追放
「アゲート姫、本日をもってあなたを城から追放する」
そう宣言したお父様の顔はひどくこわばっていた。
こんな日が来るんじゃないかとずっと恐れていた。
なんとなくこのお城は自分の居場所じゃないと感じていたから。
そんなことをいうと、ばあやは「子供というのはだれしもそんな悩みをもつものですよ」と慰めてくれたけれど、私のは違う。
城は私の居場所じゃなかった。
私の生い立ちから話そう。
私の父と母は恋愛結婚をしている。
政略結婚が普通の世の中で珍しく二人の物語は吟遊詩人によって繰り返し語り継がれ、街では劇まで上演されている。
父が王子だったとき森で死にかけた母を救っい見初めた。
そんなロマンチックな物語は民衆の支持を集めた。
だけれど、ふたをあけてみれば、母だって隣国のお姫様だし、父といえば母の綺麗な死体を見つけただけ。
身分の差などなく、中断されていた政略結婚の話が二人の出会いによってとんとん拍子にまとまっただけなのだ。
母は王妃になった今も劇中の『白雪姫』なんて愛称で呼ばれている。
運命の出会いをした二人のハッピーエンドの先には一人の子供がいた。
それが私、アゲートだ。
白雪姫と王子が結ばれたのちに生まれた、たった一つの愛の結晶アゲート姫。
最初はそんな風に歌われていた。
だけれど、私が成長するにつれ、私のことを口にする吟遊詩人は減って言った。
だって、私はちっともお母さま――白雪姫――に似ていないのだから。
雪のように白い肌をもつ白雪姫に対して、私の肌は小麦の色をしていた。
黒檀のように真っ黒で艶やかな髪をした白雪姫とは違い、私の髪は色こそ黒いけれどカールしていた。
血のように赤い可憐な唇をした白雪姫とは違い、私の唇は赤いけれど分厚く主張が激しかった。
私は白雪姫には半分しか似ておらず、王子には全く似ていなかった。
それもそのはずだ。
私は白雪姫と王子の子供ではないのだから。
私は白雪姫と七人の小人のうちの誰かとの子供なのだ。
つまり、半分はドワーフの血が流れている。
そのことに気づくまでに、そう時間はかからない。
魔法の鏡なんてなくたって、鏡をみれば教えてくれた。
逆に言えば、よく今日までこの城に住まわせてもらえたなと感謝しているくらいだ。
おそらく、見て見ぬふりをしていたのだろう。
見て見ぬふりは、綺麗な女の死体を愛したいというあのむっつりスケベであり、女性恐怖症気味の王の特技である。
私が追放された理由、それはうっかり怒りに巻かせて母親をドワーフの魔法で石に変えてしまったからである。