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田村への誠実な対応

未来と遥斗が恋人として過ごし始めてから一週間が経った。学校でも自然に手を繋ぎ、お互いを支え合う関係になっていた。


火曜日の昼休み、未来がお弁当を持って文芸部の部室に向かっていると、廊下で田村と出会った。


「あ、桜井」


「田村くん、こんにちは」


「こんにちは。文芸部?」


「うん、遥斗くんと一緒にお昼を食べる約束をしてるの」


田村は、未来の幸せそうな表情を見て微笑んだ。


「そっか。時田くんとは、上手くいってる?」


「うん、とても」


「良かった。桜井が幸せそうで、俺も嬉しいよ」


田村の純粋な祝福の言葉に、未来は改めて彼の人柄の良さを感じた。


「田村くん、ありがとう。本当に優しいね」


「そんなことないよ。でも、桜井が選んだ相手なら、きっと良い人なんだろうな」


「うん、遥斗くんはとても優しくて、一緒にいると安心できるの」


「それが一番大切だよね」


田村との会話は、以前と変わらず自然で温かかった。恋愛関係は終わったが、友人としての絆は続いている。


「それじゃあ、俺は学食に行くから」


「うん。また後で」


田村と別れて部室に向かう途中、未来は彼への感謝の気持ちを新たにした。あれほど理解ある反応を示してくれる人は、そうそういない。


部室に入ると、遥斗が既に席で待っていた。


「お疲れさま」


「お疲れさま、遥斗くん」


「今、廊下で田村くんと話してたでしょ?」


「うん、少しだけ」


遥斗の表情には、嫉妬ではなく、少し心配そうな色があった。


「大丈夫?気まずくない?」


「全然。田村くんは本当に理解してくれてるから」


「そうか……良かった」


遥斗の安堵した表情を見て、未来は彼の優しさを改めて感じた。


「遥斗くんは、田村くんのことをどう思う?」


「正直に言うと、最初は複雑だった。未来ちゃんを好きになった人だから」


「そうよね……」


「でも、今は感謝してる」


「感謝?」


「田村くんが未来ちゃんを支えてくれたから、記憶が戻った時も混乱せずに済んだ。それに、最後まで紳士的に対応してくれた」


遥斗の言葉に、未来は胸が熱くなった。


「遥斗くんらしい考え方ね」


「僕は、未来ちゃんを愛してくれた人なら、誰でも感謝したい気持ちがあるんだ」


その日の放課後、体育祭以来久しぶりに、田村が一人でバスケの自主練習をしているのを見かけた。未来は、遥斗と一緒に体育館の外から見ていた。


「田村くん、一人で練習してるのね」


「集中して練習したい時があるんだろうね」


田村のシュート姿は、相変わらず美しかった。真剣に取り組む姿勢に、未来は改めて彼への尊敬の気持ちを感じた。


「遥斗くん、田村くんに声をかけてみない?」


「え?」


「三人で話してみたいの。きちんとお礼も言いたいし」


遥斗は少し迷ったが、未来の提案に頷いた。


「分かった」


二人は体育館に入った。


「田村くん、お疲れさま」


「あ、桜井、時田くん」


田村は汗を拭きながら振り返った。


「邪魔しちゃった?」


「いや、ちょうど休憩しようと思ってたところ」


田村はボールをラックに戻して、三人でベンチに座った。


「田村くん、改めてお礼を言いたくて」


「お礼?」


「私が混乱してた時、ずっと支えてくれて。それに、最後まで理解してくれて」


田村は少し照れたような表情を見せた。


「そんな、当然のことをしただけだよ」


「でも、誰にでもできることじゃない」


遥斗が口を開いた。


「田村くん、僕からもお礼を言わせてください」


「え?時田くんから?」


「はい。未来ちゃんが記憶を失っている間、あなたが大切にしてくれたおかげで、彼女は孤独にならずに済みました」


田村は、遥斗の言葉に驚いた。


「時田くん……」


「それに、最後まで紳士的に対応してくれて、本当にありがとうございました」


遥斗が深々と頭を下げると、田村は慌てた。


「そんな、頭を下げないでよ」


「いえ、これは僕の本心です」


田村は、遥斗の真摯な態度に感動していた。


「時田くん、君は本当にいい人だね。桜井が君を選んだ理由が分かるよ」


「ありがとうございます」


「俺も、桜井と時田くんが幸せになってくれることを心から願ってる」


三人の間に、温かい空気が流れた。


「田村くん、私たち、これからも友達でいてくれる?」


「もちろん。むしろ、こちらからお願いしたいくらいだ」


「ありがとう」


「それに、時田くんとも友達になれたら嬉しい」


田村が遥斗に向かって言うと、遥斗も嬉しそうに頷いた。


「僕も、ぜひお友達になってください」


「よろしく、時田」


「よろしくお願いします、田村くん」


二人が握手を交わす様子を見て、未来は胸が熱くなった。


その後、三人は軽く雑談をした。田村の将来の夢、遥斗の小説への想い、未来の文芸部での活動について。


「時田の小説、読んでみたいな」


「はい、いつか自分の作品を出版できたらと思っています」


「すごいな。俺には文章を書く才能はないから、尊敬するよ」


「田村くんのバスケも、僕には到底できません。お互い違う分野で頑張りましょう」


「そうだね」


話しているうちに、三人の関係は自然と友人関係に落ち着いていった。


「そろそろ帰ろうか」


体育館を出る時、田村が振り返った。


「今日は、声をかけてくれてありがとう。なんだか、すっきりした」


「こちらこそ、ありがとう」


「時田も、ありがとう。君と話せて良かった」


三人は、それぞれの帰り道で別れた。


家に帰った未来は、今日のことを母親に話した。


「田村くんと遥斗くんが友達になったの。すごく良い雰囲気だった」


「それは良かったわね。みんなが幸せになれて」


「うん。三人とも、大人な対応ができたと思う」


美津子は、娘の成長を感じて嬉しくなった。


「未来、あなたも随分大人になったのね」


「そうかな?」


「人を傷つけないように配慮しながら、自分の気持ちにも正直になった。それって、簡単なことじゃないのよ」


母親の言葉に、未来は少し照れた。


その夜、遥斗からメッセージが届いた。


『今日は田村くんと話せて良かった。いい人だね』


『うん。三人で友達になれて嬉しい』


『未来ちゃんの提案のおかげだ。ありがとう』


『私も、遥斗くんが田村くんを理解してくれて嬉しかった』


『これで、みんなが幸せになれるね』


『うん。明日も楽しみ』


『おやすみ、未来ちゃん』


『おやすみ、遥斗くん』


翌日の学校では、三人の関係に変化が見られた。廊下で会った時も自然に挨拶を交わし、時には三人で談笑する姿も見られた。


昼休み、未来が教室で田村と話していると、遥斗もやってきた。


「こんにちは、田村くん」


「あ、時田。よう」


「お昼、一緒に食べませんか?」


遥斗の提案に、田村は嬉しそうに頷いた。


「いいね。屋上で食べようか」


三人は屋上に上がり、青空の下でお弁当を広げた。


「天気がいいと、外で食べるのも気持ちいいね」


「そうですね。空が青くて、気分が良くなります」


「時田の弁当、手作り?」


「いえ、寮の食堂で作ってもらったものです」


「寮生活って、どんな感じ?」


田村の質問に、遥斗は寮での生活について話した。健太との友情、規則正しい生活、勉強に集中できる環境について。


「なんだか楽しそうだな」


「確かに良い面もありますが、家族と離れているのは少し寂しいですね」


「そっか。でも、桜井がいるから寂しくないでしょ?」


田村の言葉に、遥斗は照れながら答えた。


「はい、未来ちゃんがいてくれるおかげで、毎日が楽しいです」


「それは良かった」


未来は、二人の自然な会話を聞いていて、とても嬉しかった。


「あ、そうそう。今度の文化祭、見に来てくれる?」


「文化祭?」


「文芸部で部誌を発行するの。みんなの作品が載るから、良かったら読んでほしいな」


田村は嬉しそうに頷いた。


「もちろん。楽しみにしてる」


「僕の小説も載る予定です」


「へえ、時田の小説か。どんな内容?」


「恋愛小説です。実体験を基にした作品なので、少し恥ずかしいですが」


「実体験って……まさか」


田村が未来を見ると、未来は顔を赤らめた。


「遥斗くんったら……」


「でも、素敵な恋愛小説になりそうだね」


「ありがとうございます」


昼休みが終わって教室に戻る時、田村が二人に言った。


「今日は楽しかった。また一緒に食べよう」


「うん、またね」


「ぜひお願いします」


教室に戻った未来は、えみに今日のことを話した。


「へえ、田村くんと時田くんが友達になったのね」


「うん。とても良い関係になった」


「それは素晴らしいわね。三角関係って、普通はギクシャクするものなのに」


「みんなが大人だったからかな」


「未来ちゃんの人柄もあると思うわ。人を大切にする人だから、周りの人も優しくなるのよ」


えみの言葉に、未来は少し照れた。


その日の放課後、文芸部の活動で、美桜が嬉しそうに話しかけてきた。


「未来先輩、田村先輩と時田先輩が仲良くなったって本当ですか?」


「うん、昨日から友達になったの」


「すごいですね。普通だったら、気まずくなりそうなのに」


「みんな、とても理解のある人たちだから」


「私も見習いたいです」


美桜の言葉に、未来は優しく微笑んだ。


「美桜ちゃんも十分優しいわよ」


「ありがとうございます」


その週の金曜日、田村が遥斗と未来に提案した。


「今度の休日、三人でどこか行かない?」


「え?」


「友達になったお祝いも兼ねて。映画でも見に行こうか」


未来と遥斗は顔を見合わせた。


「どう思う?」


「いいんじゃない?」


「それじゃあ、お願いします」


こうして、三人で映画を見に行くことになった。


日曜日、三人は渋谷の映画館で待ち合わせた。


「おはよう」


「おはようございます」


選んだのは、友情をテーマにした青春映画だった。


「この映画、評判いいらしいね」


「楽しみです」


映画を見ている間、三人は自然と物語に引き込まれた。主人公たちの友情に感動し、時には笑い、時には涙ぐんだ。


映画が終わった後、カフェで感想を話し合った。


「良い映画だったね」


「本当の友情って、あんな感じなのかもしれませんね」


「俺たちも、ああいう友情を築けたらいいな」


田村の言葉に、遥斗と未来は頷いた。


「もう築けてると思うよ」


「そうですね。今日、三人でこうしていることが、その証拠だと思います」


「そっか。それじゃあ、これからもよろしく」


「こちらこそ、よろしく」


「よろしくお願いします」


三人は、友情の証として乾杯した。


帰り道、田村が振り返った。


「今日は楽しかった。また遊ぼう」


「うん、また誘って」


「ぜひお願いします」


三人の新しい友情は、こうして始まった。恋愛関係は終わったが、それ以上に価値のある絆が生まれていた。


未来は、自分の選択が正しかったことを改めて実感した。誰も傷つけることなく、みんなが幸せになれる関係を築くことができた。


これもまた、愛の一つの形なのかもしれない。

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