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英雄と絶望

「なんなのよアンタら。離しなさいよ!」

 手足を拘束され身動きが取れない。

 周りには気味の悪い男が数人。

 琥珀とわかれた後、いきなり襲われここへ連れて来られた。

 どうやらここはどこかの倉庫のようだ。

「茉莉菜が悪いんだよ。僕を騙してたんだね。ほらここにいる男、みんな君に騙された男だよ」

 こいつは昼間の男。

 周りの男たちがこっちをにらみつけてくる。

「知らない!人違いなんじゃないの!」

「しらばっくれるな!」

 男の拳が私を直撃する。

「痛い!」

「いいざまだね。これからもっと痛くなるんだから覚悟してよね」

 そういってから今度は男の蹴りが腹を直撃する。

「おいおい、あんまり強くやりすぎんなよ。俺たちがヤる時にへばられたら困るんだよ」

「ハァハァ…フン!茉莉菜ァ。これからお前にたっぷりとお返ししてやるからな…やれ!まずは服を全部引き裂いてやれ!」

 男の掛け声で周りの男たちが一斉にこっちに向かってくる。

 息遣いが荒い。気持ち悪い。男たちの汚い手が体に触れる。

 怖いよ。助けてよ。


・・・琥珀。




 

「ハァハァ…ックソ!どこだよ茉莉菜!」

 茉莉菜を探し始めて1時間くらいたった。

 街中はすべて探した。友人や家族にも手当たり次第聞いて回った。

 でも、一切の情報は得られなかった。

「俺が、俺があの時止めていれば…」

 後悔の言葉が口からこぼれる。

 もし、これで茉莉菜に何かあれば…俺は…。

 そのときポケットに入れていた携帯が鳴った。

 茉莉菜か!?

 そう期待していたが、着信相手は違う相手だった。

「なんだよ涼太!」

『なんだよとはなんだよ!』

 電話の相手はこの前行った高校の説明会で仲良くなった隣町の学生だった。

 名前は安部涼太。家が大きな神社だか寺だかなんだか。

「悪りぃ。今ちょっと緊急事態なんだ。あとでじゃダメか?」

『そんなに焦って、何かあったのか?』

「あぁ、ちょっと人を探してんだ」

『なるほど、その人の特徴とかわかるか』

「あ、あぁ。でもそんなん聞いてどうすんだよ」

『いいから教えろって」

「お、おぅ」

 俺は涼太の勢いに押され茉莉菜の特徴を話した。

『よし、ちょっと待ってろ!』

 1分ほどまっただろうか。

『わかったぜ!そこから1キロ先の第2倉庫だ!』

「お前、どうして!?」

『いいから急げ!かなりやばそうだ!』

「マジか!わかった。サンキューな。こんど何か奢るからよ」

『おぅ!早く行け!』

「あぁ!」

 俺は携帯をポケットにしまうと、目的地へと向かって駆け出した。

「待ってろよ。茉莉菜!」


―ヒーロータイム―

 琥珀の目が金色に輝きだした。






「ここか」

 全力で走ってきた俺は2分足らずで倉庫へと到着した。

「茉莉菜…」

 俺は祈りをこめながら扉を全力で開いた。

 さび付いた金属が擦れる音と共に重い扉が開いた。

 そして・・・


「お前ら…なにやってんだよ?」

 目の前には絶望の光景が広がっていた。

 全身アザだらけで全裸になって横たわる茉莉菜。

 目からは止めどなく涙がながれていた。

「おぉ?なんだ君は昼に茉莉菜といたやつじゃないか。そうかそうか。君も騙されたんだな。ちょうどいいとこに来たな。こいつボコッて今大人しくなったとこなんだ。今からヤりはじめるから、君もどうだ?」

「こ・・・・は・・く・・」

 …俺は…俺は…

「殴ったのか茉莉菜を」

「あぁ、この通り。もしかしたら骨が折れてるかも」

 男たちが笑う。

「服もお前たちが」

「もちろんだ。こうすると抵抗力が落ちるだろ?にしてもいい体してるよなね。これが今から自由に使えるんだよ?」

 また男たちからの笑い。

「・・・・」

「?どうしたんだい?さぁ、君もこっちへおいでよ」

「・・・ろす」

「ん?なんだって?」



「お前ら全員殺してやる!茉莉菜をこんな目に合わせたやつは全員殺す!」



 全身から殺気が吹き出す。

 空気が重くなったのが自分でもわかる。

「な、なんだよ!君も騙されてたんだろ?強がんなよ!」

 男の声から震えが感じられた。

「お前らと一緒にしてんじゃねぇよ!俺は茉莉菜を助けに来たんだ」

「英雄にでもなったつもりかよ!」

「…だまれ!」

 俺は一瞬で男の懐へもぐりこむと、男の腹へと重い一撃をぶち込む。

英雄拳ヒーローブラスト

「グワァ!」

 男はそのまま吹き飛び壁へと激突した。

「よくも、よくもやってくれたな!みんなやっちゃえ!」

 周りのやつらが総動員で襲ってきた。

 が、

英雄波ヒーローストリーム

 一撃で全員が吹き飛んだ。

「まだだ!」

 俺は脳に血が上がり切っていた。

 目の前のやつらを叩きのめすのに必死だった。

 だから、背後からナイフを持って迫る男に気づかず。

「琥珀!」

 気づいた時には遅かった。

 刺される覚悟をした。 




 が、ナイフは俺には刺さらなかった。


「!」

 俺の目の前にはさっきまで倒れてたはずの茉莉菜が立っていた。

 一糸纏わぬその姿で。

 そして俺をかばい、その腹にナイフを食い込ませた。

「ははは!バカだこの女!」

 男がそれをみて高笑いする。

「…琥珀」

 茉莉菜が俺のもとへと倒れこむ。

 血が流れ続けていた。

「あ・・・え?ぁあ・・あああああああああああああああああああああ!」

 俺は絶叫した。

 もう何がなんだかわからなくなっていた。

 そして扉の向こうから新たに大量の群れが流れ込んできた。

「あぁ、やっときたんだね。ふふふ僕が呼んだんだ。ほんとは全員で茉莉菜をヤろうと思ってたんだけどね」

「よぉ、いい女が居るって言ったよな?」

「ごめん。僕の仲間が刺しちゃったみたい」

「おいおいマジかよ。俺はグループ全員つれてきちゃったよ」

「あはは、ごめんごめん。代わりに、そこにいる男、すきなだけボコっていいよ」

「あぁ?しゃーねぇ、女の代わりはつとまらねぇが、ストレスの発散だ。いくぜお前ら!」

 リーダーらしき男の掛け声で倉庫へ大量の男たちが流れ込んできた。

「僕らも!」

 反対側からはさっきまでのグループが。

 両サイドから大量の男たちが襲ってくる。

「少しだけ待っててくれ」

 俺はまだかろうじて息のある茉莉菜に軽く応急処置を施した後、そっと寝かせてやった。


「お前らは、絶対に許さない・・・一人残さず殺す!」

 俺の頭の中はそれでいっぱいだった。

 狂気が完全に脳を支配する。

「リミッター開放。―アンストッパブルヒーロータイム―」

 瞳の色が金から赤へと変わり、全身から黒く禍々しいオーラが吹出す。

「な、なんなんだよコイツ」

「俺は英雄ヒーローだ。だが、英雄は絶望したとき黒く染まり、魔王のように全てを破壊する」

 男たちの足が止まる。

「なに訳わかんねぇこといってんだ!構わねぇ!殺せ!」

 再び男たちが襲い掛かる。

絶望ディスペア英雄拳術。黒神こくしん!」

 辺りの空気全てを包み込み破壊する絶望の一撃。

『ぐわぁぁ!』

 激しい轟音と共に黒い暴風が巻き起こる。

「な、なんなんだよこいつ…ありえないだろ!こんなの…


 一瞬で倉庫が吹き飛ぶなんて!」

 


 そこには倉庫はなく、ただ黒い風が残っていた。

 周りには数え切れないほどの人間が横たわっていた。

 倒れている者は全て



 息絶えていた。



「いやだ、死にたくない…うわぁ!」

 今回の中心人物、昼間の男はかろうじて生き延びたようで、命からがら逃げようとしていた。

 だが、俺の黒い風がソレを完全に阻止する。

「ひぃ!」

 俺は、一歩、また一歩と男に近づいていく。

「頼む!助けてくれ!何でもする!お願いだから殺さないで!」

 男は涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら命乞いをした。

「茉莉菜が味わった苦しみは痛みは…こんなもんじゃない!お前の死でも…これっぽっちも釣り合わない!返せよ…茉莉菜を返せよ!」

「返せも何も…まだ生きてるじゃないか」

 男は俺が守っていた茉莉菜を指差していった。

「まだ、助かるかもしれないじゃないか?それに刺したのは僕じゃない!」

「なら、助けろよ…助けられんだろ?あぁ!」

「ひぃ!」

「お前だけは…絶対に絶対に絶対に殺す!」

 男の頭を鷲掴みにし、暴れる男へ容赦なく死へと誘う一撃を…

絶望ディスペア英雄拳術 奥義―



―英雄と絶望」


「いぎゃぁぁぁぁああああああ!」

 男は断末魔と共に完全に姿を消された。

 まるでそこには最初から何もなかったかのように。

 跡には黒い焦げ跡と琥珀の手に残った黒いあとだけだった。

「ハァ・・・」

 ―アンストッパブルヒーロータイム―を解除し茉莉菜の元へ駆け寄る。

 副作用で全身に激痛が走る。

「茉莉菜!」

 それでも体を引き摺って茉莉菜の元へ向かった。

 黒神の影響で空は鉛色に染まり、雨が降り始めていた。

「…茉莉菜」

 ようやく茉莉菜の元へたどり着いた俺は優しく茉莉菜を抱きかかえた。

 それから少し、やりとりをした後―


―茉莉菜は静かに息を引き取った。


 黒神をみた民間人から通報を受け警察が駆けつけたのは、それから程なくしてからだった。

お久しぶりです!

今回で過去の話は終了です。次回からは元の時代へと時間軸を戻します。

ちなみにラストのやりとりが気になる人は、1章の最終話をご覧ください。

これからも頑張って書いていこうと思います。応援、よろしくお願いします。

もしも、この作品を楽しんでいただいている方がいるなら、心より精一杯の感謝を。

井村

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