&32.脳筋なのか
空中で身動きが取れない私の体が、防ぎようもないほど大きく開いたクチバシの中に入り、無情にも閉じられた。
あっちぃー!
熱湯に押し入れられてる気分だ。熱すぎて手足をバタつかせて暴れる。意味ないって分かってても熱さに体が勝手に動く。
うへー、肌赤くなってるよこれ。見えないけど。
溶けたのか体の感覚がなくなる。その溶けるまでの僅かな時間がツライ。
もう一瞬で溶けてくれればいいのに。熱いと感じる前に、触れると同時くらいでいいからもう溶けていいよ。これなら温度を感じれない方が良かった。
げんなりしているとペリカンと目が合う。
あっ、バレた。
「……ハロー?」
とりあえず挨拶しとこ。えへっ?
うわっ、こっち来た!?
だから速いって。なんだよそのスピード!
飛ぶより泳ぐのが速いってお前鳥だろ。逆だろ。なんだなんだ。まさかと思うけど飛ぶのも実は速く出来ますよとか言うんじゃないだろうな。ダメだよそれは。反則だよ。
せっかく遠くに投げて離れたのに、すぐに追いつかれる。もうちょっと戸惑えよ。
再びクチバシを開かれる。
よし。体が戻ったぞ。ナイスタイミング。
頭を取って、遠くに向かって投げる。
うわっ、回転がかかった。最悪。
クルクル回る視界の端に、ペリカンに比べてものすごく小さい私の体が食べられるのが見えた。
ぎゃーぁあっちーぃ!
ああもうこれエンドレスだ。早いとこ手を打たないと私がただ苦しむだけだ。
どうする。どうしよう。どうすれば……!?
体が戻って、再び頭を投げる。次の瞬間、すぐ横で大きな音が響く。
ペリカンがすぐそこまで近付いていた。気付かなかった。見ていなかった。危ない危ない。
体が戻ってすぐに足場に着地する。タイミングピッタシ、ってよりはギリセーフだ。顔から着地して引き摺って止まった。いい加減、キレイに着地したいものだ。落ちなかっただけマシだけど。
ペリカンは、と顔を上げると、もう迫って来ていた。だから速いって!?
慌てて走り出す。と、すぐ後ろで轟音が響き、地面が揺れた。
後ろを振り向くとペリカンが道を突き破っていた。ジオラマを壊す猫かよ。強引だな! 賢いのか脳筋なのかどっちかにしろや!
うぐぅ、地面が揺れて走りにくい。ペリカンがグネグネと蛇行運転してるよ。退路を潰しながら追いかけてるよ。
ここなぁー、他に道が続いてないんだよなー。
このマグマ池自体が行き止まりのようになってる。それもあって、ここはおあつらえ向きの場所だって思ったんだ。
私が着地したのがちょうど他の道と接する地点だった。そこじゃないと勢いに負けて落ちると思ったから。んで今は池の円周とも言える道を走ってる。
そうだよ。他の道へのたった一つしかなかった繋がりがさっきぶっ壊された。この先、終点は破壊された行き止まりに当たると決まってる。
もう逃げ場はない。まあ頑張れば切り抜けれると思うけど。頭投げて頭投げればね。
でもそれじゃあイタチごっこだ。いつまで経っても何も変わらない。いや、私が不利になる一方だ。熱くて体がダルいし、疲れを感じ始めてきてる。眠たくなってきた。遊び疲れた小学生かよ。
なんか、このフィールドに来てから妙な疲れを感じるようになった。疲れるのは当たり前の事なんだろうけど、荒野でのずっと動きっぱなのを経験してからだと、今の方が変な感じに思う。フシギだ。最初からだ。
ううん。心まで後ろ向きになってちゃダメだね。
うん。頑張るぞ。えいえいエイオー。
「ヒーン」
円周を半分ほど走ったところでヒーンを出す。後ろではペリカンがつかず離れずの距離で虎視眈々と私を狙っている。なんならバリバリ足場を壊していってる。はあ、怖い怖い。
道を伸ばすこの力は、地面に触れてるのともう一つ条件がある。それは認識するという事。視覚でも触覚でもなんでもいいけど、どこをどのように伸ばすか、実際に伸びているのか把握していないといけない。
一番は視認だ。これが最も正確で把握しやすい。さすが五感で最も優れている感覚だ。
少し離れた場所の道を伸ばす事も出来る。もちろん、触れている地面と地続きでなければいけないけど。
私が居る場所と伸ばしてる道との距離によっても伸びるスピードに差がある。近ければ速いし、遠いと遅い。伝達性やらを考えれば納得出来る。そんなのあるかって気はするけど。
当たり前だけど直接触れてる場所を伸ばすのが一番速い方法になる。
とまあ今分かってるのはこんな感じだ。後は一本ずつしか伸ばせないってとこか。それと使ってるとだんだん疲れてくる。
次が最後の攻撃になるかな。疲労度的に。
でもモグラの時と同じで、いけるって自信がある。
根拠はない。火事場の馬鹿力ってやつ?
ヒーンを地面につけて引きずりながら走る。うーん。やっぱり遠いから、伸びるスピードがとても遅い。
後めっちゃ疲れる! 二つの事を同時にやってるから? そういえば動きながら力を使うなんて初めてだ。力を多用するのは止めた方がいいかもしれない。今はそんな事言ってる暇なんかないけどね!
道の端、走りながら縦に伸ばした円柱の前につく。その頃には円柱は見上げる高さまで伸ばせていた。それでもペリカンのデカさに比べたらまだまだで、バスケットゴールぐらいの高さかな。
中間の高さに足場を作って飛び乗る。一段二段と登って頂上。振り返るとすぐそこまでペリカンが来ていた。大きく縦に開いたクチバシは私が伸ばした円柱よりも大きい。
テッペンに居るってのに、目の前が口の中とかどうなってんだ!?
おいおいおい。コイツまさか、縦で食おうとしてないか!?
それは危険だぞ。つっかえても知らないぞ。
「力で押し潰す気か!? やっぱり脳筋なんだな。そんなんだろ」
手を地面につけて力を使う。けれどすぐに大口開けたペリカンが迫り、伸ばした円柱を丸ごと飲みこんでクチバシを閉ざした。




