12時(2)
異世界から勇者を召喚するのがどれほど大変なのか私にはよくわからない。大変だというのはもちろんわかる。だが、そのために何を用意したのか、どんな準備を進めたのか、一切が隠されていたためだ。一応、自身の師であるウィルに訊ねてみたが、
「知らん方がいい」
と、返された。どうやら本当に知らない方がいいことがあるらしい。
そして、訓練が続けられる中で一つの疑問が浮かんできた。一応私たちは魔王を倒すという目標に向けて邁進しているが、魔王を倒した後、あるいは魔王を倒す前に私たちが反旗を翻すことは考えていないのだろうか、と。そうウィルに尋ねたら、こちらはあっさり答えてくれた。
「そうか、疑問に思ったか」
「今のところ反旗を翻すとか考えてないけどね」
「そうなのか?」
「こっちで生きてく術がないからね」
「現実を見てるというわけか」
「まあね」
「なら教えてやろう。この国の王族は、生まれながらにしてあるスキルを授かっている」
「スキル?」
「逆にいえば、授かっていない者はたとえ長子でも王族どころか貴族からも籍を抜かれる」
「平民になるってことね。どんなスキルなの?」
「勇者無効。勇者による攻撃が一切効かないという、まさに勇者を召喚するためだけのようなスキルだな」
「うへえ」
勇者無効……私からの日常的な接触以上の攻撃はすべて無効化される。そして他にもいくつか。そう、精神干渉を防ぐようなスキルも乗り越えてくる。パーティ会場で私に薬を盛ったときみたいに。
魔王を倒し、元の世界に帰ることを最優先にしていたので、そのスキルの効果を実際に見たことはなかった。しかし、地面を数十センチ程抉るような魔法なのに、本人に届く手前で効果が消えているのを見て、面倒で厄介な相手だと理解した。さて、このとても面倒な状況、どうしようか。
『そうか。まわりの騎士を攻撃すればいいんだ』
『『『ちょ?!』』』
王子に魔法が効かなくても騎士には効く。そしてまわりの騎士がいなければモニカと王子の一騎打ちなんて形も取れるよね。王子もそれなりに剣の腕は立つそうだけど、モニカには及ばないでしょう。
『近くにいろ。俺の周りにもある程度は効果があるはずだ』
『はっ!』
『ありがたく』
『失礼します』
『では、私は後ろを』
『前、失礼します』
オッサンの集合体ができた。ま、これはこれで狙い通り。
『ほいっと』
魔法ではなく、錬金術を発動させる。対象は王子を取り囲んでいる騎士の、さらに外側の地面。ズズ……と地面が盛り上がり、ドーム状にして閉じ込めれば完成だ。
『あとは……強化!』
『実里……えげつないな』
『褒め言葉として受け取っておくわ』
多分中で暴れてると思うけど、壁を叩いたところでびくともしない重量と硬さになっているので、叩いているかどうかさえもわからない。
クルリと振り返った先にいた村上さんに「終わりました」と目で訴える。百年経っても日本人の本質は変わっておらず、ちゃんと察してくれた。
「ええと……アレで終了、か?」
「一応」
「通行の邪魔になりそうなんだけど」
「あれ、空気孔を作ってないのです。だからすぐに片付くんじゃないかなって」
「なるほど。しばらくの辛抱……アレ、いつまで放置するんだ?」
「中がおとなしくなった頃?」
そのまま地面ごと沈めて地下数十メートルに埋めてしまうのが一番手っ取り早いかな?こんな考えが出る時点で、かなり異世界の考え方に染まってしまったな、と思う。
ちなみにあのドーム自体はかなり頑丈で、彼らの武器や魔法でどうこうできる次元ではないけれど、実は地面はそのまま。なので「穴を掘れば出られるのでは?」と気付けば簡単に出られるはず。普通なら気付くだろうけど、あの中、現在すごい人口密度だからね。わかりやすく言えば、六畳間に完全武装した男たちが三十余名。むさ苦しいことこの上ない環境で、まともな思考ができるかな?
「そうそう、一つありました」
「何だ?」
「あの連中の中に魔法で地面に穴を開ける魔法を使える者がいるかも知れません」
「な?!お、おい!それじゃ壁の下を抜けることも……」
「大丈夫ですよ。普通の人なら、人が通れる穴なんて二、三メートルも掘れば魔力が尽きますから」
「そうか」
脱出できるほどの穴を掘れるのは私くらいですよ、と。
「でも、もしかしたら脱出できるかも知れないので、見張りはしておいた方がいいかも」
「わかった」




