&33.自分を信じて
視界いっぱいに広がるクチバシの内側。上に影がかかり、でも下のマグマが仄かに明るい。なんだこの状況。夜かな。夜景かな。クチバシという壁が上から迫ってくる。
クチバシと足場に押し潰される寸前、前もって作っておいた足場に滑り落ちた。けどそれは飛び乗るために作った足場じゃない。その反対に伸ばした足場だ。
ここがどこまで自然の摂理に則ってるのかは分からない。円柱と同じだけ真横に伸ばしたのにポキッて折れたりしなかった。自由落下はあるから重力はあると思うんだけど……ただ地面の耐久性が高いってだけ?
てなると、それを壊すペリカンってどれだけ力が強いんだよ。巨体か? その体のデカさのせいか?
まあいい。細かい事はどうでもいい。考えたって分からないし。
足場の上を駆けて端に向かう。目の前が閉まっていく。クチバシが閉じていく。その間に滑り込むように跳ぶ。
横に見えた分岐点の道目掛けて飛ぶ。壊れてるけど、足場には申し分ない……だろう!
でも、ダメだった。目の前で閉じられた。間に合わなかった。
だからといって止まれない。飛んだ後だから、今空中だから。ぶつかるっ!
思わず目を閉じる。これでぶつかってマグマに落ちるんだ。歯がないから挟まるところがない。クチバシの間にも挟まらないだろう。終わったー。
「…………ん?」
待てども待てどもぶつかる衝撃が来ない。そう思って目を開けると、地獄が見えた。
うん。地獄。
いや最初から地獄だったけど。あーもうっ、ややこしいな!
とにかく、外に出れた。クチバシの外に……ふぎゃ。足場に着地した。もちろん着地は失敗だよ。顔から激突したよ。
顔を上げて後ろを振り向く。ペリカンは顔を上げて、クチバシを開けていた。それは痛みに苦しむ表情のように見える。
「だから言ったじゃないか。危険だぞって」
え、言ってない? そうだっけ?
まあいい。これぞ作戦通り。えっへん!
下クチバシの袋に穴が開いている。そこからマグマが流れて滝のようになっている。ボトボトと流れ落ちるマグマ滝の合間から地面の黒色が見える。その下端が尖っている。
うわっ、思ったより鋭利に尖っている。モグラの爪みたい。でもちゃんとなってて良かった。
縦に伸ばした理由、それがこれ。
うん。正直な話、思ってたのと違う。
クチバシが邪魔だから、どうにかしたかった。それで思いついたのが突っ張り棒。クチバシが閉ざせなくなって焦っている間に決めようって思った。
そう思ってたんだけど……ペリカンがデカすぎて無理だった。縦にも奥にもデカかった。こう、つっかえて、その間に反対に伸ばした足場から外に出て、クチバシの上に移ってって考えてた。
それなのに容易に押し潰されそうになって焦った。急いで円柱の下を尖らせたけど、これはイチかバチかだった。だって見えないし。どうなっているか分からないし。どう考えても認識のしようがない。物理的にムリ。不可能。
でも結果として、下を尖らせる事が出来ていた。しかもそれが袋を突き破る事になるとは思いもしなかった。
なんて運がいいんだ。最高じゃないか。
頭を取ってぶん投げる。もうこの移動になんの疑問も抱かない。便利ー。
「うげっ!?」
ペリカンの背中に向かって投げた頭。体が戻った直後、ペリカンがこっちに振り向いた。
突然振り返るんじゃない!
危ないでしょ!?
自分のクチバシの長さ分かってる?
ペリカンはまだクチバシを開けたまま。でもその中央には、ベロの代わりになるような棒が伸びていた。私が伸ばした足場だ。それがちょうど私を捉えてた。
飛ばされるっ!?
ホームランか!?
いやそれは困る。ホントに困る。せっかく良いところなのに。もうちょっとだったのに。こんなところで、終われない!
「!?」
重圧が抜けていく。
って、体が足場に埋まってく!?
ウソでしょ待って何これ!?
飲み込まれて……!?
この感覚、知ってる。もう、知ってる。体験した。あれは、そうか。こういう事だったんだ。
フシギだった。円柱のテッペンにいた時、直前まで力を使っていた。意識が深いところというか、下の方にあった。
気付いたら触れる距離まで壁が迫ってきてて、すぐには体が動かせれなかった。でも次の瞬間、何かに引っ張られるような感覚がして、足場の上に立っていた。
頭がこんがらがって考えるのを止めたんだ。
だって足場の中に、地面の中に居るって意味が分からないじゃん。
どういう事?
なんで呼吸が出来るの?
なんか感覚が広がった感じがするけど、なあにこれ?
五感のどれとも違う感覚。
まさか、私もシズクちゃんと同じように魂が抜けた……?
だから足場をすり抜けれるって事?
いやぁぁっ……?
抱きしめれる体。
下を見下ろす。
自分の体を抱きしめている私の体が見える。
はえ……?
え、ホントに何これ。誰か教えて。分かりやすく説明して。どうなってんの?
あれ、でも体が軽い。驚くほど滑らかに動く。空気抵抗なんて一切ないみたいな、無重力?
それに、分かる。私が作った足場の状態が手に取るように分かる。変な十字の形をしてて、このまま真っ直ぐ行くと交差する場所につく。
下に下がるとペリカンの袋を突き破った先端に突き当たる。
でも今は下がらない。そのまま真っ直ぐ進んで小さな足場の上に出る。
眼前にはペリカンの喉。前方よーし。
「全力前進、突撃ぃー!」
先端を尖らせてその上に乗る。ヒーンを前に突き出して、持てる最大速度で足場を伸ばす。
このまま喉を突っ切ってやる。
クチバシが動いて、下から山が現れた。
あれは、よく分からない突起……!?
障害物? 邪魔だてするつもりか。
「構うものか。まとめて突き破られるといい」
進路を変えずにひたすら真っ直ぐ伸ばす。小細工はなしだ。正面から迎え撃つ。
突起にあたって進行が止まる。力が拮抗している。
ぐっ、硬い……!
本当に山みたいだ。ビクともしない。進まない。
このままじゃダメだ。もっと強く。いや、もっと鋭く。
面じゃなくて点で。力で押すんじゃなくて、通すように。
形を変える。細く鋭く、でも折れない硬さで。
芯を通す。大事なのは自分を信じてゴリ押す事!
「いっけぇえええ!!!」
プツッと刺さる。それを皮切りに前に進む。
山の中を突き進む。黒い粉が詰まってるからか、真っ暗闇で何も見えない。
でもそれも程なくして、先端に感じる圧がなくなる。光が見える。外だ!
この程度で止められる私じゃない。進めぇー!
喉にぶち当たって、貫く。次はホントの外に出た。
ふぅ〜、シャバの空気ー!
だけどペリカンはまだ消えてない。これでも足りないのか!?
伸ばすのを止めて、振り返って足場を斬る。完全には切れてなくて、皮一枚で繋がってるような宙ぶらりん状態。
鋭い先端が下を向いて、私は断面の上に立つ。揺れが収まってから残った部分を斬って、ペリカンの上に落下させる。
「これでどうだ! やったか!?」




