その予感は当たった①
瘴気は少量でも体内に留まると全身の細胞を取り込み、怪物へ変貌させるか死に至らせるかのどちらかとなる。それには長い年月が要るとお父様は言うけれど、そうなる前に瘴気の除去を試みた方が絶対に良い。クリフォードさんとも別れ、私とお父様、それに公爵の三人になると移動を再開した。私はお父様に抱っこをされたままです。
「演習のメインは、やっぱり第一や第二部隊になるの?」
「毎年そうだ。やって意味あんのかよ」とは、公爵に向けられた言葉。騎士団で一番偉い人に聞かなくても……。
「所謂、モチベーションの維持ですよ」
「モチベーション?」
「実力、家柄共に揃った強者は第一、第二部隊にほぼ入隊し、魔法やその他の能力が秀でている者は第一から第三を除いた部隊にそれぞれ入隊します」
表立って派手な振る舞いをする第一と第二を見させることで平民に王国の安全を知ってもらい、貴族には騎士団への期待をより高くさせ多額の寄付をさせるのが目的なのだとか。見目が良い上に実力がある集団となると今後への期待を込めて課金したくなるよね……オタクの友人がいたせいか、推しに課金したくなる気持ちは私にも分かってしまう。
「ただ、厄介なのが第一と第二は、第三部隊と違って実力も兼ね備えた精鋭部隊。ぼくを肩書だけの騎士団長と思っているようで素直に言う事を聞いてくれないのが難点です」
「それ、それです。モーティマー公爵は強い人だから騎士団長に任命されたのにどうして?」
「モーティマー公爵家は、代々騎士団長を務めています。当主になる者にも、当然彼等を纏めるに値する実力が要ります」
但し、先代……公爵の父君が問題だった。実力は申し分ないのに、如何せん愛人に夢中で職務を放ってしまうことが多々発生。挙句、実の息子が誘拐された時も愛人とベッドを共にしていて碌に捜索をせず、最後は愛人と共に事故死を迎えた。モーティマー家への不信が騎士団内に膨れ上がっている時に公爵が十八歳で騎士団長を拝命。実力を示しても、先代が駄目駄目過ぎて容易に認めてもらえなかった。
「現に公爵が騎士団長に就いているなら、認めているんじゃ……」
「ええ。実力を示せと第一、第二部隊を一人で相手取りました。ぼくが勝ってもルチアーノ様の恩恵があるせいだと納得していただいておりません」
「ええ……」
両部隊を合わせると四十人は超え、一人で倒したのにお父様の手が貸したと思われるのはいくら何でも無理があり過ぎる。お父様に振れば「おれは見学しかしてねえっての」って反論された。お父様の側には当時から第七部隊の隊長を務めるクリフォードさんがいて、モーティマー公爵に一切手を貸していないのは証明しているのだが、頑なに認めなかったとか。背景にあるのは騎士団長の座をモーティマー家から、長年第一・第二部隊の隊長を務める貴族家が欲しているせい。
「サテライト公爵家。という名をマルティーナ様聞いたことは?」
「初めて聞きました」
「教えてねえし、今後も他家の貴族家を教える気は更々ない」
私としてもあんまり知りたいっていう欲求がない。魔導研究所絡みならちょっとは知りたいかもだけど。
「騎士団に最も多額の寄付をしてくださり、設立当初から第一・第二部隊の隊長を務めています。現部隊長達もサテライト公爵家の出身者です」
第一は兄が、第二は驚くことに妹が部隊長を務めている。第四部隊は医療や後方支援をメインとしていることもあって女性が部隊長を務めていると聞いても納得感がある。騎士団の精鋭である部隊長を女性が務めているのは意外過ぎた。
「サテライトは第一の方が当主になるんだったな」
「ええ。妹君は、彼の右腕たる副隊長と婚約しております。半年後には、結婚式を挙げる予定かと」
「へえ。あの脳筋女がね」
お父様、お口悪い。
脳味噌が筋肉で出来ている人ってあまり言いたくないけどお近づきになりたくない……。基本力技でどうにかしようとしてきて苦手。
お父様に抱き付くと「うん?」と怪訝な声が漏れた。
「どうした」
「怖い人だったら嫌だなって」
「どうだかね。おれがいる限り、お前にちょっかいを掛けられる奴はいない。いたとしてもおれが遊んで終わりだ」
「うん……」
「嫌になったら、途中で帰ればいいさ」
騎士団の演習を見たいと頷いたのは私だ。モーティマー公爵が騎士団長として振る舞う場面を見る貴重な時間。叶うなら最後までいたい。
モーティマー公爵家が代々騎士団長の座に就くなら、ひょっとして……。
「ジョーリィ様もいつか公爵のように騎士団長の座に就きますか?」
私がふと気になったことを投げれば、淡々とした笑みで肯定とも否定とも取れない言葉で返された。
「どうでしょう。ジョーリィはルチアーノ様の薬のお陰で健康になりましたが、騎士団長になれるかは別の問題です。暴力沙汰を好まないあの性格では、荒くれ者を纏めるのは難しいでしょう」
「じゃあ……もしもジョーリィ様がなれない場合は、さっき言っていたサテライト公爵家が騎士団長になってしまうんじゃ……」
「それもどうですかね。陛下が決定するなら、そうなるかと」
「……」
騎士団長という輝かしい地位も公爵にとっては執着の対象にならないんだ……手放しても公爵は今のように淡々と受け入れているだろう。幼い頃の誘拐事件が公爵の性格に大きな影響を与えていると少なくとも私は考えている。元々、先代公爵夫妻に愛されていないせいで淡白な子供だったみたいだけれど……。
「もうすぐ着きます」
話をしている間に会場への距離が近くなっていた。愈々、この日の為に集結した騎士団を見るんだ。その中に問題だらけの第三部隊まであると考えると目が遠くなる。あの時は、第一と第二が不在だったため、第三部隊が王妃殿下の私兵の如く働きをしてくれた。私とお父様、魔導研究所は大いに迷惑でした。
会場へ続く大きな扉を開け、長く薄暗い廊下を無言で歩くお父様と公爵。私も雰囲気に呑まれて無言でいる。
ゴクリと生唾を飲み込み、軈て眩しい陽光が照らされると目を眇めた。
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