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4:どんぐりの背比べ

「なぜ征服皇が!?」

「国を出たなどという報告は聞いていないぞ!」


「大聖女様に聖女様。申し訳ないのですがしばらくお待ちください」


「え?………あぁ。行ってしまいました」


案内の人たちなど、周囲の人が一気に消える。

護衛などもいたはずだというのに一緒にいなくなってしまったんだから驚きだよね。護衛としてどうかと思う動きだよ。

事情を聴くことのできる人もいないし、仕方がないので騒ぎの原因となっている外に視線を移して観察だけさせてもらう。


征服皇。結ちゃんのヒーローはそんな名前で呼ばれている存在らしい。

テンションは高いしあまり正義の味方っぽくもないけど、結ちゃんはもしかするとちょっと悪い感じの人のほうが好きなのもかもね。

好みなんて人それぞれで私が何か言えるわけもないし、特に言及はしないよ………と、考えていたんだけど、


「加藤さん。あの人って好みですか?」


「いえ。私の好みではありません。物語の展開としては私があの人とくっつく団野さんに嫉妬するなどありそうですが、そういうことにはならにだろうと思えるくらいにはタイプとはかけ離れていますよ」


団野ちゃんから踏み込んできた。

驚きだけど、心配させないように否定はしっかりとして置いた。ここで下手なことを言ってヒーローとくっ付くことを遠慮されてしまっても困るからね。


ただ、そうした私の気遣いは的外れのものだったようで、


「実は私の好みでもないんです」


「え?………しかし、どう考えても展開からするとあれがくっつく相手な気がするんですが」


「ですよね」


2人でもう一度その征服皇なる人を見てみる。

その存在感と整った顔、そしてあふれ出るちょい悪感はやはりどう考えても主要キャラのもの、結ちゃんのくっつく相手と考えて相違ないはず。


しかし、私の好みとも結ちゃんの好みとも違う。

そう考えると、


「くっつく相手は別にいて、それを邪魔してくる相手が彼ということでしょうか?」


「なるほど。そういう話もなくはないですか」


本命は別にいるのに、主人公は自分とくっつきたいはずだと考えて邪魔をしてくる権力者ポジ。そういったキャラクターが出てくる作品も存在はする。

そのパターンであればお互いの好みでないことも不思議だとは言い切れなかった。


「そうなると展開としては、私も団野さんが恋する相手に惚れてしまう形でしょうか?そして、団野さんは私と奪い合いをしつつあの征服皇や彼に惚れている者たちからの邪魔や嫌がらせを潜り抜けていかなければならない、と。原作展開はなかなか地獄みたいなものになりそうですね」


「うわぁ…………本気で勘弁してほしいです」


今までで1番の表情の変化が見れた気がする。

その顔にはあまりにもわかりやすく、絶対に勘弁願いたいという気持ちが表れていた、正直、結ちゃんには同情しちゃうね。

ただ、もし結ちゃんの本当のヒーローが私の好みドンピシャの清潔感あり高身長クールロン毛だったら心が揺れてしまう気はするけどね。心の底からそうでなくあってほしいよ。


なんて未来をお互い思って複雑な心境をしていると、


「ん?そこにいる2人が異世界から召喚されたという者たちか?自分から姿を見せようというのは殊勝な心掛けだな」


私たちを補足したということらしい言葉。

視線を向けてみれば、征服皇ががっつりこちらを見ていた。当然、私が視線を向ければ目が合うことになってしまう。

視線が交われば向こうはにやりと笑みを深めて、こちらを品定めするような目つきをし始めた。


いやな目だね。あまりいい心地はしないよ。


「見つかってしまったようですね。これは逃げるのもなかなか難しそうです」


「国の人が逃がしてくれるといいのですが」


面倒くさいことになってしまった。

今のところまだその程度の認識。


しかし即座にそんな認識は壁とともに粉々に破壊されることとなり、


「よし!制圧しろ!この国に2人もいるなんてもったいない。いっそのこと両者とも我が物とするぞ!」


征服皇とその配下が一気に建物の中まで侵入してきてしまった。

当然のように壁は破壊されて遠回り道などしないとばかりに進んでくるし、こちらを守ろうとする兵士は1秒も持たずにすれ違いざまに倒されていく、


「わぁ。強いですね。みるみる制圧されていきますよ」


「いや。感心している場合ではないと思うのですが」


私が素直にその戦力の高さに驚いていると、結ちゃんからツッコミを入れられてしまう。

確かに今の状況はかなりひっ迫したものになっているからね。もう少し焦るべきところなのかもしれない。

ただ、


「団野さん。どうしますか?」


「ど、どうというのは?」


「ここから逃げますか?それとも向こうの国につかまってみますか?原作のことを考えればここで捕まってもそこまで悪いことにはならないと思うのですが」


「これを見てそんな気にはなれなかったですね。加藤さんとは感覚がかけ離れているのかもしれません。私はとてつもなく逃げたいですよ。あんなのの相手なんてしたくありません」


「なるほど………では、逃げましょうか。掴まっていてください」


「え?」


私は結ちゃんをひょいと持ち上げ、いわゆるお姫様抱っこという状態にする。

そしてそのまま飛び上がり、小さく開いている壁の穴に滑り込んで脱出させてもらった。


「お、おい!飛び降りたぞ!」

「追え!逃がすな!!」

「あの高さから飛び降りたんだ!そう遠くへは行けまい!命を落とす前に何としてでも捕らえろ!!」


私たちを召喚した国との戦力差は確かに存在した。

でも、正直なことを言えば私がこれまで習得して来た技術を組み合わせて出せる馬力のほうがよほど高い。負けようがない。そう確信していたからこその余裕と、逃亡という選択肢。


「さてさて。どこに行きましょうか。地図くらいもらって来ればよかったですね」

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