表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神愛 ─ 永遠の刹那 ─  作者: 神愛
第4章 中学生編 ― それぞれの場所 ―
118/134

第11話 おうち通信改革2

数日後の昼下がり。

玄関のチャイムが軽く鳴り、天野家の静けさを区切るように玄関へ外気が流れ込んだ。


「天野さん、荷物です」


宅配業者の声が玄関に響く。


「ありがとうございます!」


雪杜は軽く頭を下げ、笑顔で段ボール箱を受け取った。

受け取った瞬間、すぐ横から影が伸びてくる。


御珠が、宝箱を見る子どものように覗き込んできた。


「これが、ほーむるーたか?」


「うん!早速使ってみよう」


雪杜は居間へ戻り、こたつの前で箱を開封する。


手早くテープを剥がすと、中から白い本体が姿を現した。

御珠の目がきらりと輝く。


雪杜は説明書を手に取り、さらりと目を走らせた。


「電源入れるだけでいいらしい」


御珠が「そんな簡単で良いのか?」と言いたげに眉を動かしたが、雪杜は気にせずコンセントに挿す。


スイッチを入れた。


本体のランプがぽつ、ぽつ、と順番に灯り、呼吸を始めたように光が安定していく。


「お、起動したっぽい」


雪杜はスマホを開き、Wi-Fi設定の画面を操作し始めた。

数秒後、画面の端に見慣れないSSIDが表示される。


「接続成功!」


「おお!」


御珠は胸の前で手をぱたぱたさせるほど感激していた。


雪杜が YouTube のアプリを開く。

読み込みの丸いアイコンが、いつもよりずっと速く消えた。


「動画がサクサク見れる……!」


御珠も自分のスマホを握りしめる。


「妾も試してみるぞ!」


彼女は勢いよく再生ボタンを押した。

画面が止まることなく滑らかに動き、音声が居間に満ちていく。


「おお……!動画が見放題なのじゃ……!」


その姿は本当に嬉しそうで、どこか神々しさより“年相応の少女”に近かった。


「次は Fire TV だね!」


二人は同時に笑い、こたつ越しに顔を見合わせた。


新しい生活が、そっと始まる瞬間だった。


―――


あくる日の放課後。PC室。

蛍光灯の白い光の下で、キーボードを叩く小さな音が途切れ途切れに響いていた。

昨日のWi-Fi導入の余韻が残っているのか、雪杜はどこか浮ついた様子でモニターを覗き込んでいる。


「Fire TV も何種類かあるけど、結構縛りが多いみたいだな」


画面には口コミサイトの文字が並んでいた。


《もっさりしてる》

《リモコンだと文字入れずらい》

《ブラウザしょぼ》

《ネトフリで倍速再生できない》


雪杜はスクロールしながら、こめかみを軽く押さえる。


「御珠と YouTube 見るだけなら問題なさそうだけど」


そこへ、隣の席から声が滑り込んだ。


「……ミニPC」


「ミニPC?」


雪杜が顔を上げると、駆が淡々としたまま画面を指している。


「TVの裏に置ける小さいパソコン。最近流行ってる」


「そんなのあるの!?」


驚きに声が跳ね上がる。

駆は無駄のない動きで別のウィンドウを開いた。


「ある。Amazonで5万円くらいするけど」


「うーん、ちょっと高い」


「Wi-Fi 繋げれば普通のパソコンと同じになる。

 YouTube も見られるし、家計簿つけたり、なんなら開発もできるぞ。

 家で小説書けるんじゃないか?

 あとな……」


駆はそこで声量を落とし、小さく囁いた。

雪杜の耳元へ、言葉がするりと滑り込む。


内容は聞こえない。

それでも確実に、“男子が喜ぶ何か”だった。


次の瞬間、雪杜の瞳がきらりと光る。


「買おう。5万円なら惜しくない」


「はは。現金なやつ」


駆が呆れたように笑ったその時、背後から人の近づく気配がした。


「雪杜よ。決めたのじゃな」


振り返ると、御珠が腕を組んで立っていた。

目だけが鋭く、それでも興味に揺れている。


「御珠。聞いてたの?」


「うむ。何やら不穏な言葉が聞こえたが、まぁよかろう」


雪杜は途端に耳まで赤くなる。


「Amazonって言ってたけど、クレカがないからまずは家電量販店に行ってみよう」


駆は苦笑しながら首を振った。


「量販店にはほぼ置いてないぞ。

 アマギフ買えば、クレカがなくてもチャージできるからそれにするといい」


「え!?そうなの!?

 コンビニでアマギフを5万円分買う中学生か……」


「まぁガチャにどはまりするヤツもいるし、そう珍しくないだろ。

 あとキーボードとマウスもいるからな。

 無線のヤツがいいぞ」


雪杜は深く頷き、胸の前で手を握りしめる。


「何から何までありがとう。

 一家に一台、駆だね」


「だからそれやめろって」


そんなやり取りに、別の席から小さな声が落ちた。


「……駆くんは、便利。

 ……渡しませんよ」


史がじっと雪杜を見つめていた。

その鋭さに、雪杜は慌てて手を振る。


「うわ、ごめんて」


―――


結局アマギフを6万円分チャージし、駆おすすめのミニPCなどを注文してから数日後。

天野家の玄関チャイムが、待ちわびたように明るく鳴った。


「天野さん、荷物です」


「ありがとうございます!」


雪杜は段ボール箱を受け取り、腕にずっしりと重みを感じながら靴を脱ぐ。

次の瞬間――御珠が音もなく飛び込んできた。


「来たのじゃな!」


声は弾むというより、跳ねている。


「よし、セットアップしよう!」


二人は居間へ駆け込み、テレビの前へ座り込んだ。

まだ新しいホームルータの隣に、今度はミニPCの箱が加わる。


雪杜は慎重に梱包を解き、黒い小さな本体を取り出した。

手のひらサイズなのに、存在感だけは一等大きい。


居間の大型テレビの裏へ回り、HDMI端子へ差し込む。


「よし、接続……っと」


ブスっと差し込む音がして、数秒後にテレビの画面が切り替わった。


「おお!」


御珠も画面に釘付けで、神秘を目撃したみたいに目を見開く。


Wi-Fi設定を済ませ、雪杜はYouTubeのアイコンをクリックした。

読み込みが一瞬で終わり、トップページがどーんと大画面に表示される。


「成功!」

「やったのじゃ!」


雪杜と御珠はこたつの上に身を乗り出し、大画面の迫力に見入った。


「画面が……大きいじゃと……!?」

「綺麗だね!」

「これは素晴らしいのじゃ!」


御珠は嬉しさを隠しきれず、マウスで次々と動画を選び始める。

手元のスマホより操作が楽なのか、勢いが右肩上がりだ。


「雪杜、これを見るぞ!」

「おお、面白そう!」


二人は笑い声を混ぜながら、いろんな動画を大画面で楽しんだ。

居間が、動画の明かりと二人の声でやわらかく満たされていく。


――そして数本の動画を見た頃。


「CM邪魔だねー」

「うむ。またなのじゃ。このつらは見飽きたのじゃ」


御珠は腕を組み、CMを睨むような顔をしている。


雪杜はスマホを手に取り、考えるように呟いた。


「YouTube Premium に入るか。

 Google のギフトカードで支払いできるみたいだし」

「うむ。任せるのじゃ」


大画面での暮らしは、まだ始まったばかりだった。


―――


深夜の天野家。

家全体が寝静まった静けさの中、そっと襖が開く音がした。


雪杜が足音を殺し、居間へ忍び込む。


畳の上に散る薄い月明かりと、テレビの黒い画面。

その前に小さく座り込み、ミニPCの電源を入れた。


電源ランプが赤から青に変わり、画面がゆっくりと光を帯びる。


(……おお。凄い迫力……)


大画面に映し出された“目的の映像”が、夜更けの居間を満たす。

音量は極限まで絞られているのに、それでも十分に存在感があった。


(買ってよかった……)

(駆、ありがとう)


雪杜は背筋を丸め、周囲をうかがいながら、それでも画面から目を離せない。


こうして雪杜は、後ろめたさを抱えつつも、自分を落ち着かせる逃げ道をひとつ増やした。


――そのころ、寝室。


(……雪杜、良いのじゃ)


布団の中で御珠が微かに目を開けた。

暗闇の中、その表情には僅かな寂しさと、静かな優しさが滲んでいる。


雪杜がいたはずの枕元には、勾玉が置かれ、それが“来ないで”と拒否しているようで悲しくなる。


彼女は自分の手をそっと見つめた。


(この手で、雪杜を慰めてやれたなら……)


細い指が布団をかすかに掴む。

触れたいのに触れられない、その距離がいつもより胸に迫った。


御珠は静かにまぶたを閉じる。


(……雪杜がおのよどみを放つ術を得たのなら、良かったのじゃ)

(妾は……そっとしておくしかないのじゃな)


夜更けの静けさに、彼女の息がふわりと散っていく。


(なんとしても十八までに克服せねば……)


やがて、夜はゆっくりと更けていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ