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魔皇神タルナファトス  作者: マチカネ


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第7章 再会

 慧とみどりが、本格的に再会を果たします。また、慧の髪型がポニーテールになっている理由も判明。

「ここはどこなんだろう……」

 辺りを見回しながら、とぼとぼ、慧は歩いていた。

 ここは一体、どこなのか? 闇の中なのか光の中なのか、昼なのか夜なのか、夢なのか現実なのか。もしかしたら、ここはそんなもの何の意味もなさない空間なのかもしれない。

 現在地を調べようとスマートフォンを探してみても見当たらず、東西南北さえも解らない。

 だから慧は前だけを向いて進むことにした。

 不思議なのは、かなり歩いたにもかかわらず、全然、疲れない。

 しばらく、歩いていたら、目の前に誰かがいるのが見えた。白銀色の髪の毛に黄金の瞳の幼い少女。

 周囲をを恐ろしい化け物に取り囲まれ、幼い少女は怯え、震え、泣いていた。

 取り囲む化け物の名前は傲慢、憤怒、嫉妬、色欲、強欲、嫉妬、怠惰、悪意、憎しみ、恐怖、劣情、憎悪、殺意など、ありとあらゆる負の感情。

 助けを求めている幼い少女。

 微塵も迷いも見せず、慧は駆け出す。

「泣かないで、今、助けるから」



 布団の中で、ゆっくり慧は目を開く。

「また、この夢か……」

 15年前から、何度も見た夢。あの幼い少女は、一体、誰なんだろうか。

 見知らぬようで、よく知っているような感じがする幼い少女。いつも助けようとする寸前で、目が覚めてしまう。

 今、何時かと時計を見てみる。

 時間によれば二度寝ができるか期待してみたが、そろそろ仕入れの時間。

 これは二度寝は諦めるしかない、長くなった髪の毛をかき分け、なごり惜しそうに、慧は布団から出た。




 マンションのみどりの部屋。廃校に巣食っていた怪物、その怪物から、助けてくれたのは慧。

「あの力はタルナファトスのものだ」

 クレアは断言。

「それでも、あの子は慧ちゃんよ、私の幼馴染みの男の子の」

 廃校で現れたのは慧。間違いない、自分が慧を見間違えないと、自信をもって言える。

 15年前に死んだはずの、それも当時の姿のままで。

 だからといって、幽霊には見えなかった。

 そもそも幽霊になった男の子が、ポニーテールにするもおかしい。

 みどりとクレアの間に沈黙が訪れる。

 みどりからすれば、幼なじみで、告白した相手の来栖慧。

 クレアからすれば、タルナファトスと同じ力を使う、正体不明の相手。

 すぐに、そんなことを話している場合ではないと、2人は思い直す。

「まずは、どうあれ、慧ちゃんを探してみましょう」

 このままでは、何の解決にもならない。今は慧を探すのが一番大事。

「同感、あいつはタルナファトスの力を持っているなら、ブーガとの関連があるかもしれない」


 見つけるのは苦労するかと思われたが、予想以上に、慧の所在は、あっさりと判明した。




 たこ焼きの屋台車。側面にたこ焼き屋『黄色いリボン』と書いてある。

 慧の前にあるのは、熱したたこ焼き用の鉄板。材料は特製出汁入りの生地、ゆでだこ、紅ショウガ、天かす、干しエビ。しっかりと質を見極めて、仕入れてきたものたち。

「一皿、貰えるかしら」

 はい、分かりましたと、鉄板の窪みに生地を流し込もうとした慧の手が止まった。

 そこに立っていたのはみどり。

「アーガトン。久しぶり」

 運転席にいるアーガトンにクレアは挨拶。

 軽くアーガトンは会釈。15年の月日が経っているため、髭や髪に白いものが混じっている。

「どうして、ここが分かったの」

 何を言っていいのか、何にも思い浮かんでこなかったので、尋ねてみることにした。

「黄色いリボンとポニーテールで、検索してみたら、この屋台がヒットしたのよ。この屋台、可愛い子が焼いていて、それで美味しいって。わりと評判よ」

 ここに来るまで、みどり自身、半信半疑だったのだが、ビンゴだった。

「たこ焼きは恵美ちゃんの好物だったものね。それに、そのリボン、恵美ちゃんのものでしょ」

 頷く慧。来栖医院の焼け跡でアーガトンが拾い、渡してくれた形見。

 その形見の黄色いリボンで髪型を恵美と同じポニーテールにしているのは、妹への哀悼の気持ち。

「場所を変えよう、みどりちゃん」




 移動先は安いビジネスホテル。


「「タルナファトスを吸収した!」」

 みどりとクレアが、声を揃えて驚くのも無理はない。

 タルナファトスの生贄にされ、逆に吸収して、暴れたときの記憶はおぼろげで、あいまいだが、今の慧の状態は、それ以外にあり得ない。

 タルナファトスを吸収した後、すぐにアーガトンに保護されたのは幸運。

 突然、途轍もない力を手に入れてしまった慧。それを制御するためにアーガトンから、過酷な特訓を受ける。

 長い長い時間を要したが、剛三の稽古も下地になっていたこともあり、今日にいたり、何とかタルナファトスの力を使いこなせるようになった。

 たこ焼きを摘まみながら、話を聞いていた一同。

 冷蔵庫にあったコーラを飲んで、一息ついたクレア。

「怒りや憎しみに支配されるな。一気にタルナファトスに飲み込まれてしまう。そしたら、あたしは容赦しないから」

 魔皇神タルナファトスは負の感情の神、怒りや憎しみは力の源。

 同じ言葉を師匠の剛三から、聞かされたことがある。

 もし慧が魔皇神タルナファトスに飲み込まれてしまったら、この世界の終わりを意味する。そうなったら、クレアは、それを阻止するため、全力で慧を倒す。

「あれから、歳も取らなくなった、どんな傷も簡単に治ってしまう。僕は人間じゃなくなってしまったんだね……」

 悲しそうな顔をする慧。

 スーッとアーガトンは慧の胸を指さす。

「前にも言った。ここが人間なら、お前は人間だ」

 その言葉は慧だけではなく、みどりにも勇気を与えた。

「そうよ、慧ちゃんは慧ちゃんよ。私が保証する」

 自信満々、堂々と言い放つ。

 みどり、アーガトン。双方の言葉は、とても嬉しい慧。

「みどりとアーガトンが、そこまで信じているなら、あたしも信じることが出来る」

 アーガトンは異世界では共に旅をして魔族と戦った相棒。付き合いは短いが、みどりは信頼できる人物と確信している。その2人が、ここまで信頼しているのなら、慧は信頼に値する人物。

「で、これから、どうするの?」

 尋ねるみどり。慧との再会は嬉しいこと。しかし、今の現状は、その喜びにいつまでも浸っていることを許してくれない。

「そうだな、ブーガのタルナファトス復活の野望は失敗したが……」

 クレアは腕を組む。廃校の怪物を見れば、まだブーガは諦めたとは思えない。

 このままブーガを野放しにはしておけば、慧の家族に起きたような、悲劇が繰り返されてしまう。

 テーブルの上に慧がガラスの青い小瓶を置く、中身は空。

「その瓶には、聖水(リベラシオン)が入っていたんだ」

 慧が小瓶の正体を話す。

聖水(リベラシオン)?」

 首を傾げるクレア。

「確か、フランス語で解放って意味よね」

 大学で少し、フランス語を齧ったみどり。

「これを服用すると、人間は怪物になってしまう。変異魔物、僕とアーガトンは、そう呼んでいる」

 慧に告げられ、驚きと言うより、衝撃がクレアとみどりを直撃。

「人を怪物に変えるなんて、もしかして、あの廃墟の怪物も、その聖水(リベラシオン)で……」

 みどりに頷く慧。廃校にいた怪物も同じ。

「そんなことやってやがったのか。魔族が壊滅したから、人間で補おってはらか、ブーガめ、相変わらず、嫌なことばかりを」

 じつに碌でもない計画、深暗城で逃がしたのが悔やまれる。

「あの目守町は実験の場所だった。廃校に一定の数の変異魔物を集め、数が揃ったら、どのぐらいで、町の住民を全滅できるか、変異魔物の力を図るための」

 慧からブーガの計画を聞かされた皆。この中で、唯一、ブーガと会ったことのないみどりも、ブーガの凶悪さが、しみじみと理解できる。




 アーガトンの特訓を終えた慧は、あの屋台車で資金を稼ぎながら、ブーガを追い、日本中を旅していた。そして目守町での計画の情報を掴み、駆けつけた。

 計画は阻止できたが、あの場所にはブーガは不在。

「まだ日本にいることは間違いないんだ」

 今までに慧がアーガトンと一緒に掴んだ情報を総合すると、ブーガが海外へ出たと言う形跡は無く、確実に日本に潜んでいる。

「隠れるのはうまいからな、あたしの世界でも、中々、尻尾は掴めなかった。そのくせ、悪だくみだけは、ちゃつかり実行しやがる、狡猾に」

 クレアの世界と同じように、この世界でも、ブーガは狡猾に悪だくみをやっている。

「手がかりは、この聖水(リベラシオン)なんだ。これを追っていけば、きっと、奴の尻尾を掴める」

 聖水(リベラシオン)の入っていた青い小瓶を慧は見つめる。これはブーガへ繋がる道しるべ。

「よし、解ったわ。私の方でも情報を探ってみる」

 テーブルの上の小瓶を摘み上げる。

「これ以上、みどりちゃんを巻き込むことなんて、出来ないよ」

 みどりを自分の家族の二の舞にしたくない。

「私は引き下がらないわよ。それにあの時の返事を聞かせてもらってないしね」

 たちまち、慧の顔は真っ赤かに染め上げられてしまい、何も言えなくなってしまう。

「あたしだって、許せないのよ。そのブーガって奴がね」




 怪物、その情報をみどりは探っていった。その手のハガキと手紙。怪しげな人物からの情報。なかには、あからさまにガセネタと分かるものも多かったが、子供のときから育て上げたミステリー好きの感性を働かせ、信じるに値する情報を吟味してゆく。


 慧、クレア、アーガトンも裏で情報を集める。

 みどりは収拾された情報を洗い重ねていく。

 やがて、一つの形が見えてきた。


 屠或組とあるぐみという名の暴力組織。最近、急速に勢力を伸ばしてきている。

 そして屠或組にはこんな噂がある。屠或組は鉄砲玉として、敵組織に化け物を送っていると。




 屠或組の事務所の前に来たみどりとクレア。

「みどり、さっさと乗り込もう」

 これから先は、探っても埒が明かないので、直接乗り込むことにした。

 頷いて同意を示したみどりはクレアと共に、事務所の正面玄関から、堂々と入る。

 中に入ると、絵にかいたような暴力面のおじさんたちが、みどりとクレアを睨み付ける。

「ここは女子供の来るところじゃねぇ、出て行け」

 有無を言わせずに恫喝。

「ここに聖水(リベラシオン)があるって、聞いてね」

 暴力面のおじさんの恫喝に、怯えを見せず、みどりは直撃砲をぶちかます。

「なんで、聖水(リベラシオン)を知ってんだ!」

 いかにも頭の悪そうな奴が口走り、ボロを出してしまった。

 聞かれてしまったからには、この後の展開は一つ。

「テメーら、生きて帰れると思うなよ!」

 たちまち、2人を取り囲む。

 みどりを守るようにクレアは立つ。

 殴りかかってくる暴力面のおじさんにカウンターパンチ。続けて、襲いかかってきた暴力面のおじさんの顔面にもパンチ。さらに飛びかかってきた相手を蹴っ飛ばす。

 3人がのされて、暴力面のおじさんたちはクレアが只者ではないと判断。

 幾人かの暴力面のおじさんたちが、見る見るうちに怪物に変化。どうやら聖水(リベラシオン)の服用者の中には、変身をコントロール出来るものもいるらしい。

 一斉に襲い掛かろうとした時、窓を突き破って、慧が飛び込んできた。両手に持った大型拳銃の【天空】と【大地】をクレアに投げ渡す。

 見事にキャッチ。

「これさえあれば、百人力」

 【天空】と【大地】を構える。

 怪物と暴力面のおじさんたちは【天空】と【大地】をおもちゃだと考えた。なんせ、見たこともない大型拳銃。それを軽々と投げたのは小柄な慧。それを受け取ったのは少女のクレア。

 舐めきって襲いかかってきたセイウチ怪物の拳を【天空】で払い【大地】で顔を殴りつける。

 【天空】と【大地】は効果によって、クレア本人には軽いが、他者にとっては見たままの重量がある、はっきり言って鈍器。そんなもので、殴られたのでは、たまらない、鼻血を撒き散らし、セイウチ怪物は昏倒。

 右から来た牛怪物を【天空】で殴り、左から襲ってきたガマ怪物の腹を【大地】で突く。

 振り返りざまに【大地】でとかげ怪物を殴りつけるクレア。

 怪物化していない暴力面のおじさんの1人が白鞘の刀を振り降ろしたが、【天空】と【大地】をクロスさせて、挟み込み、捻って刀身をへし折る。

 驚きで動きを止めた暴力面のおじさんの股間を蹴り上げる。




 一方、慧も腰に差していた木刀を抜き放ち、構える。

 力任せに殴りかかてきたカメレオン怪物の胴に一撃を入れ、上から襲いかかってきたコウモリ怪物を叩き落とし、返す木刀でドーベルマン怪物を薙ぐ。

 みどりの背後から襲いかかってきた蜘蛛怪物。咄嗟にみどりは伏せて、身を守る。

 急いで駆けつけ、蜘蛛怪物に面を叩き込む。



 終わってみれば慧たちの圧勝。

 残った暴力面のおじさんを慧、クレア、みどりで取り囲む。アーガトンも入ってきた。もしもの場合に備えて、外で待機していたのだが、出番の必要はなくて済む。

 完全に観念した残った暴力面のおじさん。

 このメンバーで、一番、迫力のあるアーガトンが、前に進み出る。

聖水(リベラシオン)はどこで手に入れた?」




 次回も怪物とのバトルになります。今回、アーガトンの戦闘には参加しませんでした。

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