船への憧れ
泰矢たちが東周に向かって森の中を道なりに歩き続け二日が過ぎた頃、二人は国境に差し掛かった。しかしそこには国境と呼べるのか以前に目の前には何もなかった。
「楓架、国境沿いにきましたとか言ってたのに、それらしきものが何もないんだが」
「ちょっと泰矢さん、よく見てください」
楓架はそう言いながら、地面に人差し指を向けた。泰矢は指の先に目線をやると土を掘って、その隙間に丸太が一直線に並べられていた。それはまるで根のようだった。泰矢は目を見開いた。
「こ、これが、国境だと?」
「ね、ちゃんとあるでしょ」
「あるのはわかったが、ちゃんと機能してんのか」
「もちろん機能してませんよ。あるだけです」
楓架は当たり前のように言った。泰矢はそれにツッコんだ。
「いや、それでいいのかよ」
「はい。別に国の行き来は自由なので」
「それはそうだが、……まぁいいか」
泰矢は自分を納得させた。そして二人は国境を越え、東周に入った。それからしばらく歩き続けると草むらがガサガサと音を立てた。二人は立ち止まって、警戒していると出てきたのは猫だった。
「猫ちゃん」
楓架は思わずそう口走ってしまった。その声が聞こえたのか猫は二人に気づくと数秒硬直した後こちらに向かって座り、物欲しそうに見てきた。楓架はその表情にあてられ猫に近づき、「可愛いねー」と満面の笑みで言いながら愛でてたが、泰矢は不審そうな顔で猫を見つめていた。
(人懐っこい猫なのか?というか、何か見られて…)
猫がこちらに目をやると目と目があった。その瞬間、泰矢は異様なまでに背筋が凍った。
(ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい)
泰矢の手足は震え、呼吸は酷く乱れていた。泰矢は歯を食いしばり、なんとか平然を装うと足を動かし楓架の元に行くと楓架の腕を掴んだ。
「泰矢さん?」
楓架は突然のことに焦りも動揺もなく、ただ泰矢の行動についてこれなかった。
「行くぞ楓架」
泰矢は重々しい声で言いながら楓架を立たせ、無理にでも引っ張ってこの場を離れた。
「ちょ、ちょっとどうしたんですか?」
と楓架はその間、何度も聞いたが泰矢は黙ったままだった。それどころか泰矢と歩幅の合わない楓架は何度も転びそうになった。
数百メートル進んだところで泰矢は足を止めると後ろに振り返り、猫がいないことを確認するとしゃがみながら安堵のため息をついた。その様子に困惑していた楓架は心配になり、泰矢の背中をさすりながら言った。
「大丈夫ですか、泰矢さん」
「あぁ、大丈夫だ」
泰矢はそう言いながら立ち上がり、さっきより低い声で続けた。
「それより楓架、あの猫から何か感じたか?それともなんかされたか?」
「別に何もされてませんよ?」
「ならそれでいい」
泰矢は胸を撫で下ろした。そして二人は首都:東周へとまた歩き出し、その一日後にようやく着いた。楓架が手を街に向けて言う。
「ここが、首都:東周です!」
そこは首都:信宙とは違い、昔の日本、もっと詳しく言うならば江戸時代にタイムスリップしたような街並みが広がっていた。そのまま街を見て回っていると泰矢は違和感を覚えた。
「楓架ここ、猫多くないか」
瓦の上でじゃれ合う猫、路地裏の積荷で寝る猫、足を止めたせいなのか楓架に擦り寄って来る猫、あたりの生き物は人と猫ばっかりだった。猫を愛でながら楓架は言う。
「それはそうですよ。ここの街にはは人が七割いて、猫は三割いると言われてるほど猫がいるんですから」
泰矢は辺りを見回して、いやもっといるだろ、と思った。そして、その日は街を見て終わった。
ー翌日ー
二人は前回の戦いを踏まえ、地理を把握するためまだ見ていない場所そ探索していた。そんな二人は湾の近くに来ていた。
「あれは蒸気船か。でかいな」
泰矢は蒸気船をマジマジと見ていた。楓架は泰矢の顔を覗き込んだ。
「乗りたいんですか」
「あ、いや、そう言うわけじゃ」
泰矢は動揺した。楓架は泰矢の背中に手を合わした。
「泰矢さんも男の子なんですね。安心しました。…けれど、蒸気船は基本貨物しか運ばないし、乗る時のお金は高いんですよ。なので、乗るならあの帆船です。費用は蒸気船に比べればだいぶ安いのでおすすめですよ」
「だから違うからな」
そして、そんな調子で昼食、夕食を食べた二人は宿に来ていた。泰矢は受付の声をかき消すように言った。
「いらっしゃ…」
「二人で部屋は同室でお願いします」
「え、あ、はい、かしこまりました」
部屋に入った二人はベットに対面で座った。楓架は泰矢の様子が変なことを気にしていた。
「あの泰矢さんどうしたんですか。昼ごはんを食べた後から様子が変ですよ」
泰矢は重い口を開くように言った。
「楓架、落ち着いて聞いてくれ。俺らは今、つけられてる。それもかなりの人数にだ」
「つけられて…!?」
「だからいいか。多分、この後すぐ、俺らは別行動になる。俺はなんとかして多くの敵を引き付けるから、楓架はその隙にこの街から逃げてくれ。ただ、もし花火が上がったら船の方に集まって来てくれ」
「わ、わかりました」
「頼んだぞ」
その瞬間、ドアが蹴られて床に倒れた。




