迷宮
そして週末。
学校の校庭には、鞄を背負った訓練着姿の学生三十人が集合していた。その学生たちの前に立つのは、サラ改めサナともう一人、実践的な活動を全て請け負っているらしくいつもの熱血先生がいた。
熱血先生が一歩前に出る。
「みんな知っているとは思うが、今回は街の外での実践訓練だ。人数が多いと危険が伴うため、学校としてそうした活動はあまり行なえていなかったが、今回はこちら、ランク7冒険者サナさんの協力があって実現することができた」
「サナです。今日はよろしくね、みんな!」
紹介を受けたサナは微笑み、一礼。すると拍手と(主に男性陣から)歓喜の声が湧き上がった。それだけの美貌を持っていたのだ。
レツは美女の微笑みにテンションを上げる一般男子達に混ざることなく、疑いの目を向けていた。
(何だろう。サナさんを見ているとどこかで見たことあるような、そんな不思議な感覚がするんだよなぁ)
その視線に気が付いたサナは目を逸らす。
(怪しまれてる!? 変装とかには自信あったけど、それなりに一緒にいたからかしら……。気を付けないと)
今までになかったことに多少の焦りを感じていた。喋れば喋るほど確信に近づいていくだろう。今後はできるだけ口を開かないとサナは決めた。弟子の問題が解決するその時まで。
だから、残りの説明を熱血先生に任せることにした。
「あ、続けてどうぞ!!」
「お、おう」
説明が一通り終わったところで、サナと先生を先頭にみんなを引き連れて街の外まで向かって歩く。同じ格好をした大荷物の集団の引き連れているためか、なんだなんだと好奇の目で見られるが、今はひたすら我慢である。
歩き続けていたそんな時、熱血先生があのとサナに耳打ちした。
「協力してもらいたいことがあるのですが……」
あまり大きな声では言えないことだろう。サナは念話で返すことにした。
『内容によるわね。言ってみて』
一度念話を送れば、あとは念話で返すことができる。それでも最初に耳打ちしたのは、いきなりの念話は失礼だと判断したのだろう。見かけによらず律儀なところを可愛らしく思えたサナは、クスッと笑っていた。
横を歩く念話を送ってきた美女の微笑みに内心ドキドキしながらも、先生として何とか平静さを失わずに説明する。
『実は今回の参加者の中にちょっと問題があった学生がいましてね。私が原因で仲違いさせしまい、それ以来元気がなくてですね……。この機会に何とかできないのかなと思っていまして』
間違いなくレツのこととサナは確信する。それが目的で今回の提案をしたところもあるが、流石にそれは口には出せないので、お安い御用とだけ返した。
先生も同じことを考えているとなれば話は早いし、できることが増えてくる。念話で作戦会議をしながら街を後にした。――さて、とりあえず一緒に行動させるとしようか。
野営場所と決めていた森の中の木が生えていない一帯に一行は辿り着いた。早速準備を始めようと思ったその時、望まぬ来訪者が姿を現した。
「「あいつは……!」」
反応したのは二人。レツと熱血先生だ。何せそこに現れたのは先日魔獣を召喚したローブの魔術師だ。
先生だけでなく、今までやる気があるのかないのか最後尾をゆっくり歩いていたレツまで声を荒げたことで、全員が何か異常が起こったことを把握する。
学生はそれぞれが自分の身を守れるように戦闘態勢に。サナもいつでも飛び出せる準備を。レツと先生は攻撃を仕掛けていく。
前回は敵意の有無が不明であったためすぐには攻撃しなかったが、敵意を確認できている以上待っている余裕はない。
「《神風》、そして《エアーブレード》!」
「《トライデント・ジャベリン》!」
二人とも最初から全力だ。レツは《神風》で限界まで能力を引き出し、風を纏わせた短剣を叩き込むべく一瞬で距離を近づける。先生は三又になった巨大な《フレイム・ジャベリン》を投げつける。
対して魔術師は疲れる様子もなくそれぞれを対処した。近づいてきたレツに対しては、短剣を突き刺すべく伸ばされた腕に右手で手刀を。その威力にレツは地面に叩きつけられる。
「がっ!?」
そして次に《トライデント・ジャベリン》に向けて左手を伸ばした。するとそこから紫色の霧のようなものが発生し、炎の槍を分解していく。
「俺の技を!?」
焦るのは先生だけではない。その様子を見ていたサナも敵の戦力を分析し、冷や汗をかく。
(限界まで能力を引き上げた状態のレツの速度に余裕を持って対処。あれだけの威力の魔法を分解した闇属性魔法。魔族の可能性が高いわね。冒険者で例えるなら最低でもランク7相当の強さはある。最悪四天王クラスの強さである可能性も考えないと……)
四天王クラスとなれば、ランク9でもまず一人じゃ勝てない。《聖なる一撃》によるランク無視討伐も、レツに頼ることになるため現在の状況からは使用不可能だ。相手にそこまでの実力がなかったとしても、人質を簡単に取れる状況だ。戦うのは得策ではない。……となればやることは一つだ。
サナは攻撃を続けようとしていた先生を止め、両手を上げながら魔術師にゆっくり近づいて行く。
「降参よ。そっちの要求は何? 理由なく攻撃してくるなんてことはないでしょ?」
それを受けて魔術師は、ゆっくりと静かに、初めて口を開く。その声は少女のものだった。
「学校が管理している島、それを寄越せ」
学校関係者ではないサナは持っていない情報だ。先生に目配せするが、先生も知らない様子だった。
「……聞いたことない」
「分かった」
魔術師は二人の反応に残念そうに一言呟くと、足元を中心に紫色の巨大な魔法陣を描いた。
「まずい! 魔獣を召喚してくるぞ!」
その行動を見たことある先生は叫んで次の行動への警戒を呼び掛けるが、魔術師は魔獣の召喚を否定する。
「今度はそんな甘くはしない」
言い終えると同時に、魔法陣を中心として大地が崩れていく。
(これはまさか……!?)
サナはこれから起こることを予測した。このままでは取り返しのつかないことになるかもしれない。しかし。
(全員を連れて回避することは不可能ね……)
覚悟を決めた。
(全員を助けるためにはこれしかないわ!)
どこからか糸を取り出し、全員を一カ所に手繰り寄せた。これから起こることを考えれば、全員一緒の方がいいからだ。
そして一同は大地に飲み込まれた。
次に彼らが目を覚ましたのは洞窟の中のようなところだった。
「ここは?」
「もう終わりだ……」
「い、生きてる! よかったー!」
現状を把握しようとする者、絶望する者、生きていることに希望を見出す者、反応はそれぞれだ。彼らなりに落ち着こうとしているのだろうか。サナは彼らを黙らせる。
「静かに!」
その声は緊迫感溢れるものであった。静まらせるには充分であった。それから説明を始める。ここに来た以上目標は全員揃っての脱出だ。そのためには現状を正しく把握してもらう必要がある。
「まずは私達の置かれた現状について話させてもらうわ。一言で言うと、迷宮に閉じ込められた」
今度こそ学生たちは混乱した。これまで学んできた知識があるがゆえにだ。
迷宮となれば巨大な魔力を持つ生物のみが作り出せるもの。そこに閉じ込められたとなればやることは一つ、迷宮を作り出したその生物、迷宮主を倒さなければならない。また、迷宮内は迷宮主の魔力によって魔獣が誕生することもあって非常に危険。学生たちにとって絶望しかなかった。
「だけど安心して! ココには私がいる! 全員揃って脱出しよう!」
その声に不思議と安心感を憶える学生たち。中には冷静な存在もいるようで、水を差すような質問をする者も。
「でも先生ってランク7ですよね。それで全員脱出なんてできるのですか?」
その質問にサナはやれやれと溜息を吐いた。真実を述べる能力を求められることもあるが、状況を選んでほしいものである。後で説教確定コースだが、想定の内の質問だ。
サナは自らの変装を解いて、自身のカードを取り出してランクを見せつけてウィンクする。変装を外したことにより、ステータスの偽装も当然解けていた。
「ランク10に最も近い存在、ランク9ならどうかしら?」
「「「うおおおおおおおお!!」」」
迷宮内に歓喜の声が響き渡った。ランク9、その称号だけでも希望を与えるには充分であった。
もう12月という感じです。やることばかり増えていく絶望……
やることを頑張って片付けて、たくさん書いてたくさん読みたいです。




