まさかの展開
《神風》。激しい魔力消費と引き換えに、一時的に自身を超強化する技。レツの総魔力量は先生の半分もないだろう。しかし、一気に放つ量ならどうだろうか。魔獣に注目されるには充分だった。
自身の生存を脅かす相手を放置するわけにはいかない。だが走り出そうとしたその瞬間には、宙に打ち上げられていた。
「ガッ!?」
この時レツは超速で魔獣に接近し、スライディング。そのまま魔獣の下を潜り抜け、その際に《空弾》を三発撃ち込んでいた。《神風》を発動していることもあり、一発一発が高火力だ。
それからレツは体勢を直しながらくるりと百八十度転換。再び敵を見据えると魔獣の落下地点を囲うようにして三つの風の弾を撃つ。それらの弾は地面に当たるとそれぞれが竜巻となり、魔獣を飲み込んで行く。
竜巻の時間は当然永遠ではなく、すぐに解除されてしまうが、レツの作戦にとってそれは大した問題ではなかった。自分の存在を見失わさせるのが目的だったからだ。
竜巻から解放された魔獣だが、《ステルス》を発動した人間を目で見つけることはできない。鼻を利用して探すことに切り替えようとするが遅かった。一度見失ってしまえば、《神風》と加速魔法を併用して動き回るレツを再び捉えるのは難しい。
「これで終わりだああああ!!」
レツの姿が明らかになったと思えば、光を纏った短剣を魔獣の胸に叩き込んだ後だった。
「グオオオオォォ……」
自分に短剣を突き刺したままの体勢でいる無防備な人間を、この牙で貫きたい、この爪で切り裂きたい。しかし、それらは叶わぬ夢。力が失われていく、貫かれた場所を中心に分解されていく。
最終的に魔獣は跡形もなく消滅した。
この時レツが使ったのは《聖なる一撃》。魔族討伐のために魔石を使って使用した技であるが、独自に魔法を産み出したように魔法センスの高いレツは、光属性を発動する感覚を掴み、準備に時間がかかるとはいえ自力で発動できるようになっていた。
もちろん、魔石を利用した時よりも威力は低いが、魔族と呼ばれる域に至っていない魔獣程度なら滅することができる。分解を目的とした攻撃方法であるため、素材を残せないのが現役冒険者としては惜しいが、流石に人命優先だ。
魔獣が消滅するのを確認したレツは、魔力を大量に消費したことで立っていられず、その場にへたり込んだ。
(《神風》といい《風結界・暴風陣》といい、魔力消費が多い技ばかりだな……。流石にどうにかしないとな。それよりも……)
習得している主力技に反省するが、今はそんなことよりも解決するべきことがあった。周りを見て苦笑い。
(さて、どうしたものかな……)
「ウチの学生で魔法化を使いこなせる奴なんて、一人しか知らないぞ……」
使用魔法に驚愕する先生。学生だという誤魔化しは通用しなそうだ。
「どこのクラスの子?」
「今度俺に魔法を教えてくれよ!」
「模擬戦しないか!?」
「後で時間あるか!?」
学生からもすっかり注目の的。何でもないですと言って逃げることは難しいだろう。ならば……。
「まあお前が誰であろうとウチの学生を助けてもらったのは事実だ。礼を言うぞ」
不審に思いながらも、学生を助けてくれたことには代わりはない。へたり込んでいるレツに手を伸ばす。
レツはその伸ばされた手を頼りに立ち上がると、その場で考えた事情を説明することにした。後は追求されないことを祈るのみ。
「ごめんなさい。学校に憧れていて制服を借りて来ちゃいました。あ、魔法は姉に教えてもらったものです」
それを聞いて顎に手を当て考える先生。正直苦しかっただろうかと焦るレツだが、ここからはまさかの展開が待っていた。
「よし、任せておけ」
考え終わったと思いきや、何を任せておけというのだろうか? 爽やかに笑った先生に引っ張られて学内に。
どこに連れて行かれるのかと思えば学長の部屋に。このまま学長に突き出されるのではと思えば、先生が熱弁し始めた。
「この子はとても優秀ですが、学校に入学していないそうです……。だから入学させてあげてください! 先ほど校庭に魔獣が召喚されたのですが、この子が学生を守ってくれたんです! これだけ優秀な子を私としても放っておけません! お願いします!!」
急に入ってきたと思えば急に語り出す。学長はしばらく呆気にとられていたが、やがて思考が追いつき。
「魔獣が召喚されたとな!? その話を詳しく」
それからは事件の詳細を先生が説明する。もちろんレツについてもだ。戦いの活躍についてはもちろんのこと、学校に憧れていると口走ってしまったことから、入学させるようにとも繰り返した。
その結果からか、レツは学長から入学を認められてしまうこととなった。
「ふむ。大概理解した。そこの子よ、学長として学生を救ってくれたことに感謝する。ありがとう。それとだが、我が校に憧れてるそうじゃな? 学校としても学生の命の恩人である上、非常に優秀な人材を放置するわけにはいかない。主の入学を認めよう。もちろん学費は免除するぞ」
よかったなと肩を叩く先生だが、レツにとっては最悪でしかなかった。まず潜入失敗だし、次に実戦以外は特に学ぶことはないし、そして何よりも間違いなく女子として認識されているため、女子学生として生活することになってしまう。
(そこは認めないでよ学長!!)
こうしている間も次々と手続きを進められ、翌日からの学校生活についても説明され、晴れて入学が確定した。
ちなみに学校は自分で選択した講義を受けていくというシステムだ。冒険者を目指す者の年齢や知識がバラバラであるため、こうした形式が取られているらしい。
ようやく解放されて帰路につくレツは、心の中で叫ぶ。
(絶対行かないからな!)
色々手続きは行なわれてしまったが、行かなければいいだけの話。帰ってからサラに声をかけられるまではそう思っていた。
「一部始終、聞いていたわよ?」
「どういうことですか?」
サラはニヤニヤ笑いながら、レツの制服の首元についていた小さな魔道具、盗聴器を外す。
「……いつの間に!?」
「最初からよ。入学おめでとう! レツちゃん! 潜入どころか、内部の人間に認めてもらっちゃうなんてすごいね!! いやーやっぱり才能があるね君は!!」
どうやら潜入は失敗ではなく大成功なようである。嬉しそうに弟子の活躍をほめるサラだが、その弟子にとっては地獄でしかない。女の子扱いをされるのが嫌なのに、自ら女の子を名乗る生活が待っている。叫ばずにはいられなかった。
「いやああああああ!!」
地獄の日々はこうして幕を開けたのである。
△▲△▲△
レツが魔獣と戦っている時、前髪で右目を隠した男子学生が、その様子を覗き見ていた。
その学生は制服を着崩しており、普通なら座学を受けるか実戦練習をしている時間に屋上でサボタージュしていた所謂不良だ。
その学生は楽しそうに笑っていた。
「まだまだこの学校も捨てたもんじゃねぇな。面白そうな奴がいるじゃねぇか」
彼の名はヴェル。学内最強の男。
彼は戦いに飢えていた。この学校の誰もが自分より弱かった。そのようなことから、講義を受ける価値を感じられなくなっていた。しかし今日、ようやく戦えそうな相手を見つけた。
彼は静かに動き出す。戦いの舞台を用意するために。
「クク……最高の舞台で決着をつけようぜぇ……」
この章を書いてから学園メインのファンタジーを書きたくて仕方なくなりました。次作は学園ファンタジーに決まりかな!
また、私自身が学園ファンタジー好き人間と再認識しました。別サイトでコンテストを開催しようと思っていたりします。




