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絶望と女神の協奏曲:第三楽章

 とある世界において、主神リアリーと聞けば誰もが平伏し、崇め讃える存在だ。その慈愛に満ちた表情は人の心にある邪なものを払うともまで言われている。

 しかし、今の彼女を見てそう思う者はいないだろう。怒りに満ちた表情は全てを殺さんかの勢いだ。それは、辺りの空気をギュウギュウと雑巾を絞るかの様に締め上げていく。恐らくここに人が居たならば、この空気に殺られてしまうだろう。だが、そんな空気を物ともせずに笑っている者が目の前にいた。


「やっと本心を表したか。この糞虫女神が」


 顔は笑っているのに、言っていることは明らかに殺気を放っている彼?は彼女の近くまで行き、髪を引っ張りながらこう言った。


「今のお前ごときに何ができるんだ?自分の部下すら守れない無力なお前が、どの口で私にそんな事を言っているんだ?」


 彼?は思いっきり彼女の頬を平手打ちした。「うっ」という、呻き声がリアリーの口から漏れるが、すぐに口を結んでこれ以上弱い自分を見せない様にする。


「はぁ、お前はまだ自分がしでかした事の意味がわかっていない様だな。」


 反省の色を見せない彼女に、彼?は少し呆れる。すると、今度はリアリーの方が口を開いた。


「私の娘達の二人をこの様な姿で殺す奴に私は屈しない!例え私が悪いのだとしても、この娘達をここまでする必要は無いはずだ!決して貴様だけは許さない!」


 怒鳴りながら撒き散らしたリアリーの暴言に今度は和泉梨々香が鼻で笑った。それを、信じられないかの様な目で見ると、彼?の方にさらなる怒りと殺気を込めた視線を向けた。


「貴様!リリーに何をした!」


 そう言い放つと、今度は彼?が鼻で笑った。


「お前、本当に脳なしだな。私がそんな事をして何になる。この娘がそもそも、どこの世界の住人かを考えれはすぐにわかるだろう。」


 彼?の見下した様な目はさらに彼女の怒りを強くする。しかし、彼?の言葉は思いの外、リアリーに届いていた。彼女は和泉梨々香を敵を見る様な目でなく、生徒を怒る先生の様な目で見つめながら問いかけた。


「あなたは本当にそれでいいの?あなた達が守ろうとした世界を、あなたの最愛の彼が、シュンが守ろうとした世界を、こんな簡単に終わらせても構わないの?」


 リアリーが発したシュンという単語に和泉梨々香はピクリと反応した。それを見ると、ここぞとばかりに、攻め立てる。


「彼は最後に言ったわよね。あなたに、この世界を任せたって。その言葉を聞いて、あなたはあそこまで頑張ったんじゃないの?彼の意思を失わせたくなかったから、あなたは女神になったんじゃないの?あなたは、そんなんで彼等に顔向けができるの?」


 段々と、和泉梨々香の様子が目に見えて変わっていった。下を向きながら、何かを思い出す様に下唇を噛み締めている。彼女にとって彼?の事はそれほどまで強烈だったのだ。


「あなたが本当にやりたいことは、やりたかったことはこれなの?あなたは一体何がしたいの?」


 彼女が意を決した様に、顔を上げると歩き出した。彼?はそれを黙って眺めている。


「・・・リリー」


 何かを求める様にリアリーが彼女をを呼んだ。それに対し、和泉梨々香は


「ふざけんな!この便所虫が!」


 人生で初めて出した怒鳴り声と共に、大振りの平手打ちを食らわした。


「わかった様な口を聞くな!#俊__しゅん__#は、あなたにそんな風に利用される為に勇者になったんじゃない!」


 和泉梨々香は、絶え間なく平手打ちをリアリーへと叩き込んでいく。


「俊は!俊は優しい人だった!交通事故でまともに歩けない体だったから彼は知っていたの!自分が人の迷惑をかける人間だって!人は一人じゃいられないって!だから、彼は本当に嬉しがってた!あなたに体を治してもらって、人の役に立てる勇者になれて!」


 彼女の目から大粒のダイヤの様に光る雫がポロポロと落ちていく。


「人の役に立てるのが本当に嬉しそうで!みんなの期待に応える為に必死で!こっちが心配してるのに、自分のことは全部後回しにして!」


 彼女の手はリンゴのように真っ赤になっているのに、それでも平手打ちをやめない。


「そんな、そんないい人だったのに!私が好きな人だったのに!お前は!世界は!彼を救わなかった!自分達がしなければいけない事を、全部彼に押し付けて!なのに!すぐにみんなは、彼の事を忘れようとした!あんな必死頑張った彼を!」


 少しずつ、平手打ちの威力が弱くなっていった。既に、和泉梨々香の方は手が動かすだけで、痛みを感じる。リアリーの方は顔を真っ赤に腫らしている。もう、先程までの彼女の姿はそこにはなかった。

 それでも、最後の力を振り絞りながら、和泉梨々香はリアリーに平手打ちを続けた。


「私は彼と一緒にいるだけでよかったのに!彼の笑顔を見れればそれでよかったのに!彼の隣にいられればそれでよかったのに!」


 和泉梨々香のくぐもった涙声は、亀が歩くようにノシリノシリと辺りに響いた。


「私はあなたを許さない!彼に責任を押し付けたあなたを許さない!彼を救ってくれなかったあなたを許さない!私の大事な人達を奪ったあなたを許さない!彼の死を利用しようとしたあなたを許さない!」


 ピチッという、音を最後に和泉梨々香は平手打ちが止まった。もう、彼女の腕すら言うことを聞かなくなっていた。ふらふらとする彼女を、彼?が後ろから支えた。


「よく頑張ったな。少し休んでなさい。後は我々の仕事だ。」


 そう言って、彼女をゆっくり座らす。そして、先程までとは容貌が変わってしまったリアリーを見下しながら彼?はつまらなそうに話しかけた。


「これが、お前のしでかした事の1つだ。助けてもらった"人"への恩を仇で返す。あまつさえ、そいつを利用してまた"人"を騙そうとする。全くもって救いようのないやつだ。お前が今から与えられるのは、まさしくそのことに対する天罰だ。」


 彼?は一瞬、まばゆい光を辺りに散らすと、元の女性の姿に戻った。


「さあ、我が愛しい国民を泣かした罪。そして、私への無礼千万の数々の罪。償ってもらうぞ」

 


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