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その予感は当たった②

 



 円形に広がる巨大な観客席に包まれるのは、芝生に満ちた緑豊かな会場。屋敷何個分の広さだろうと呑気な考えを持っているとお父様に抱っこをされながら中央へ進んでいく。目を凝らしてよく見れば、王国騎士団の全部隊が集結しており、皆入場した私達を凝視していた。

 うわ……当たり前の話だけど第三部隊の人もいる。私やお父様、公爵をすごい目で見てくる。



「数が揃えば圧巻だな。数だけで言えばな」

「実力を伴っているのは第三部隊を除いた各部隊。ルチアーノ様の言うこともまま分かりますよ」



 口にしている言葉が若干酷い気がするも強ち間違ってはいない。行き場のない令息達を押し込める第三部隊は飽和状態になっており、希望者や各部隊長が引き抜きたい人材がいれば異動が叶うものの、殆どは家柄と容姿しか取り柄がないせいで第三部隊に留まってしまっている。



「騎士長閣下」



 漸く各部隊の前へ辿り着くと銀の刺繍が入った騎士服を身に纏った男の人が公爵の前に出た。髪の色や瞳も銀色だが肌が褐色な為とても目立ってる。男の人の隣に女性が立った。彼女も銀髪に銀の瞳を持っているが肌は白い。

 顔立ちは似ており、さっきお父様達が言っていた第一・第二部隊の隊長であるのは違いない。違いないけど、何故か公爵を見る瞳が鋭い。



「ルチアーノ卿とご息女が同伴している理由をお教え願いますか」

「おや、言ってませんでしたか。ルチアーノ様とマルティーナ様は見学ですよ。ぼくが騎士団の演習があるとマルティーナ様に話したら、いたく興味をお持ちになられた。ルチアーノ様の同行を条件に来ていただいたに過ぎません」

「本来、騎士団の演習を見られるのは王族関係者のみ。如何にルチアーノ卿の娘と言えど」

「あのですね、シルヴァン殿」



 王族関係者って……お父様は二百年前の王女を母に持つ王族。第一部隊の隊長の言葉で言うとお父様は十分王族関係者な気がする。途中で言葉を遮った公爵は私が思ったことをそのまま言葉にして伝えてくれた。険しさが増す第一部隊の隊長。正直言って怖い。隣の第二部隊の隊長も。こっちは美人な分余計に迫力がある。



「陛下にも許可は頂いています。それとも何ですか、陛下が許可していても貴方方は納得しないと?」

「……陛下の耳に入っているなら、部外者の見学を認めましょう」

「貴方が認めるのではなく、認めるのはぼくや陛下ですよ」

「っ」



 分かりやすい揶揄いに第一部隊の隊長は顔を思い切り歪めた。隣も然り。サテライト公爵家が騎士団長の地位を欲しているのは、間違いじゃないみたい。



「時にシルヴァン殿、アルジャン殿。会場へ向かう途中、ある報告を受けました」



 それって……。



「遠征より戻った貴方方第一、第二部隊の隊士数名が瘴気をまだ体内に残したままであると。これはどういうことですかな」



 会場中に緊張が走った。少量でも体内に留まった瘴気は全身の細胞を取り込み、生物を怪物へと変貌させるか、最悪死に至らしめる。



「演習を始める前に、まず件の隊士は速やかに大聖堂へ行ってラウゼスに瘴気を浄化してもらうように」

「いいえ、必要ありません」



 きっぱりと断ったのは妹の方。毎回第一やら第二やらの部隊長って付けるの長くて面倒。



「我々で様子を見ておりましたが肉体や精神に影響はありません。彼等を神官長に見せるのは、演習が終わった後でも遅くはありません」

「これは騎士団長命令です。速やかに隊士を送りなさい」



 淡々とした声色ではあるが言葉の一つ一つに力があり、聞いているだけなのに背筋がぞわぞわする。お父様に抱き付くと背中を優しく撫でられた。



「シルヴァン様、アルジャン様、騎士長閣下の言う通り速やかに神官長に見せるべきです」



 緊迫した空気が漂い始めると第四部隊の隊長エマさんが前に出て進言した。地位や家柄共にサテライト公爵家の兄妹が上だろうが誰かが口を出さないと空気は変わらない。


 しかし。



「格下の分際で口を出さないでちょうだい」

「っ」

「後方支援しか出来ない第四部隊と違って、わたくし達第一・第二部隊は常に最前線で戦っている。命の危険が少ない安全な場所にしかいられない部隊長風情が意見しないでよ」



 あんまりな言い方!

 口を噛み締め、押し黙ってしまったエマさん。美人なだけで性格最悪女!


 ……って心の中で言ったつもりがしっかりと口に出してしまっていたみたいで。お父様は噴き出し、モーティマー公爵はおやおやと微笑を浮かべ。妹の方は額に青筋を立て引き攣った顔で私を見ていた。やば、と焦るもお父様に頭を撫でられて落ち着く。



「そう言ってやるな、マルティーナ。世の中には、顔と身体だけが良ければ中身なんて気にしない男だっている」



「な?」とお父様が片目を閉じて見せたのは兄の後ろに控えている男性。青緑の髪を刈り上げた強面で何を考えているか分からなそうな人。ただ、肩をプルプルと震わせ顔を赤くしている辺り、彼が妹の婚約者である兄の副隊長なんだろう。



「ル、ルチアーノ卿の娘だからと言って不敬です!!」

「おれの娘は素直で良い子でな。お前みたいな性悪女とは相性が悪いんだよ」

「わたくしを侮辱した件はしっかりとお父様に報告させて頂きます!!」

「しろよ。お前等兄妹、何なら第一・第二部隊合わさっておれに挑んでも負けるくせに口だけは一丁前だな」

「なっ!!」



 王国でお父様以上に強い人がいないのは知っているけれど、戦っている姿ってあんまり見たことない。分かりやすい挑発を受けた妹が動き出そうとした直後、兄が腕を掴んで止めた。



「アルジャン、ルチアーノ卿の挑発に乗るな。少し冷静になれ」

「しかしっ!」

「ルチアーノ卿、騎士長閣下。私から一つ提案を」



 提案って何。すごく碌でもない気がする。



「ルチアーノ卿は、両部隊が合わさっても貴方に勝てないと言いましたね」

「なんだよ、演習そっちのけにおれと戦おうってか」

「ええ、その通りです」



 やっぱり……!


 途端ざわつく場内。エマさんが声を上げ掛けたのをモーティマー公爵が止めた。



「シルヴァン殿。勝手な真似をされるのは困ります」

「ルチアーノ卿が負ける姿を見たくありませんか?」

「さあ。この人が負けるところなんてぼくは見たことがありません。貴方達では経験が足りない。私闘は認めません」



 気に喰わない相手だろうと、認めていなかろうと騎士団の全権限を持つのは騎士団長たるモーティマー公爵ただ一人。睨みを強くした兄は、公爵では話にならないとお父様に視線を変えた。



「ルチアーノ卿。貴方はどうだ」

「やりたきゃ勝手にやれ。力加減を間違って殺しても文句言うなよ」



 お父様の方もしっかりとやる気満々じゃん。やれやれ、と困ったように笑うだけで大して困ってなさそうな公爵は、演習が終わった後にお父様と第一・第二部隊の私闘を認めた。

「騎士長閣下っ、それは」と困惑するクリフォードさんや自分の発言が事を大きくしてしまい顔を青褪めるエマさん。そんなエマさんを左隣にいたおかっぱ頭の男の子がエマさんの背中を擦っている。



「大丈夫?」

「あ……ありがとう……。私の不用意な発言のせいで……」

「第四部隊の確かな後方支援があるからこそ、最前線で戦えるというのを欠如してしまっている。ルチアーノ卿にボコられてちょっとは頭を冷やしてもらったらいいんだ」



 その通りと同意したいのに、彼が誰か分からない。順番的に第五部隊の隊長かな。最前列に立っている人が各部隊の隊長だとは、来る途中公爵に教わっている。見た感じ未成年っぽいけど、実際はどうなのだろう。 



「シルヴァン殿、アルジャン殿。ルチアーノ様との私闘は、演習後にて決定を——」


「いや!! その勝負、今すぐ見せてもらおう!!」



 遠くから聞こえた大きな声は、ものすごく聞き覚えがある。全員の視線がある方向に向いた。恐らく貴賓席と言われる位置に王太子殿下が立っていて。その隣には遠くからでは詳細な色までは分からないけれど、青っぽい黒髪と瞳の女性がいた。



「お父様あれって……」

王太子(バカ)王太子(バカ)の婚約者のミッドナイト公爵令嬢だ」

「あれが……」



 遠目だとよく分からないが王太子殿下が声を張り上げたせいで若干顔色が悪い気がする。会場の戸惑いを感じているのか、いないのか、王太子殿下は引き続き声を張り上げた。



「ルチアーノ卿と第一・第二部隊の私闘今すぐに行うべきだ!!」

「王太子殿下」



 私の時と同じやれやれ顔なのに、発せられる声色と纏う雰囲気の呆れの濃度が桁違いに違う。口の前に小さな魔法陣を浮かせた状態で公爵が喋ると声が大きく拡散された。前世で言うマイク代わりだろう。



「此度は年に一度の騎士団演習の日。如何なる理由があろうと演習を蔑ろにしてまで行う行事は一切ありません」

「蔑ろにしろとは言っていない! ルチアーノ卿達の私闘の後で例年通りの演習をすればいい!!」



 それを蔑ろにしてると言うのでは?



「モーティマー公爵! 私はこれをまたとない絶好の機会だと見ている!」

「と、言うと?」

「第一・第二部隊がルチアーノ卿に勝利すれば、王国騎士団の名声は確固たる地位を築ける。大陸最高峰と言われるルチアーノ卿を倒せる猛者がいるとな!」



「ですって」と公爵は面倒くさそうに演説を聞いているお父様に振った。欠伸をしてる。心の底から面倒くさそう。



「おれぁ何時でも構わねえ。お前が決めろ、ラナルド」

「ふむ」



 伝統を守りたい公爵としては私闘を後回しにしたい筈。私が声を上げていいものかと思案していれば、エマさんを慰めていたおかっぱ頭の男の子が発言の許可を求めた。公爵が許すと私闘が先でも構わないと述べた。



「アルジャン様のさっきの発言、第五部隊の隊長である僕としても看過出来ません。治療、守護、祝福の付加といった第四部隊の後方支援があってこそ全力を出せる環境を整えてもらっているというのに、自分達の力だけで何でも出来ていると思い上がる脳味噌をルチアーノ卿にどうにかしてもらいたいです」

「アコル!! 子爵家出身の分際でサテライト公爵家の長女たるわたくしに無礼よ!!」

「はいはい。そういうのは、ルチアーノ卿に勝ってから言ってくださいよ」



 子爵家出身なんだ……格上の相手でも怯えず物申せる度胸を見習いたい。第五部隊は隠密活動を主としている。ぱっと見地味な容姿だが、隠密活動が中心なら派手な姿だと目立っちゃうか。



「ルチアーノ卿が負けるとは俺も思えません。ましてや、愛娘の前ですよ」と朗らかに言ってのけたのは黄土色の髪を雑に切り揃えた平凡な顔立ちの男性。第五部隊隊長アコルさんの左隣ということは、あの人が平民出身者や下位貴族で編成された第六部隊の隊長かな?

「俺にも二歳になる娘がいるから、娘の前で格好悪い姿なんて見せられない」

「お前に似ず、母親に似て美人だったな」

「俺に似なくて良かったですよ。マルティーナ様はルチアーノ卿に瓜二つ過ぎて母君の要素が全く感じられませんね」

「ほっとけ」



 歳を重ねるにつれ私はどんどんお父様に似ていく。お父様を女性にしたら私になるんじゃ? って皆思うくらいに。



「この空気だと私闘を先に行わざるを得ませんね」



 誰も後回しを望んでおらず、何なら第一・第二部隊の敗北する姿を見たがっている。私もだけどね。



「仕方ありません。ルチアーノ様、先に私闘でよろしいですか」

「ああ」



 お父様としては先の方が嬉しいよね。ふと、視線を感じて其方に向けば王太子殿下と目が合った。気がした。



「マルティーナ嬢! ルチアーノ卿が両部隊に敗れれば、君には再びヴィクターの婚約者になってもらうからな!」

「はい!?」



 どうしてお父様が負けたらあの王子殿下と再婚約の話が出るの!? まだサテライト公爵家の誰かと婚約とかなら分かるけど! 分かってもしたくないけど!

 そうえいば私と王子殿下の婚約が白紙になったのは周知されていないので、初めて耳にした公爵以外の面々は驚き、どよめきが起きていた。



「ヴィクター殿下との婚約が……」

「……なら、丁度いい。両部隊が勝てば、ルチアーノ卿の娘は我がサテライト公爵家がもらい受ける」



 なんでそうなるの!? 王太子殿下の発言を華麗にスルーしてるけど、サテライト公爵家に嫁入りするのも絶対嫌!



「お、お父様……」



 好き勝手言われて若干涙目になれば、私を抱く腕を強め、背中をポンポン撫でられる。



「黙って聞いてれば好き勝手言いやがって。誰がお前等みたいなクソ野郎共におれの可愛いマルティーナを渡すか。そもそも、負けるわけねえんだよ」



 まだまだ魔力操作も魔法の扱いも下手な私でも、地面に罅が走り、空気が揺れるのはお父様の力の影響だと分かる。……さっきまで威勢の良かった第一・第二部隊の人達、部隊長以外顔が真っ青……。空気になってた第三部隊なんて腰抜かしてるもん……。



 


読んでいただきありがとうございます。



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― 新着の感想 ―
いつも、めっちゃ楽しく読ませていただいています! 【感想という名の今後の希望www】 あくまでも「私闘」ですから、第四他の部隊からの【支援・治癒】は終わっても施す理由は無いですよね。あくまでも「私闘」…
やっちまって下さい!
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