12 カカポもできるもん!!
さて、「雲のケーキ」のあまりの美味しさに、カカポたちの食欲と「自分たちもやりたい欲」がもくもくと湧き上がってしまいました。
カイが達成感に浸りながら最後の一口を飲み込んだ、その時です。
「……おい、お前ら。何してんだ?」
カイが異変に気づいたときには、すでに手遅れでした。
十羽のカカポたちが、リーナのストックしていた卵のバスケットを囲み、まるで儀式のように円陣を組んでいたのです。
「ぐぽー!」「ぐぽぐぽ!」
気合十分な鳴き声と共に、一番体の大きなドンが卵を一つくわえ上げ、あろうことか、カイがさっきまで使っていた真鍮のボウルの縁に全力で叩きつけました。
――グシャッ。
「ああっ! バカ、加減しろよ!」
カイの叫びも虚しく、ボウルの中には白身と黄身、そして粉々になった大量の殻が、地獄のような惨状を描き出しました。
しかし、カカポたちは止まりません。
彼らにとってこれは「お手伝い」であり、「カイへの恩返し」なのです。
次々と卵が投げ込まれ、あるものはボウルの外へ飛び散り、あるものはほかのカカポの頭の上で弾けます。
「待って、みんな! ストーーーップ!」
リーナが慌てて駆け寄りましたが、興奮したカカポたちは「次は混ぜる番だ!」と言わんばかりに、さっきの重い泡立て器を数羽でくわえ、ボウルの中へ突っ込みました。
「うわっ!」
カイの頬に、ドロリとした生の白身が直撃します。
カカポたちが必死に泡立て器を振り回すと、殻混じりの卵液が、まるで噴水のように台所中に撒き散らされました。
「おい、こら! 殻が入ってるだろ! 混ぜる前に取れよ!」
カイは慌ててボウルを押さえようとしましたが、足元の生卵の滑りやすさを計算に入れていませんでした。
「うわぁっ!?」
派手な音を立てて尻餅をつくカイ。
その拍子に、棚にあった小麦粉の袋が衝撃で落下し、バフッという音と共に白い煙を上げました。
数秒後。
そこには、全身真っ白な粉まみれになった少年と、頭に卵の殻を被った十羽のカカポ。
そして呆然と立ち尽くすリーナの姿がありました。
静まり返る台所。
カイは自分の髪から滴る卵の感触に、一瞬だけ昔の自分を思い出しました。
「汚い」「不格好だ」「失敗した」。そんな言葉で自分を責めそうになった、その時。
「……ぷっ、ふふふっ!」
リーナがこらえきれずに吹き出しました。
「カイ、あなた……今、カカポよりカカポらしい顔をしてるわよ」
カイは鏡を見なくても自分がどれほど滑稽か分かりました。
鼻の頭に白い粉がつき、眉毛には卵の白身。
そして足元では、失敗したはずのカカポたちが「どうだ、手伝ったぞ!」と言わんばかりに、胸を張ってカイを見上げているのです。
「……笑うなよ。お前らのせいだぞ!」
カイは怒鳴ろうとしましたが、口から出たのは笑い声でした。
「ははは! なんだよこれ、めちゃくちゃじゃん!」
屋敷では一度も許されなかった「失敗」。
でも、ここではそれが「賑やかな騒動」として笑い飛ばされる。
カイの心の中にあった、冷たくて硬い塊が、この馬鹿げた騒動の中で少しずつ溶けていくのを感じていました。
「さて、笑った後はお掃除ね」
リーナは、笑いながらも厳しい顔をして、カイに雑巾を渡しました。
「カイ、あなたが指揮をとって。カカポたちと一緒に、ここをピカピカにするの。
できたら……もう一度、今度は殻を入れないように、一緒にケーキを焼きましょう」
「……ちぇっ、人使いが荒いなぁ」
文句を言いながらも、カイの足取りは軽やかでした。
彼は雑巾を振りかざし、まだ興奮して跳ね回るカカポたちを追いかけ回します。
「こら! そっちに行くな、卵を踏むな! 整列しろって言ってるだろ、お前ら!」
カカポの森の小さな家から、賑やかな怒鳴り声と笑い声が、夕闇の迫る森へと響き渡っていきました。




