呪文2 本
新しい生活
新しい環境
全てが新鮮なものの中
唯一昔からあるもの
永遠に消えない友情という名の絆
最もソレは
互いの存在に気付かなければ
意味の無いもの…………
焔華たちが入学して、はや一週間が過ぎていた。
ほとんどの生徒は次の日から始まった授業についていくのに精一杯だった。そんななか、焔華は、よく図書室にいくようになっていた。もともと一人で本を読むのが好きな焔華にとって、図書室は宝の山のようなのだ。今は昼休み。焔華は今日も図書室にむかっていた。ただし、今日は本持参だが。昨日、氷華に言われて買った「魔法辞典」という本だ。魔法というだけあって、メールの中にかいてあった精霊のことや、セイレムの魔女裁判のことなど魔術関係のことがかなり書いてあった。知識としてはあまり必要ないと思ったが、知っておくのも悪くないと思い昨日から読んでいるのだ。
『ところで、メールの相手は分かったのか?』
(まだよ。パソコンだったら簡単だったけど、携帯は使い慣れてないの)
氷華の問いに心の中で答える。本来氷華との会話は、口に出さずとも良いのだ。それに、ここは学校。人前で声に出して話していたらただのあやしい人でしかない。はあ、とため息をついて、廊下の角をまがる。そのときだった。
『危ない!!』
「え? って、うわあ!!!」
角をまがったとたんに、大量の本を持った少女とぶつかってしまったのだ。二人はお互い尻餅をついて………、焔華の上には、大量の本が落ちて来た。
『……。だから言ったのだ。大丈夫か?』
氷華が苦笑まじりに、うずくまる焔華にむかって言う。大丈夫じゃない、と心の中で言い返し、
涙目になりながら頭を押さえていると上から、声がした。
「あのー? 大丈夫ですかー?」
その、のんきそうな声の主は。入学式の朝、電柱に頭をぶつけた少女だった。
「……あのー?」
少女はもう一度きいてくる。その顔は笑顔だった。いやみっぽいとか、そういうのではない。
ただ、笑っていた。ふつう、こういうときは心配そうな顔をするのではないか。焔華は、文句を言おうと思っていたのに、呆れてなにも言えなくなってしまった。まわりに誰もいないのが幸いだ。こんなところ、見られたくはない。
すっと、目の前に手が差し出される。焔華はその手をはらいのける。パシンと小気味よい音が響く。そのまま少女を無視して立ち上がり、床にちらばった本に目を向けた。
「ケルト民族の秘密? セイレムの魔女裁判?」
本のタイトルを読み上げて少女を見る。名札には、宮園と書いてある少女。どこからどう見てもお嬢様なこの少女が、なぜ魔術関係の本を読んでいるのだろう。趣味………かもしれないが、それにはジャンルがバラバラすぎる。この宮園という少女の家は、魔術に興味のある一族なのだろうか?
そのとき、だった。
「!!」
二人の携帯が、同時になった。メール着信だ。
焔華がうすいブルーの携帯をとりだすと、宮園もうすいピンクの携帯をとりだす。
来たメールの内容を見て、二人の表情が変わった。
<誰も寄せつけない炎
誰も近寄らない風
二つは出会い友となる
そして二つは気付くだろう
自らの分身に>
「なに……………これ?」
「あー。またですか………」
二人は同時に言った。
『炎とは……おそらくお前のことだろう。風は…………』
氷華は、宮園をみた。
「ちょっと、そのメール、見せて!!」
「いいですよー?」
焔華は宮園に言い、宮園は承諾した。メールの内容は……。
二つとも、まったく同じだった。
「どういうことなの?」
『おそらくは、宮園とやらが風だろうな』
「ねえ、あなた、名前、なんていうの?」
声が震えている。自分でも分かるくらいに。なぜかは分からない。けど………
多分、氷華の予想は当たっている。そしてそれは多分、何かが始まる事を告げている。
宮園の、答えは。
「あ、宮園です。宮園風音」
そして、炎と風は出会った。
☆ ☆ ☆
「うん。順調に進んでるね」
高いビルの屋上に、一人の少女がいた。茶色い髪の少女。長さは腰までで、目も茶色。そしてその顔は……。焔華と氷華にそっくりだった。
「あの二人、なんで自分たちの顔がそっくりなのか気付いてないでしょ? 焔華も氷華も鈍感だか
らなあ。おまけに、氷華にいたってはまだ気付かないしなあ………。」
少女の髪を風が揺らす。
「髪を染めて誤魔化したつもりでも、地華には分かるよ。でも予定外だなあ。あの二人が 同じ体になっちゃうんなんて。ちょっとつまんないかも」
「ま、いっか。どーせ勝つのは地華だもんねー。今度こそ返して貰うよ…………」
地華は不気味に笑うと言った。
「闇の雫を」
次の瞬間、そこに地華の姿はなかった。
「へー。そうなんですかー」
図書室に、のんきそうな声が響く。
「私も聞いただけだから良く知らないけど」
後から聞こえる、もう一つの声。そう、焔華と風音は図書室に来ていた。二人とも、それが本来の目的だったのだ。その途中で、偶然にも出会ってしまったのだ。
ちなみに、なんの話しをしているかと言うと、最初のメールの話だ。風音は、メールの意味が分からず、色々と本を調べていたらしいのだ。風音にきていた英文のメールは、シルフが一番上になっていた。氷華いわく、
『何か理由がある』
らしいのだが、その何かが分からなければ意味がない。そして二つ目のあのメール。
(分身って、一体何よ!? 訳が分からない………)
『と、わたしに言われてもな……。 …ところで焔華よ』
(何?)
『風音とかいう女……。おまえの携帯でなにかしているが?』
「!? なにしてるの!?」
みれば、風音が焔華の携帯と自分の携帯をくっつけている。しばらくすると、聞き慣れない音楽がなった。
「これでよし。はい。焔華さん」
「あ、ありがと………、ってなにしたの!?」
「あー。電話番号とアド交換したんです。焔華さんの中に私の入ってますから。あ、私の事は風音ってよんでくださいねー」
「………」
「あ、そろそろ予鈴鳴りますねー。じゃあ、わたしはこれでー。またメールしますー」
始終マイペースである。風音がさったあと、焔華は、自分の携帯を見ながら呟いた。
「風っていうより、嵐………」
『風はどちらともとれるからな』
「……?」
氷華の言葉に首をかしげる。
『風は、時には全てを包み込む優しい風であったり、逆に全てを薙ぎ倒す鋭い剣になったり。あ あ、水もそうだな。そういう意味では、あの女、風にピッタリな性格をしていると思うが』
(ふうん………)
予鈴が鳴った。焔華は立ち上がると、自分の教室へ帰って行く。その後ろ姿を遠くから見ていたのは………。地華だった。
「あははっ。おもしろーい。みんな、転生しても性格かわんないんだー。まあ、私が変わってな いんだから、あたりまえかー」
そのとき、すっと、地華の後ろに人が現れた。黒いフードをかぶっている。
「お呼びですか?」
「うん。帰り道。焔華……ううん。焔華姉と氷華姉ね。あー、風音も一緒にいたほうがいいなあ。気付かせるのよ? 自分の分身に」
「御意……」
風が吹いたと同時に、黒いフードの人は消えた。
「早く思い出してもらわないと。自分が何をしたか。他のヤツらはともかく、氷華姉だけは許さない……。前はおたがい死んでしまったけど、今度はそうはいかないわ……」
地華は、顔をゆがめる。
「それに……。あの女、闇の雫だけでなく、光の雫ももってるんだもの……」
地華の声は、風の中に消えていった。