揚げ足の取り合いみたいな争いを繰り返すんじゃないかなって。もしそうなら、強敵を通して何か変化があるかもしれない』


『教育者だからこその視点かしらね。私も二人を信じることにするわ。それじゃあ行きましょう』


 話はまとまった。先生は学生を集め、これから迷宮主に挑むと言う旨を伝えた。それから迷宮主の居場所に向かって行く。

 迷宮主がいる場所は分かりやすい。迷宮はいわば迷宮主の巣だ。そのため、自分の生活空間を確保しており、そこに余計なものが入らないように結界を張るのだ。結界である赤い障壁の前で先生は足を止め、ついてきている学生に最終確認。


「これを破ったらもう引き返せない覚悟はできているか?」


「「「はい!!」」」


 全員気合十分であった。倒さなければ結局ここで餓死することは分かっていたし、何より修行期間中に身に着けた力に自信があったからである。作戦も指導者二人に練ってもらってある。やらないわけがない。


「いい返事だ! それじゃあ行くぞ!」


 先生は満足そうに頷くと、炎の魔力を固めた刃を作り出して、それで障壁を切り裂いた。


「突撃ーー!!!!」


「「「おう!!」」」


 そして先生の声を合図に、全員で迷宮主がいる広間に駆け込んだ。部屋の中心までは行かない。後ろから攻撃される危険性があるからだ。

 広間には広大な空間が広がっていた。しかし、迷宮主の様子は見当たらない。こうした状況も想定済みだ。サラが指示を出していく。


「……防御班、前へ。そして停止」


 学生の能力別にいくつか班分けをしていた。防御班、攻撃班、回復班の三班だ。そして今回はいつ敵が現れてもいいように、防御魔法などが得意な者を集めた防御班を最前に立たせた。

 待ち続ける。しかし、何も出てこない。だが警戒を怠るわけにはいかない。静寂がより緊張を感じさせる。そしてその時がやってきた。


「感知に反応あり、来るわ!」


 頭上から赤い鱗を持つ巨竜が部屋の中心に降り立った。その存在に全員に衝撃が走る。大型の竜ともなると、生物の中でも最高位の存在だ。――こんな存在を自分達が相手をしないといけないのか!?


 しかし竜は慄く暇さえ与えない。降り立つと同時に赤く輝く炎を吐き出した。

 防御班はすぐに対応する。水の盾を召喚し、それで全員の身を守る。


「攻撃班も準備!」


 その間に攻撃班も準備を進めていく。学生に近距離攻撃を刺せるのは危険と判断したため、遠距離攻撃が可能な者だけを選抜している。杖や弓を持った学生を始め、レツとマイも構えた。レツの武器は短剣だが、今回は遠距離攻撃に専念することになっている。指で銃の形を作っていた。

 ちなみに近接戦型の学生は、付け焼刃とはいえ回復魔法を憶えてもらい、魔力の受け渡しなどに専念してもらうこととなっている。近接戦を行うのは先生たちだけだ。


「今だ!!」


 竜が炎を吐くのをやめたところで、学生たちは一斉に攻撃を放つ。矢や色とりどりの魔法が竜に撃ち込まれていく。サナはどこから取り出したのか両手剣を握りながら、熱血先生は両手に炎を纏いながら、先生たちは自分自身で突っ込んで行く。


 しかし、矢や魔法は全て弾かれ、サナも剣で斬りつけるが傷一つ与えずに剣が吹き飛ばされ、先生は殴った際の痛みに顔をしかめていた。


(勝てるのか、こんな奴に……?)


「やっぱり剣を持っても攻撃力が足りないわね。隠密向け魔法ばかりなのを後悔する日が来るなんて……」


「いってぇぇえええーー! 硬すぎだろ! 直接攻撃何て担当するんじゃなかった!」


 この状況に学生たちは不安を憶え、先生たち二人も弱音を吐いていた。だが竜に人の感情は関係ない。外敵は排除するのみ。目の前で大声を上げた男、先生に向けて炎の球を吐いた。


「な!?」


「「「先生!?」」」


 学生たちは自分達の先生が炎に包まれていくのを確かに確認した。

 

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