潜入
冒険者育成学校は、大人数での訓練を行うために広い校庭を持っており、街に来てから二日目のレツでも迷うことなく辿り着くことができた。
冒険者育成学校まで来たレツは、《ステルス》を発動し学内に侵入。潜入しろと言われただけで他に特には指示を受けていないため、とりあえず講義を覗くことに。だが、すでに冒険者資格を有しているレツにとって、座学は退屈なものでしかなかった。そのため、校庭で行われている実践訓練の様子を見ることに。
実践訓練の内容は、学生同士による戦いであった。魔法の使い方や身体の動かし方は人それぞれ。冒険者の街であるからかレベルも非常に高く、見ているだけで参考になる。座学と違って非常に興味深い中でも一際目を引いたのがマイと呼ばれていた水色のロングヘアの女子学生だ。
マイの戦闘スタイルは、は身の回りに複数の水球を浮かべてそれを操るというもの。近くの相手には水球の形を三日月状に変化させて刃のように操り応戦。遠くの相手からの攻撃は膜のようなものに変化させて身を守り、別の水球から水を発射し遠距離攻撃。近距離も遠距離も対応でき、攻防一体。正に万能である。
学生ながらすでにクウと同等の実力あるのではないだろうか。マイの様子を見ながらそんなことを考えていたそんな時だった。水球の一つがレツに向けて勢いよく水を放つ。
《ステルス》が解けているわけではない。そうなると偶然か、もしくは狙ってか……。レツは横に飛んで回避し、学生たちの様子を見守ることにした。
「マイ、珍しく暴発か?」
「あはは、たまにはそんな日もあるよ」
誤魔化すように笑うマイだが、何度か視線をレツに向けていた。気付かれていることを確信するレツだが、その様子に焦りはない。むしろ喜々としていた。
(なるほど。訓練を見るだけでも参考になるし、今みたいに気付かれた時の対処を考えることで、力が身についてくるというわけか!)
それ以降もマイに度々狙われることとなるが、訓練の時間の終了と共にそれも終わる。一発も当てられなかったことから、悔しそうに去って行くマイの背中を見送った。
それからも訓練する学生が入れ替わったりするが、マイ以降レツの存在に気が付く者はおらず、このままお昼にしようかとレツが考えだしていたそんな時に異変が起こる。
校庭にフードを深くかぶった黒ローブの魔術師が現れたのだ。急に現れた魔術師の存在に、先生も学生も警戒態勢だ。
「何者だお前は?」
魔術師は先生からの問いを完全に無視、校庭の中心に向けてゆっくりと足を進めていく。
一歩進むごとに確かな緊張感が空間を支配していく。この魔術師は何をしてくるのだろうか、先生と学生はそれぞれ武器や道具を握りしめ、相手が何か動きを見せたら、それに対処できるようにしていた。
歩き続ける魔術師は、校庭の中心でその足を止めた。すると、魔術師の足元に紫色の巨大な魔法陣が展開され、そして魔術師の姿が消えるとともに巨大な狼型の魔獣が召喚された。
(な!?)
白昼堂々の学校への攻撃に驚愕を隠せないレツ。こうしている間も、魔獣は学生たちに襲いかかろうとしていた。
もちろん、先生は黙ってはいない。
「狙うなら俺を狙え! 《フレイム・ジャベリン》!」
先生の手のひらから巨大な炎の槍が放たれ、魔獣の身体を焦がすが、魔獣はそれを気にすることなく学生に咬みつこうとしていた。学生たちも経験が未熟であるため、大型魔獣に怯んで動けない様子。先生も学生も絶望しかけた時だった。
「グオッ?」
魔獣の身体が不自然に押し戻された。まるで強い風を受けたかのように。
不可解な現象を受けて首をかしげる魔獣の前に、緑色の風の魔力を纏う丸眼鏡の少女……いや少年レツが姿を現した。
(流石に人命の前じゃ修行だなんて言ってられないな)
レツは魔獣に向けて言い放つ。
「お前の相手は僕だ」
その様子を呆然と見ていた学生達だが、やがて口を開き始めた。
「あんな娘ウチにいたっけ?」
「眼鏡に僕って属性豊富だ!」
「可愛ければそれでいいんだよ!」
さっきまで怯んで立ち尽くしていたのに呑気なものである。こうしている間も魔獣は動いているというのに。経験の問題なのか? そうなのか?
「うるさい!!」
ともかくだ、今の相手はこいつらじゃない。レツは彼らを黙らせてから魔獣に向き直した。魔獣はレツに攻撃の矛先をむけてくれたようだった。勢いよく突進してくる。
「さて、やるか」
レツは小さく呟くと、指で銃のような形を作り、そこから風の弾を連発する。
「君のような学生に見覚えはないが、俺も援護するぞ! 《フレイム・ジャベリン》!」
「助かります!」
レツとして先生の参戦は予定通りだった。学生想いにせよ、そうじゃないにせよ、学生が戦う手前戦わないわけにはいかないだろう。
そのため、最初に連発した《空弾》は牽制のために放ったものだ。威力は捨てているものの目やその周囲を狙った高速の弾。
それらに気を向けたら最後、高火力の《フレイム・ジャベリン》に焼かれることとなる。
「グオオオオッ!?」
しかし、先ほど同様身体を僅かに焦がすだけだ。先生は持久戦を覚悟した。
「仕方ない、大人の意地をってもんをみせてやる!」
そこにレツがお願いをする。
「僕が準備完了と言うまでしばらく一人で気を引いていてもらえないでしょうか?」
「……あれをすぐに終わらす策があるというのだな?」
「はい!」
「……いいだろう! 任せておけ!」
レツの策が何かは分からないが、その言葉に嘘はないと分かった。持久戦を考えていた先生だが、少し多く魔力を使うことにした。
先生は両手に《フレイム・ジャベリン》を握り、魔獣に向かっていった。
魔獣も好き勝手させるわけではない。鋭い爪で先生を引き裂こうとするが、左手に握った槍でガード、そして右手に握ったものを隙のできた魔獣に投げ込む。
「少しは応用効くんだぜこの魔法も!」
身体を焦がす程度の威力しかないと分かっているためか、魔獣は距離を取り直すこともなく、今度は牙の餌食にするべく大きな口を開き咬みつこうとする。
先生にとっては食らうわけにはいかない一撃、足元に魔法で爆発を起こして飛ぶことにより距離を空け、それから両手を地面に叩きつけた。
「《ファイア・ウォール》!」
両手が叩きつけられた場所から炎が沸き上がり、魔獣を寄せ付けない厚い壁となる。流石の魔獣もこの中に突っ込めばただじゃ済まない。だから、遠距離攻撃に出た。
魔獣は口から紫色の弾をいくつも吐き出した。その中の一つが炎の壁を突き抜け、先生に命中。先生は地面を転がる。
「がっ!?」
炎の壁を通したことによって威力は弱められていたものの、先生の集中を切らすには充分だった。《ファイア・ウォール》が解除されてしまう。
そして地面に倒れた先生に向かって飛びかかった。先生も打つ手がないわけではない。しかし、時間稼ぎ失敗となるだろう。どうするべきか迷っていたそんな時、声が聞こえた。
「準備完了です!」
その言葉に安心した先生はフッと吐息をこぼした。
「そんじゃあ後は任せたぞ! 《ボンバー》!!」
自分自身を巻き込む技であるため、その後を考えると時間稼ぎには向かないかもしれないと発動を躊躇したが、準備ができたのなら躊躇う必要はない。先生を中心に爆発が起こり、魔獣が吹き飛ばされる。
吹き飛ばされた魔獣は着地すると、傷だらけになっている先生にトドメを刺すべく一歩踏み出そうとするが、強い力を持つ存在を感じてその足を宙で止めて後ろを見る。
そこには暴風を纏い、片手に短剣を握る少年がいた。
「全力で行くぞ!」




