&34.順調
落下させた鋭い先端がペリカンに突き刺さる。すると下から大量の黒い粉が噴き上がる。
一瞬にして視界が黒に包まれる。
「やったか!?」
いや安心するのはまだ早い。これでモグラの時はプチッてされたんだ。
……今思えば、あれってただ私の方に倒れてきただけじゃない?
逆立ちみたいな状態で首を斬って、支えを失ったモグラは切れた方向に倒れただけ。伐採と同じ原理だ。その場から動かなかった私が下敷きになるのも納得がいく。
それじゃあ今回。現在私がいる場所、ペリカンに刺さった足場の上。クチバシは足場で固定されてるからこっちに来ることはない。
勝った。今度こそ、華々しい有終の美を飾れる!
両手を上げてポーズを決める。と、地面が揺れた。
うぇっ!? なに!?
身を屈めて警戒する。ペリカンが動き出したのか!?
意識を巡らせて足場の状態を確認する。先端には何もない。うん。異常なし……い?
待て。待て待て待て。
私はペリカンに刺さった足場の上に居る。ペリカンに刺さった……?
今、先端には、何もない。
モグラは倒した後、何も残らずに消えた。じゃあ、ペリカンも……消える?
消えるって居なくなる事で、つまり……!?
落ちた先にあるの、マグマ!
このほっそい足場じゃ、沈む!?
ぬぁーっと!!
ヤバいヤバいヤバい。他に足場はっ、何も見えない……!
足場がマグマに入る。全部は沈まない。けど、浮力か何かで上昇する。足場が、斜めに……!
「どうにかなれー」
頭を思いっきりぶん投げる。黒い粉を抜けて視界が開く。これで足場を見つけて上手く着陸出来れば!
…………て、なんじゃこりゃぁあああ!?!?
開いた視界に映る景色は、溶けていた。
なんだこれなんだこれ!?
崩壊? 崩落? 融解?
敵を倒した。だからこのフィールドはクリアで、次のフィールドに移行するはずだ。その方法が……フィールドの崩壊?
クリアしたフィールドは用済みだから壊すってか。贅沢な使い方!
てかそれなら、プレイヤーを追い出した後でいいだろ。なんで私が崩壊に巻き込まれなきゃいけないんだ!
私は勝者だぞ。褒め称える道理はあっても酷い目に合わせるのは違うだろ。筋を通せ。優遇しろ。
はっ、そうだ!
「シズクちゃん!」
どこ? どこにいるの!?
「さめじぃ」
急に目の前に白い炎が現れた。
うん? どこから出てきた?
後ろから? もしかして私の体、今は頭か、から?
ううん。今はそんな事どうでもいい。
「シズクちゃん、お願い! 私から離れないで!」
きっとどこにも逃げ場はない。このフィールド自体が壊れる。それに巻き添えをくうのは抗えない。
荒野の時みたいに、無意味な抵抗となって終わる。
「私はきっと溶けて、姿が見えなくなる」
全てが溶けてなくなる。地面もマグマも、溶けてなくなる。その後、どうやって次のフィールドに移るのか全く想像が出来ないけど。
その前に私はマグマに溶けてるだろう。その時は原形も残ってない。次のフィールドに移るまで、私はずっと溶け続けてるのかもしれない。
「お願いシズクちゃん。どうか……どうかっ、忘れないで」
私にはどうする事も出来ない。だから願うしかない。シズクちゃんに頼る他ない。
溶けた私は、当然身動きが取れない。その前に意識が保てる保証だってない。アリジゴクに埋もれて、ここに落ちるまでの間、意識がなかった。
でもそれは、もしかしたらシズクちゃんも同じなのかもしれない。
「私は死なない。絶対に死なないから。ずっと一緒に、離れても絶対に見つけるから、だからっ……!」
だから、その後に言葉は続かなかった。
高く投げた頭は放物線を描いて落ちていく。その途中で体が戻って、限界まで抗うつもりだった。ギリギリまでシズクちゃんに想いを告げて安心させる予定だった。
なのに、いつまで経っても体は戻らない。首から下が生えてこない。これじゃあ頭を投げる事が出来ない。
後頭部がマグマに落ちた。そう認識した時には何もかもが手遅れだ。熱さに意識が引っ張られ、その一瞬で頭は沈んで、全ての感覚がなくなった。
* * *
カタカタカタ。
机の上に置いてあった缶が振動して音を発する。それを取って、耳に当てる。
ガガァー
耳障りな音が聞こえる。顔を歪めて舌打ちし、立ち上がる。窓辺に寄ると缶の底から垂れてるワイヤーがピンと張った状態になった。
『炎龍ヅルの消失を確認』
なんとか聞き取れる音になって声が聞こえてくる。
『FK2の消滅を確認』
けれどそれ以降、声は聞こえてこなくなった。訝しみ、手にした缶を見やるとワイヤーが垂れ下がっていた。どうやら引っ張り過ぎたみたいだ。
再び舌打ちをして、缶を放り投げる。甲高い音を鳴らし、床に落ちた缶はヘコんでいた。
それには気にも留めずに親指の爪を強く噛む。
「龍? FK2? 一体なんの事?」
考え込んでいると、静かな部屋にドアをノックする音が響く。続いてドアが開かれる。
頭を下げたデモンが部屋に入り、糸電話を回収するのが視界の端に映る。再び頭を下げてドアを閉めようとする。
「待ちなさい」
声をかけるとピタリと行動を止める。顔を上げ、ドアの隣で頭を下げ続けているデモンを見る。
「アメデビルとツチデビルを連れて来なさい」
デモンは深く頭を下げてから、ドアをそのままに走り去っていった。
分からないのなら、情報を集めればいいだけの事。
簡単な話だ。
「お呼びですか、マザー」
二人のデビルが部屋に入って頭を垂れる。一番目と二番目のデビル。
命令するとすぐさま部屋から出ていった。
それを見送ってから視線を外そうとすると、入れ替わるように十一番目のデビルが入ってきた。
「マザー、お耳に入れたい話があります。新たなデビルが誕生しました。後ほどお連れします」
これでデビルは十三か。だがまだ足りない。もっともっとデビルを増やさなければ。
「それと、こちらを」
そう言って渡されたのは硬玉だった。感嘆の息を漏らして目を細める。その間にデビルは部屋を出た。
全てが順調だ。順調過ぎて笑いが込み上げてくる。
「オーダー」




