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ルチアーノと黒幕①

 



 転移魔法でマルティーナを建物内に飛ばし、更にアルジャンを会場に転がる隊員の回収に回っていた第四部隊に預けた。現在進行形で怪物の相手をするルチアーノは難なく攻撃を躱しながらラウゼスの隣に降り立った。



「少しは安心したか」

「何がだ」

「アルジャンを第四部隊に預けた。いつも傲慢な第一、第二部隊に辟易はしているだろうが人命を最優先に掲げる部隊ならお前も安心だろうなって」

「……」



 此処にマルティーナがいたら怯えて泣き出す凶悪面を浮かべているラウゼスには苦笑するしかない。マルティーナには悪いが本人は真剣に悩んでいる時の顔なのだ。



「これが終わったら久しぶりにサテライト公爵に会うか? シルヴァンやアルジャンの独断と言えど、あのじじいも一枚噛んでいる気がしてならねえ」

「隊員の放置についてか」

「ああ」



 年に一度の演習を優先したとは言え、体内に瘴気を残したままでは少量であっても全身に回れば命を落とすか、今回のような怪物へと成れ果ててしまう。傲慢で高圧的ではあるが部下の声に一切耳を傾けない性分なのか判断が難しい。背後に他人を人とも思わないサテライト公爵の存在があるなら、不安がる隊員を一蹴し治療を後回しにした場合が考えられる。



「どれもおれの予想だ。真に受けるなよ」

「誰が受けるか。……と言いたいところだが限りなく黒に近い。あの男ならやりかねん」

「……」



 先代の神官長の相談を受け、サテライト公爵に洗脳され搾取される前にラウゼスを先代と共に保護しているルチアーノは、サテライト公爵がどのような男かよく知っている。口ではどうとでも言いながら、本心ではあの兄妹の背後にサテライト公爵がいるのは明白。事態の責任を間違いなくシルヴァンやアルジャンに押し付けるだろうと零せばラウゼスが「アルジャン一人に押し付ける気だろう」と否定した。



「シルヴァンはサテライト家の正統な後継者。後継者にケチをつけたくないあの男のことだ、アルジャンを生贄にし、シルヴァンの汚名を回避する」

「なんだよ、やっぱりお前アルジャンのことを気にしてんな」



 眉間に寄っていた皺の濃さが増した。心配しつつ、人を揶揄うのを忘れない性悪に苛立とうと相手の思う壺。奇声を発した怪物の放った黒い魔力破が会場全体を無規則に駆け回る。黒い稲妻が意思を持って走っていて神聖力を持つ二人を重点的に狙う。



「ラナルドは陛下を外へ出してくれただろうか」

「さて。あの野郎変に頭が固い。さっきも事態の収拾がつくまで残るとか言いやがって……ラナルドがどうにか説得してくれたらいいものを」


「無理ですよ」



 お喋りをしながら意識だけは怪物が放った黒い稲妻に向け、会場中を走る稲妻を一か所に収束し、神聖力の浄化能力によって光の粒子に還した。また奇声を発する怪物に舌打ちをすれば、話題に挙げたラナルドが後ろに降り立った。



「貴方の言った通り、陛下は一度こうと決めたら考えを曲げません」

「お陰様でおれもマルティーナも大迷惑なんだがな」

「まあ、その頑固なところが利点になる時もあります」

「へえ、どん——」



 どんな時だ? 問い掛けたルチアーノはすぐに口を閉ざした。異変にすぐさま気付いた二人に問われ、一つ察したラナルドの「マルティーナ様に何か?」言葉を受けるとまた舌打ちをした。

「やっぱり一人にさせるんじゃなかった」と言った直後、地を蹴って大きく跳躍したルチアーノを狙って奇声を発する怪物が今度は巨大な黒い塊を出現。迷いなくルチアーノへ放たれた。



「『うざってえ』」



 多量の神聖力を込めた言霊は、一見ただの愚痴にしか聞こえなかった。

 が——怪物の足下を目を覆いたくなる眩しい光の陣が即座に展開。途端苦しみ、藻掻く怪物の雄叫びが空気や地面を震わせた。瘴気を纏った人間が怪物になると神聖力は猛毒に等しい。怪物は今全身に猛毒を注入されている状態となって強烈な苦しみを味わっている。最後の足掻きか、上空に佇むルチアーノ目掛けて黒い塊を溜めだした。歪に口端を吊り上げたルチアーノが耳慣れない言語を発した瞬間、強大な光が怪物を包み込み——爆発した。

「まだ会場には倒れている隊員や回収に回っている隊員がいるんだぞ!!?」と下からラウゼスの怒声が響いてもルチアーノはお構いなし。遠くから感じるマルティーナの怯えが格段に強くなった刹那、ルチアーノのいた場所にマルティーナが出現。


「絶叫系アトラクションじゃないんだからー!!」と叫びながら落下するマルティーナをこうなることを見越して先回りしていたラナルドが受け止めた。動こうとしたのを「少しそのままに」と止め、別の怪物が一挙に押し寄せるのを見てやれやれと笑んだ。



「狙いをマルティーナ様へ一点集中させてきましたか」



 場所が入れ替わる仕掛けが発動した=黒幕がマルティーナに接触したことを意味する。遠くにいても愛娘の気配を感知するルチアーノの機嫌が急に悪くなった原因に合点がいった。



「こ、公爵、これってあの」

「ああ、まだそのままジッとしててください」



 また、動こうとしたのを止め、マルティーナを片手で抱いたまま迫る三体を纏めて強風で観客席へ吹き飛ばした。観客席が破壊されようと後から修復すればいいと考えるラナルドは、腕の中で驚くマルティーナを気にしない。




読んでいただきありがとうございます。



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