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医師を志す者達  作者: まさな
第三章 難しい一歩
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第八話 ディスティニーランド

 目覚ましが鳴り、すぐに手を伸ばして止める。

 いつもなら休日だし、俺ものんびり起きるところだが、みんなと出かけるとあって今日は目が冴えている。


 朝食のトーストを食べ、すぐに着替えて支度してアパートを出た。

 バスに乗り、集合場所の三鷹駅に向かう。


「賢一さん」


 駅前の広場にはすでに詩織が来ていた。


「早いな」


「はい、早く目が覚めてしまって。昨日、今日が楽しみであんまり眠れなかったんです」


 恥ずかしそうに肩をすくめる詩織。 


「そうなのか。ま、移動中に寝ててもいいし」


「はい。でも大丈夫です」


 白いブラウスにピンクのカーディガンを羽織った詩織はいつも通りに可愛い。


「お早うございます」


「ああ、セリア」


 白いブラウスに空色のスカートを穿いたセリアがやってきたが、お揃いの空色のリボンを付けていて、こいつ、前よりずっとオシャレになったよなぁ。


「今日はどこかに出かけるのか?」


 黒のボストンバッグを担いでいるし、駅に来るからには遠出だろう。そう思って俺は何気なく聞いてみたのだが。


「む、聞いておられないのですか? 私もディスティニーランド・ツアーへの同行者です」


「ああ、そうなのか。珠美が友達を二人誘うっていうのは俺も聞いてたんだけど」


「そうですか。詩織さんも、今日はよろしくお願いします」


「あ、はい、こちらこそよろしくお願いします」


 礼儀正しくお辞儀し合う二人。


「セリアー」


 手を振って黒崎がやってきた。黒のノースリーブのタートルネックに黒いミニスカート。青い宝石のペンダントをしているが、モデルみたいだよな、コイツ。


「お早うございます、沙希」


「お早う。詩織ちゃんも、今日はよろしくね」


 この挨拶だと、黒崎がもう一人の同行者らしい。全然知らない奴が来るかと思っていたが、珠美も俺と詩織の知り合いの方がいいかと配慮してくれたようだ。


「あ、はい、よろしくお願いします」


「で、真田君は今日はどこかに行くの?」


 黒崎が聞いてきたが。


「ディスティニーランドだよ。俺もこのグループだぞ」


「えっ! いや、ええ? 珠美とお友達数人って聞いてたのに、男だなんて…」


「そんなに気にしなくても、寝る場所は別々だぞ」


「あ、当たり前でしょ!」


 ちょっと黒崎は気にしているようだが、珠美も事前にきちんと説明しておけと。


「あ、アリスちゃん」


 詩織が言ったので気付いたが、アリスが来ていた。Gジャンにデニムのミニスカで、GRという派手なロゴが付いた黒いTシャツ。いつもと少し雰囲気が違う。


「お、お早うっス」


 片手を上げてぎこちなく笑ったアリスだが。


「「「 んん? 」」」


 俺も含めてその場にいた全員が戸惑う。


「どうしたの、アリス、ああ、テレビで流行ってる物真似とか?」


 黒崎が聞いたが、なんだそれか。俺はあんまりテレビを見ないから分からなかった。テレビチューナーを買ったけど、要らなかったかも。


「い、いやー、アハハ」


 頭を掻くアリスは外したからか恥ずかしそうに頭を掻く。


「気にしなくて良いぞ。俺や詩織はそれ、よく知らないけど、珠美ならウケるかもな」


「ん? ああ、そうだね! ま、今のは忘れて忘れて!」


 手を素早く振ったアリスは、何かが違うんだが。


「あなたは誰ですか?」


 セリアがそう言ったが、俺はドキッとした。


「い? い、いやー、アリスなんだけど」


「確かに、見た目はそっくりですが…放っている気が違いますね。私達と砂浜でビーチバレーをしたことは覚えているのですか?」


「もちろん! いやー、セリアの動き、ホント凄かったね。あんなに飛べるなんてさー。あたし、マジびっくりしちゃった」


「むむ、本人のようですね…」


 セリアは少し納得した様子だが、俺は逆にコイツがアリスとは思えなくなった。


「アリス、その言葉遣いはどうした」


「えっ! ああ、うん、えっと、ちょっとしたイメチェン。イメチェンだ――です! アタシも今日は楽しみにしてたから、ア、アハハ…おほほほ」


 そういう事か…。

 新しい人格。すっかり忘れていたが、多重人格、解離性同一障害の子だった。


「ふう、ちょっと来い」


「ひゃっ、な、なに?」


 みんなと少し離れたところまでアリスを引っ張って行き、言う。


「お前、アリスの記憶はあるんだな?」


「あ、あるけど…」


 となると、これが(オリジナル)


「全部思い出したのか?」


「え?」


「両親や葵さんの事だ」


「ああ、いや、親のことは覚えてないけど、葵さんの事は覚えてるよ」


 親のことを忘れているなら、オリジナルの人格では無いと思う。


「そうか。お前はいつから出てきてる?」


「え?」


 ずっと前からではないと思う。この喋り方や態度なら俺もすぐ気付いただろうし。


「賢一さん、どうかしましたか」


 詩織がやってきてしまった。彼女にはアリスの多重人格の話は伏せている。だが、話しておいた方が良いかもな。機会を見てだけど。


「いや、後で話すよ、詩織。アリス、言葉遣いは気にしなくて良いから、普通にしてろ。余計に挙動不審だぞ」


「うう、やっぱバレたかぁ」


 悔しそうな顔をしたアリスは自然体だった。演技では無いだろう。これで幼女やお淑やかな大人も演じ分けられるとしたら、大女優だ。

 それに、この前アリスは自分の部屋に有った物を『自分の知らない物』と言った。音楽の嗜好まで変わるとは知らなかったが、仮にアリスが多重人格を演じているとして、好きでも無いCDを聞いて、それを俺にアピールする理由がどこにあるだろう?



「真田君、彼女の前で他の女の子と仲良くするのってどうかと思うわよ」


 みんなの所に戻ったら黒崎が勘違いしてるし。


「そうじゃないって。それより、そろそろ時間だが、珠美の奴、遅いな…」


 俺はその場にある支柱の時計を見て言う。


「私、電話してみますね」


 詩織が携帯を出して呼び出してみたが、珠美はすぐ近くまで来ているという。


「やー、ごめんごめん」 


「遅いぞ、珠美」


「だってぇ。もう一眠りと思ったら、ぐっすり気持ちよーく眠っちゃってさあ、あはは」


「もういいわ。早く行きましょ」


 黒崎が言い、俺達は切符を買って電車に乗り込んだ。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「よし、じゃ、せっかく来たんだから、ちょっと写真撮っておこうよ」


 珠美が言う。ディスティニーランドの中に入ったが、ゴールデンウィークとあって、やはり人が多い。

 他の客に頼んで、一枚、お城をバックに集合写真のような物を一枚撮った。


「ありがとうございまーす。じゃ、次は向こうだから」


 珠美はプランを練ってくれているようで、彼女に付いていけばいいだろう。

 と、誰かに肩を叩かれたので振り向くと猫の着ぐるみだった。

 愛らしいデザインのキャラクターなのだが、近くで見ると表情が変わらないし、なんか怖い。


「んん?」


 そいつはしきりに手を合わせて何か俺にアピールしてくるが、いや、何言ってるかさっぱり意味不明だから。

 どうせ喋れるんだから中の人は喋れよと思うのだが。


「あ、ミケちゃん」


 詩織も気付いて名を呼んだが、そうか、お前は三毛猫だからミケか。黒猫のクロは俺も知ってたんだが。


「え? え?」


 詩織にもパントマイムをするが、詩織も理解不能の様子。

 って、気軽にオマエ、他人の恋人の肩を触ってどこかへ連れて行こうとすんな。

 俺がむっとしてミケの手をどかせようとすると、ミケはサッと詩織から手を放してゴメンのポーズ。


「わー、可愛い」


 なんて詩織が言ってるが、コイツの中の人、絶対男だぞ?


「賢ちゃん、どうかしたの?」


 珠美が戻ってきた。


「いや、コイツが絡んでくるから」


 そいつは慌てたように違うよ違うよと手を振って、再び頂きますみたいなパントマイム。


「あー、写真か。そうね、じゃ、一人ずつ、ミケと撮っておこうよ」


 珠美が一発で気付いて通訳してくれた。


「なんだ、写真か…」


 ミケが大きく頷くが、喋れ。


「じゃ、撮るよー、ハイ、チーズ!」


 詩織が一番手で、珠美がデジカメで撮る。肩を組んでくるミケにちょっとムカついたが、詩織は笑顔で楽しそう。

 そしてミケが俺の側に来て背中を押す。


「え? 俺はいいっての」


「いいから、撮っておきなさいよ。ミーちゃんは女の子だゾ! モテモテじゃん!」


 珠美が弾けるようなウインクで親指まで立ててくるが、わざとらしいんだよ。


「いやいや、コイツ、中身は男だって」


「もー、賢ちゃん、それ、営業妨害だから止めてね。子供も近くにいるんだし、みんなの夢を壊しちゃダメだよ」


 そう言われると、営業妨害はともかく確かに大人げなかった。ミケの隣に並ぶ。だから、俺に気軽に触んなと。


「ほらほら、じゃれてないで、賢ちゃん、笑顔笑顔、カメラ目線! 他の子も撮るんだから早くして」


「くそ、分かったよ」


 パチリ。


「はい、オッケー。じゃ、次アリス行く?」


「あ、うん」


「女の子が撮るのは分かるけど、男子が笑顔でツーショットってどうなのかしら」


 と聞こえよがしに言ってくる黒崎。


「沙希、最近はLGBTなど、マイノリティーへの配慮が求められる時代です。他人の趣味にあれこれ言わない方が賢明でしょう」


 と真面目くさった顔でいうセリア。


「ああ、なるほどねー、や、ごめんごめん、配慮が足りなかったわ、ぷぷっ」


「アホかお前ら、誰が着ぐるみを嗜好するかよ!」


 全員がツーショットを撮り終えたと思ったら、今度はクロと犬っころもやってきて、妙に着ぐるみが俺らに集中してくる。

 お前ら絶対、学生のバイトで、可愛い子目当てだろ? 

 ちゃんとその辺の子供の相手してやれと。


「やー、まさかキャラコンプできるとは思わなかったねー。なかなかムズいんだよ。アタシも十回くらいここ来てるけど、ダックス君は初めて見たわー。レアよ、レア!」


 珠美が言うが、オマエ、十回もよく来たな…。


「ああ、そうなんだ。ふふ、良かった。ミケちゃんも凄く可愛かったし」


 詩織が楽しそうだから良いんだけども。


「ミケもいいけど、アタシはクロが好きだぞ!」


 アリスが拳を握りしめて自分の好きなキャラを熱弁しているが、なんか不思議な感じだなぁ。


「じゃ、次はカンブリア号に乗ろう!」


 乗るという言葉に俺は不安を覚えたが、カンブリア号は遊覧船で、波も無い水路を回るだけだから、船酔いの心配は無いようだ。


「おー!」


 テンションが高いアリスは、今日はずっとこのままなのかもしれないが、心配だから目を離さないようにしておこう。

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