23時
「空間転移……と」
ふわりと、教室の床に降り立った。
時刻は夜11時まであと数分。
高校にいるような日でも時間帯でもないけれど、見届けるために来た。
こっそり侵入するのは普通なら難しいところ、空間転移を使えば一瞬。ちなみにもちろん今まで普通に登校しているからね?そこは誤解のなきよう。私は真面目な高校生ですから。
「……結界解除」
パキ、と結界が解除される音と同時に、教室の真ん中に虹色の謎空間に繋がる扉が現れた。私が無理矢理作り出した空間内にあった、異世界と繋がる扉。
「……」
扉が消えるまであと五分少々か。向こう側ではモニカが誰も立ち入れないように目を光らせていることだろう。
あの後モニカは記憶の宝珠を受け取らなかった。
私の説明を聞いた彼女はひと言こう言った。
「それは私のものではない。受け取れない」
あっちのモニカが言ったとおりだった。
「おそらく受け取らないと思う」
「そう……」
「ああ。私なら受け取らない。私であって私ではない者の記憶などもらっても困る、と一蹴するだろう」
なるほど、モニカのことはモニカが一番わかっているんだねと、私は彼女の意見を尊重し、その場で宝珠を破壊した。その代わりと言ってはなんだけど、あっちのモニカが書いた、ことの顛末を書き記した手紙を渡した。
召喚で私だけが現れた理由、王子をぶっ飛ばした理由、これからなすべきこと……そんなところまで書かれていて、モニカは目を丸くしていた。
「これは……確かに私の筆跡……」
「うん。それじゃ、あとのことはよろしく」
「わかった……その、なんだ」
「ん?」
「迷惑をかけてしまったのだな。申し訳ない」
「……モニカが謝ることじゃないわ」
「それはそうかもしれないが、筋は通したい」
「ありがとう。気持ちだけでもうれしいわ」
「そうか」
そして、帰還の宝珠を使い、戻るための扉を生成。くぐり抜けるときにモニカがポツリと呟いた。
「何この見やすいまとめ方……」
「え?」
「ああ……いや、その、一枚目に要点だけ書かれていて、二枚目以降に詳細が書いてある。この書き方だと一枚目だけ見れば、とりあえず言いたいことは伝わるのだな、と感心してな……本当にこれは私が書いたのか?」
「そうよ。私の知ってるモニカはとっても優秀な、王国の盾となる騎士、よ」
実際には手紙を書くにあたって私も色々アドバイスしたんだよね。主なアドバイスはウィルね。
『ええと……拝啓、モニカ・トリエス『そこ、いらないでしょ?』
『しかし、手紙には決まった書き方が』
『自分で自分に出すんだから、関係ないでしょう?』
『それもそうか』
『それと、一枚目にざっと要点だけ書いておきましょ』
『え?』
『あんまり向こうにいたくないから、ぱぱっと伝わってほしいのよ』
『しかし、それだと』
『細かいことは二枚目以降』
『ううむ……となると……』
『実里様、モニカ様、このような書き方でどうでしょうか?』
『おお、ウィル、さすが!』
貴族の手紙って面倒なんだなとか、王国では業務的な報告もそんなふうにダラダラ書くものだとか知らされた。要点だけまとめるってできないのかしらね?
もちろん、重要なところは余すことなく書き連ねておいたから、王国……いや、女神がいったい何をしでかしたのか、しっかり伝わるはず。王国を含めたあっちの世界だけの話じゃないってことが。
あとは彼女とその家族が頑張ってなんとかしてくれるだろうと祈りつつ、扉を見つめる。
この扉が消えればモニカとは二度と会えなくなる。
開いた扉の中の虹色に輝いているのが一度強く光り、消えた。
「モニカ……さようなら」
すべてが終わった。
明日からはまた元のような高校生活に戻れるんだ。私が人間やめちゃってるのを除けば。
「さてと、帰って寝よ」
なお、体を改造しすぎた結果、年をとりづらい体になっていたことに気づくのは数年後の話。普通の生活ができないことを嘆きつつも、どうにか暮らしていくことになるわけだけどそれはまた別の話。




