#46「変態伯爵、爆発し女の子へ変体する」
チャピの視線が鋭くノクトを射抜いた。
その隣で、いつもの薄ら笑いを浮かべたまま、恭しく頭を垂れている。
「……貴様は一体何を考えている……」
チャピの声は冷たかった。
だがノクトはまるで聞こえないかのように、俺に向かって芝居がかった声を響かせる。
「我が君。さあこれからどこに参りましょうか……どこまでも、お供いたします」
「……やめろ、その呼び方は!…気持ち悪い」
俺は大きくため息をつき、眉をひそめる。
「言っとくけど、俺はまだお前のことを信用したわけじゃないからな!」
ノクトはうっとりした目でこちらを見つめる。
「では……どうすれば信用いただけるのでしょう」
「……そうだな」
俺は少し考え込み、ぞんざいに吐き捨てた。
「じゃあ祭壇の秘密を言ってみろ」
ノクトは一瞬真剣な表情をすると、左手を腰に回し、右手を唇に添える。
芝居の続きを演じるように考え込む姿が、いっそう気持ち悪かった。
しばらく考えこむと、右手を唇に添えたまま頷いた。
「……ふむ。試してみますか」
意味深に呟くと、にやりと笑みを浮かべる。
「では……祭壇の秘密ですが。実はあれは――や」
その瞬間。
ぼかーん!!
ノクトの上半身が、音を立てて爆ぜ飛んだ。
視界に残ったのは、下半身だけで直立する異様な姿。
「なっ……!?」
思わず俺は息を呑む。
だが次の瞬間、残った下半身から肉が伸び、骨が軋み、筋肉が形を取り――。
上半身がずるりと再生していく。
裸の上半身をむき出しにしたノクトは、平然と姿を整え、また唇に指を添えた。
「……やはり。魔族の秘密は口にすることができないようですね」
「無理にしゃべろうとすれば……今のように爆発してしまう」
顔を上げると、愉悦の笑みを浮かべて続ける。
「いやはや!私が伯爵の位を持つ大魔族でなければ、今ので消滅してしまうところでした」
となぜか爽やかそうにそう告げて、俺を見つめてきた。
背中に悪寒が走る。
俺は気味悪さを隠さず、ノクトを睨んだ。
その視線を受けて、ノクトが身を震わせる。
「ああ!! ……そんな視線を向けられると……ときめいてしまいます!!」
「やめろ!男にときめかれても気持ち悪いんだよ!」
「我が君は、男がお嫌いなのですか?」
ずいっと俺の目の前まで距離を詰めてくるノクト。
「男に言われるのが気持ち悪いの!」
俺は慌てて一歩後ろへ引いた。
ノクトはしばし考え込む。
やがて何かに気付いたように顔を上げ、薄ら笑いを浮かべる。
「では……元の性別に戻りましょうか」
「……はっ!?」
意味不明な言葉に固まる俺。
ノクトの全身を黒いもやが包み込み――。
もやが晴れたとき、そこにノクトの姿はなかった。
「これでいかがでしょうか!我が君!!」
視線の下から声が響く。
思わず見下ろした俺の目に映ったのは――。
深淵のように澄んだ長く青い髪の、小さな女の子が立っていた。
生意気そうな薄ら笑いを浮かべて……上半身裸のまま。




