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#33「魔道飛行船の町と、爆光の洗礼」

チャピと移動し始めて二十日ほどたった。


俺たちが目指すのは魔道飛行船の発着する町。魔道都市ルーメンポート。


その町で魔道飛行船にのって海を越え、風の大陸、シルフィードへ向かうことになっている。

船で行けないのか聞いてみたが、時間がかかるとのことで空路で目指すそうだ。


固く踏み固められた土の道を進んでいく。

両脇には高木が連なり、街道そのものが森の回廊のように続いている。


陽光は枝葉に遮られ、昼でも薄暗い。

それでも荷馬車の轍や旅人の足跡が絶えず刻まれていて、人の往来を感じさせた。


背中にぴったり張り付いたルミナスが、ふさを揺らす。

歩き疲れを癒すように、微かな光がちらついた。


道中、チャピから世界のことをいろいろ教わった。


五つの大陸――それがこの世界を形作る骨格だ。


炎の大陸 《イグナリス》

火山と温泉に囲まれた地で、剣と修験の文化が根付いている。

獣人を多く抱え、戦士民族として知られている。


風の大陸 《シルフィード》

山岳と都市国家が点在し、哲学や詩歌が盛んな大陸。

精霊王が眠ると伝えられ、吟遊詩人とエルフの文化圏が広がっている。


大地の大陸 《グランディア》

氷河と鉱山が支配する厳しい環境。

ドワーフや巨人が根を下ろし、ルーン伝承を受け継いでいる。


海の大陸 《ネレイディア》

群島国家で成り立ち、航海術と星読みの文化を誇る。

歌や舞を大事にし、波に乗る民とマーマンが共に暮らす。


そして俺たちが今いる光の大陸 《ルミナリア》

王都には大聖堂と誓約石碑があり、文明と秩序の中心とされる。

人間を中心に栄え、規律と戒律が重んじられている。


……こうして並べると、ゲームの設定みたいだな。


そして俺自身についても教えられた。


俺の持つ力は光の浄化。

魔物、そして闇の眷属――すなわち魔族すら打ち滅ぼす力だという。


……いやいや、俺はただの清掃員だ。

本来なら床の染み一つ落とすので手一杯なはず。

それなのに、この世界じゃ光の女神の使徒みたいに扱われる。


正直迷惑な話だ……俺は掃除ができればそれでいい。

光の使徒なんて荷が重すぎる…。


回想にふけりながら歩いていると、ふいに木漏れ日の色が変わった。

いつの間にか森の出口に差しかかっていたらしい。


枝葉の隙間から差し込む光が一段と明るくなり、視界が開ける。

目に飛び込んできたのは、丘の向こうにそびえる巨大な都市だった。


石壁の外周から天へ突き抜けるように伸びる塔。

そのさらに上空に、巨大な影がゆるやかに浮かんでいた。


それは一隻の魔道飛行船。


雲を切り裂き、陽光を浴びた帆布は白銀に輝き、

大気そのものを震わせるような低い唸りを響かせている。


「……あれが、ルーメンポート……」


思わず声が漏れる。

ただの町じゃない。まるで空と地を繋ぐ巨大な門のようだ。


背中のルミナスが、ふさを揺らしてかすかに光を散らした。

まるで「ここからだ」と告げるみたいに。


胸の奥がざわつく。

ただの掃除屋に、ここはあまりに大きすぎる舞台だ。


丘を下り、街道をしばらく進むと、やがて石壁の前に人の波が見えてきた。

商隊の荷馬車、冒険者風の一団、巡礼の修道女、そして旅人。

それぞれが検問所へ列をなし、都市へと入っていく。


門は鉄格子ではなく魔法陣で覆われていて、淡い光が人や荷をひとつずつ照らしていた。

身分を偽る者や禁制品を持ち込む者を見抜くためらしい。


「……さすが魔道都市だな。入るだけで緊張感がある」


やがて俺とチャピの番が来た。

身分を確認され、魔法陣の上に足を踏み入れる。

淡い光が足元から立ち上り――次の瞬間、眩しい閃光に包まれた。


それは眩かった。あまりにも眩すぎた。


「うおおっ!?」

「目が、目がぁぁっ!」


門番も旅人も一斉に悲鳴を上げ、あたりは大混乱になる。

目の前の商人なんて、その場でしゃがみ込んで涙目で転げ回っていた。


「……え、なにこれ。俺、なんかした?」


慌てて後ずさる俺をよそに、背中のルミナスがぶるっと震えて光を散らす。

まるで「面白いからもっとやれ」と煽ってるみたいだ。


やがて光が収まると、門番が顔をしかめながらぼやいた。


「おい、お前……何を仕込んでやがる?」

「ちょ、ちょっと待て!俺、何もしてないって!」


俺の抗議もむなしく、門番たちは腕を組んで睨みつけてくる。

結局そのまま詰所に連れていかれる羽目になった。


石造りの小さな部屋。

机と椅子、それに魔法具が並び、取調室というよりは検査場といった雰囲気だ。


「怪しい魔道具は持っていないか?」

「身分証は本物か?」

「いったいそのモップはなんだ!?」


矢継ぎ早に問いかけられるが、俺の答えはひとつ。


「俺は……清掃員です」


その瞬間、沈黙。

門番たちは一瞬だけ目を丸くし、次に同時にため息をついた。


結局、何も怪しいものは出ず、魔法陣の不具合ということで落ち着いた。

ようやく解放されて外の空気を吸ったときには、もうぐったりだ。


「……ったく、なんで俺だけこんな目に」


石壁の外に戻ると、入口近くで腕を組んだチャピが待っていた。


「ほら、これで証明されたじゃない。光の使徒って」


「……ただ、光っただけだろ!」

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