&T19.夢を見ていたような
レグレグが教えてくれたミサキの塔に着いた。着いた、けど……。
「ねえこれ、どこから入るの?」
「さあ……?」
困ってしまった。リンカと二人して首を傾ける。
テッペンが見えないミサキの塔をぐるりと一周回った。だけど入れるようなドアはなく、それどころか窓すらなかった。リンカに見てもらったけど、やっぱりずっと壁になっているらしい。
「建物自体に機能はなく、ただの目印なのかもしれないな」
「でも、そんな場所にレグレグが行かせるかな?」
ここに来たのは別れる前にレグレグが次の場所と教えてくれたからだ。神器の場所まで案内してくれたレグレグが意味のないことをするとは思えない。
「それは……そうだよなぁ。扉のない塔、か。何かから守っている? お城とかなら隠し通路がありそうなものだけど」
塔の壁や辺りの地面をペシペシと叩く。シナイはリンカ自身だから、自分から当たりに行ってるのかな。それとも手を伸ばすような感覚なのかな?
「アイはどうすれば入れるか、わかる?」
「コレに入口はない。中に入る事は出来ない」
アイはレグレグと別れて少ししてから起きた。神器を二つ手に入れた事を言ったら褒めてくれた。
また話せるのと褒めてくれたのと安心したのですごくすっごく嬉しかった。
「それより最後の神器を手に入れる方が優先。まずは持ち主を探すところから……」
「でもここまで来て何もせずに帰るのはもったいなくないか?」
「何度も時間の無駄だと伝えた。それを無視してここに来たのはタロウとリンカ」
「それはっ、そうだけど……」
ミサキの塔は地図の左側、フシギに伸びているところの先にあった。イスリンにいたときも気になっていたから一回来てみたかった。アイはすごく反対していたけど、ちょっとくらい寄り道してもいいと思う。
それになんだか、この中に大事なものがある気がする。そんな気がするんだ。
「うーん、何もないなぁ」
壁をぺたぺた触っても何もない。模様も何もなくて寂しい感じがする。
コンコンとノックしても硬くて音が出ない。どうしよう。
「ひらけごま……おーぷんさしみ」
「刺し身じゃなくてセサミ……っタロウ!」
塔がパァっと光って、眩しくて目をつぶる。
「……っ。あ、あれ? アイ……? リンカ、どこ!?」
目を開けると真っ白い場所にいた。腕の中にいたアイも上にいたリンカもいない。上も下も前も右も後ろ左も白。白い、白くて、真っ白。
「アイーっ、返事してー! ……わっ、なに、これ……?」
急に目の前にテレビのような四角い画面が出てきた。後ろに回って覗いても画面は真っ黒だった。試しに触ってみたけど、なぜか触れなかった。透明なものみたいに通り抜けた。
パッと画面が付いて白くなった。驚いて手を引っこめる。
『Mon.1=R4 おはちめぐりはじめのね
今日は絶好のお散歩日和。行って帰るまでが遠足です。前の人の後に続き、はぐれないように注意しましょう』
文字が出てきた。と思ったら画面ごと消えちゃった。早いよ。全部読めてないのに。
後ろから風が吹いて、振り返ると目を見開く。
「わぁ……!」
青くて白い大きな山。他の山より大きくて、空と雲が切り取られたみたいにキレイ。
それから気づいた。おれが立っている場所が白くない。崖の高い所。下は雲があって落ちたら大変だ。
ピーッっと鳥の鳴き声みたいな音が聞こえて上を見上げると、何かが猛スピードでこっちに向かってくる。
「うわあ!?」
思わず腕でガードする。でも、待っても何も起きなくて、恐る恐る目を開いて腕の間から覗く。
目の前にナスがある。……ナス?
横を見れば大きな鳥さんがとまっている。鳥さんの背中に乗っているネズミさんがぴょんぴょんと跳んでいる。身振り手振りで何かを伝えようとしている、気がする。
「え、えっ!? ……これに乗れ、ってこと?」
うんうんと大きく頷いた。これ、ナスに乗る……? ナスの下には四つ棒が刺さっていて、どこかで見たことがあるような形だけど、なんだっけ?
ジーッと見てくるネズミさんの視線に耐えきれなくて、とりあえずナスに乗る。するとふわりとナスが浮いた。えっ、飛んでる!?
「わわっ、ええ!?」
前を飛ぶ鳥さんの後を追うようにナスが飛んでる。
な、え……ってか、早いー!?
鳥さんがグルンって回るとナスも同じように回る。振り落とされないようにナスにしがみつく。絶対、この動きはしなくていい!
頭の上を何かが通った気がして顔をあげる。前から何かが飛んできてる!? あれ、アレ、あおぐやつ、えっと……扇子だ。なんで扇子が……っ、今度は下から煙が出てきた。
「わぁぁあああああ」
ナスの動きが激しくなった。なんかずっとぐるぐるしてるー。もう何がなんだか……うぅ、目が回って――
ポンポンと頭を叩かれる。
「うぅ……つ、ついた……の?」
浮遊感がなくなって、目を開けると地面が見える。叫んだのとしがみついてたのでヘロヘロになって体に力が入らない。横に倒れるようにナスから落ちた。
まだ気持ち悪いぃ……。なのに急かすように頭をペシペシと叩かれる。
「あ、あと……五分……」
叩く力が強まった。痛い、痛いって。もうちょっと待ってよ。
守るように頭を押さえて叩いてくる相手を見るとネズミさんがぴょんぴょんと飛び跳ねている。目が合うと今度は手を回す。
「ついてこい、ってこと?」
少し離れると立ち止まって、こっちを見てくる。よろよろと起き上がってネズミさんについて行くとまた前に走っていく。でも途中で止まって待ってくれてる。
そうして追いかけていくと神社があった。鳥居をくぐるとネズミさんが鈴を鳴らす。
これは、手を合わした方がいいのかな……?
近付こうとしたらその前にネズミさんが移動した。立てかけてある葉っぱの形をした楽器、その前に立つと背を伸ばす。弦に手を伸ばしてベンベンって音を鳴らした。すると急に強い風が吹いて、反射的に目をつぶる。
風が止んで目を開けると山が見えた。青くて白い大きな山。
「……あれ? ここって、最初の場所?」
戻ってきたみたいだ。なんだか夢を見ていたような気分。でも最初と違ってドアがあった。場違いで存在感のある白いドア。装飾も何もないのっぺらなドアにノブがついてるだけだった。
「開けて……いいのかな?」
周りを見ても特に何もない。ネズミさんはいないし、鳥さんもナスもない。うーん、と考えてちょっと待っても何も起きないからドアを開ける。くぐるとまた真っ白な場所に出た。でも最初と違ってすぐ目の前に画面があった。
『Mon.2=O5 よみのくにふくはうし
地獄見学へようこそ。ここでは地獄について学びます。しっかり学習しましょう』
「ち……? 漢字が読めない」
見学だから見て回るんだよね? てことはこの地なんとかは場所の名前? この漢字は習ってない……よなぁ。
画面が消えて後ろから風が吹く。分かってきたぞ……って、アッツ!? えぇ!?
慌てて振り返るとその光景に目を見張る。黒い山にでっかい火事。……えっ、もしかしてあそこに行くの!?
「ウソでしょ……」
ウソだと言ってくれ、と思ったところで目の前に白い牛さんが現れた。全身真っ白の牛さん。黒い模様がなかった。そして牛さんは荷台を引いていた。
「マジか……」
これに乗れってことだよね。そういうことだよね。えー、マジで? ……マジかぁ。
牛さんはパタパタとしっぽを振ってこっちを見ている。うぅ、乗るしかないか……。
荷台にのぼるとすぐに牛が歩き出した。まっすぐ崖に向かって、そのまま空を歩く。
うーん、なんとなく想像してた。空を飛ぶって。でもそのまま過ぎて感動がない。スゴいことなのに。
透明な床の上を歩いているみたいだ。揺れなくて快適だけど。さっきのナスよりは全然良い。
「そういえばこれ、なんだろう?」
荷台には何もないわけじゃなかった。スピーカーとパンパンに詰まった袋が置いてあった。
「ガガ……あーあー、マイクテスマイクテス。私の声聞こえてますかー?」
「わっ、あ、はい……?」
スピーカーから急に声が聞こえた。ビックリしたぁ。思わず角に逃げたけどちょっと落ちかけて心臓バクバクしてる。危ない。本当に危なかった。
「本日は地獄見学にご参加いただきありがとうございます。ガイドは私、ホーンが担当させていただきます。どうぞ最後までお楽しみください」
じごくけんがく……ジゴク!? ジゴクってあのっ、天国の反対の!? 悪い人が落ちるっていうあの場所!?
「それでは初めに見学するに当たっての注意事項を説明いたします。ここ、地獄では罪深き罪人を罰するため看守が休みなく働いています。疲労疲弊が積もり積もって盲目になっているため、動くものに反応して追いかけてきます。追いつかれると地獄に引きずり込まれてしまうので袋に入っている豆を投げて追い返しましょう」
えっ、えっ? なに、豆!?
袋の中を見ると豆が入ってる。ジゴクって鬼がいるんだよね? 鬼に豆、って……節分?
「右手をご覧下さい。三途の川が見えます。三途の川にはおじいさんとおばあさんがおります。おじいさんは子供に石積みをさせ、おばあさんは亡者の服を剥ぎ取ります」
なんかこの説明、嫌だなぁ。怖い。声に感情がなくて淡々としているのが余計に怖い。
「さて、正面に見えますのが有名な閻魔大王です。右手に持つ鏡でスキャンすると悪行が映し出されます。質問に嘘をついた場合は左手に持つ釘抜きで舌を抜かれます」
でっかーい。うわ、舌抜かれてる。痛そう……。嘘ついたらジゴクに落ちるって聞いたことあるけど、こういうことだったんだ。……あれ? ここはジゴクだから、もう落ちてる?
「門をくぐりましたら第一の地獄、等活地獄に入ります。等活地獄は殺生をした者が落ちる地獄となっております。死者は列になって歩き、虫が皮を破り肉を食むシデイショ、猛火に包まれ熱鉄が降るトウリンショ、鉄のかめで熱せられるオウジュクショ、 縄で縛られ杖で打たれ断崖絶壁から突き落とされるタクショ、真っ暗闇で闇火や熱風が吹き荒れるアンミョウショ、炎の口をもつ鳥や犬や狐に食われるフキショ、 鉄火で焼かれ断崖絶壁を落ち続けるゴククショの順に回ります」
説明が続くけど聞いてる場合じゃない。鬼が……鬼が走って追いかけてくるーっ!?
「ひぃーーーっ!」
袋を抱き抱えて豆を投げる。とにかく投げまくる。
「続いて第二の地獄、黒縄地獄に入ります。黒縄地獄は――」
もう、もうなんでもいいから早く終わってーーーっ!
「――……はあ、はあ、お、終わった……の?」
鬼が追いかけて来なくなって少しして景色が止まった。ゴールかな。ゴールだよね。ゴールだと言って。
「お疲れ様でした。八大地獄は存分にお楽しみいただけましたでしょうか。これにて地獄見学は終了とさせていただきます。足元にお気をつけてお降り下さい。それではこの後もお気をつけて、いってらっしゃいませ」
荷台から降りるとネズミさんの時と同じような神社があった。鳥居をくぐると牛さんが鈴を鳴らす。
でもその後は何もない。ジーッと牛さんと目が合ってる。なんだろう、この時間。
「わっ、わっ、わぁ!?」
のそりのそりと牛さんが近付いて来て、グイグイとおれを神社から押し出す。バランスを崩して転んで手をつく。
目の前の地面が緑色で、見学の時はずっと赤か黒だったから珍しいと思った。でも頭を上げれば白いドアがあって、後ろにジゴクが見えた。やっぱり最初に戻ってる。同じ道を通りたくなかったから普通に嬉しい。
「次はなんだろう? ていうか、いつまで続くんだろう」
答えが返ってこない疑問をつぶやきながらドアを開けて、次の場所へと移動した。




